アマゾンの作り方「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」

綿密な取材によりアマゾン創業者ジェフ・ベゾスを追った力作。

とにかく丁寧に、幼少時代からはじまり、アマゾンがどのように立ち上がり、最初はバーンズ&ノーブルなどの大手書店、続いてトイザらスやウォールマートのような巨人たちから、ザッポスやクイッドシーのようなベンチャーと対抗してきたのか、その間に打ってきたロジスティクス、カスタマーレビュー、アマゾンプライム、マーケットプレイス、AWS、キンドルなどの戦略の裏側から、人事や企業文化まで事細かに描かれています。

思ったのは、今では当たり前になっている上記の施策ですが、当時は本当に手探りで、様々な手法が試され、星の数ほどの失敗の中からビッグヒットが生まれてきたということです。本書によるとアマゾンも膨大な数の失敗を繰り返しており、ほんの少し正解の数が多かっただけなことが分かります。しかし、それが決定的な差になっています。

なので、ビジネスをする上ではとにかく正しいと思われる施策を大胆に考えて、試行回数を増やしてすばやく正解か間違いかを判断していくことがとにかく重要なんだと再認識できました。

ベゾスのやり方には極端なところもありますが、非常に合理的なのに夢もあって、個人的にモバイル・コマースのビジネスをしていることもありものすごい勉強になりました。何度か読み返そうと思ってます。

