世界一「自由」な会社について知る「NO RULES(ノー・ルールズ)」

Netflixのカルチャーやメカニズムが、そうなった経緯や考え方まで余すところなく紹介されている興味深い一冊。Netflixの普通ではないところはたくさんありますが、

・引き留めたくない社員は解雇
・定期的な人事評価制度廃止
・社内規定のほぼ撤廃
・経費・旅費の承認プロセスの全