<抜粋>
・「あなた方は物理的な店舗を持っていませんよね。そのうち、この問題が原因で伸び悩む日が来ると思いますよ」 細身のスターバックス創業者が、ふたりのためにコーヒーを入れつつこう切り出すと、ベゾスが正面から反論する。 「いや、月まででも行けると思っていますよ」
チェーン展開しているバーンズ&ノーブルがオンライン事業を本気で進めるのは難しいはずだとベゾスは読んでいたし、この読みは正しかった。ごく一部にすぎないオンライン事業で損失を出すのはいやだと考えたリッジオ兄弟は、優秀な社員の投入をためらった。利益率の高いリアル書店での販売が低下する恐れがあるからだ。
・立ち上げ期のアマゾンで働いた人々のなかには、ここまで強烈ではないかもしれないが、同じような想いを抱く人が多い。皆、説得力のある教義を説いたベゾスを信じ、金銭的には十分に報われた。だがそのあと、冷たい目の創業者に捨てられ、経験豊かな人々に交代させられた。
・「そうかもしれないね。でも一点だけ指摘しておこう。新しい販路に注目してすばやく開拓するといったことは、リアル店舗を持つ既存の小売業者にとって以外なほどやりにくいことなんだ。いや、企業というのはそれぞれに手慣れたやり方というものがあって、みんなそうなのかもしれない。ともかく、そのあたりのことをみなさんは過小評価している気がする。本当のところどうなのかは、そのうちわかるんじゃないかな
このとき、誰よりも大きくインターネットに賭けたのがジェフ・ベゾスである。ウェブの登場で会社にとっても消費者にとっても世界が大きく変わると信じたベゾスは、迷うことなく前に突きすすんだ。このころ、ベゾスはこうくり返していた。 「ウチの会社は評価が低すぎると思います。アマゾンの将来像を世界が理解できていないのでしょう」
・当時は、多くの人が使うほど製品やサービスの価値があがるというネットワーク効果をハイテク業界が学んでいく時代だった。オンラインの市場はネットワーク効果に支配されており、売り手は十分な数の買い手が集まるのを待ち、逆に買い手は十分な数の売り手が集まるのを待つ。つまり、オークション分野でイーベイの優位は覆せないものとなっていたのだ。アマゾンにとっては大きな失敗で板でではあったが、意外なほどにへこまなかったとブラックバーンは言う。
・キャンベルが出した結論は、「ガリは報酬の問題やプライベートジェットなどの役得ばかりを気にしている。社員の気持ちはベゾスのほうを向いている。創業者を選んだほうが賢明だ」であった。
・投資家の目が厳しくなったこと、また、経営幹部がこぞって意見したことから、ベゾスも方針を転換する。スローガンも「早くでかくなる」から「社内をまともにする」となり、「規律、効率、無駄の排除」が合言葉となった。会社は1998年の1500人から2000年になるころには7600人と爆発的な勢いで成長したおり、このあたりで一息つく必要があるとベゾスでさえも感じる状況になっていた。
・「まあ、いつものことなのですが、あのときもジェフ対世界という構図でした」
・「小売店は2種類に分けることができます。どうしたら値段を高くできるのかを考えるお店と、どうしたら値段を下げられるのかと考えるお店です。我々がめざすのは後者です」
・調査後、アマゾンはテレビ広告をすべてやめただけでなく、マーケティング部門を解体してしまう。
・自分の時間をうまく割り振る努力の一環として、一対一の面談をやめると宣言。一対一で部下と面談すると、問題解決やブレインストーミングにならず、どうでもいいような報告と社内政治の雑音を聞かされることが多いからだ。いまも、ベゾスが社員と個別面談することはめったにない。
ベゾスはこの方法をさらに一歩進めた。新しい機能や製品を提案する場合は、プレスリリース形式の意見書にすべしとしたのだ。目的は、うりのポイントをぎりぎりまで洗練させること、顧客が目にするリリースからスタートし、そこからさかのぼる形で仕事をするようになることだ。新しい機能や商品が世間にどのように伝えられるのかを知らず、神様である顧客がそれをどう受け取るのかを知らずに優れた意思決定はできないーーそうベゾスは考えたのだ。
宝飾品担当となったふたりは、その少し前、アパレルへ参入したときと同じように、慎重に進めようと考えた。経験豊富な小売業者にマーケットプレイス経由で商品を販売させ、アマゾンは手数料を受けとると同時に彼らのやり方を見て学ぶのだ。ランディ・ミラーはこう証言している。 「アマゾンはこれが得意なんですよ。よくわかっていない事業に参入する場合、マーケットプレイスでスタートして小売業者を誘致し、彼らのやり方や品ぞろえを観察して学んでから参入するのです」
・アンストアであるとは、また、顧客にとってなにが一番いいのかさえ考えればいいことを意味する。宝飾品事業では100%から200%の利ざやが慣例だが、アマゾンがそれに従う必要はない。 この会議でベゾスは、アマゾンは小売企業ではない、よって、小売業界に頭を下げる必要はないと宣言したのだ。
・物流ネットワークのソフトウェアを根本的に改めた結果、大きな成果が得られた。(中略)ウィルケがアマゾンに来たころはクリックから出荷まで3日かかる場合が少なくなかったが、それが、ファーンリー会議から1年でほとんどの商品について4時間以内と短くなったのだ。ちなみに、電子商取引業界の一般的な値は12時間である。
・プライムには価値があると、最終的には確認される。Amazonプライムに登録した顧客は、注文の翌々日に必ず商品が届くのが便利だとアマゾン中毒になるのだ。
・ジャシーとベゾス、ダルゼルが新しいAWSの構想を取締役会に提出すると、組織的ノートがその鎌首ともたげようとした。「まっとうな疑問」だったとのちに述懐しているが、ジョン・ドーアが当然の質問をしたのだーー海外展開を加速しなければならないのにエンジニアの採用が滞っているいま、なぜ、この事業をはじめなければならないのか、と。 「この事業も必要だからだ」ーーそれがベゾスの回答だったアマゾンは市場ニーズを繁栄する形でそのようなサービスを必要としている、というのだ。ジャシーは、取締役会後、これほど大胆な投資をする会社で仕事ができるお前は幸せ者だとドーアに言われたらしい。
ビル・ミラーからAWSの収益予想を尋ねられたとき、ベゾスは、長期的には収益が上げられるようになるが、「スティーブ・ジョブズの失敗」をくり返したくないと回答した。iPhoneをびっくりするほど利益があがる価格にして、競争相手をスマートフォン市場に引き寄せた愚は避けたいというわけだ。
・アマゾンの弾み車が加速しているころ、イーベイの弾み車はばらばらに壊れつつあった。安値で入札したコブラのゴルフクラブセットが落札できるかどうか7日間も待つのはつらいと考え、消費者は、さっと買い物ができる確実性と利便性を求めるようになった。オンラインオークションの魅力は薄れてしまったのだ。
時間がたつにつれ、消費者はアマゾンでのショッピングを楽しいと思い、イーベイで品物を探したり高すぎる配送料を請求してくる売り手に対応したりするのはめんどうだと思うようになった。アマゾンは混乱と戦って克服したのに対し、イーベイは混乱に飲まれたのだ。
・(ダルセル)「いろいろな人のもとで仕事をしましたが、ジェフには何点か、ほかの人より優れているところがあります。ひとつは、現実を受け入れること、現実について語る人は多いのですが、現実に一番近いと思われることを前提に意思決定をする人はまずいません。 もうひとつ、彼は因習的な考え方にとらわれることがありません。なんと、物理法則以外に縛られるものがないのです。物理法則はさすがの彼にも変えられませんが、それ以外はすべて応談だと考えているのです」
・自分たちが知る配送料金とP&Gの卸価格からクイッドシーが試算したところによると、アマゾンは、3ヶ月で1億ドル以上の赤字を紙おむつだけで出す計算になったらしい。
・危害を持てーー反論し、コミットしろ リーダーには、賛同できないとき、まっとうなやり方で決定に異を唱えることが求められる。そうするのは気が進まない場合や大変だと思われる場合も、である。リーダーは、信念を持ってねばり強く行動しなければならない。社会的結束を優先して妥協するなどもってのほかだ。そして、リーダーたる者、最終決定が下されたら、それに全力でコミットしなければならない。
・50人以上の部署をたばねるマネージャーは、一定のカーブで部下を並べ、成果を一番挙げられていない社員をクビにしなければならない。アマゾン社員は常に評価され、処分の恐怖にさらされているのだ。
・倹約 顧客にとって意味のないお金は使わないようにする。倹約からは、臨機応変、自立、工夫が生まれる。人員や予算規模、固定費が高く評価されることはない。
グーグルのような無料食堂や無料送迎バスなどの福利厚生はほとんどない。

ジェフ・ベゾス 果てなき野望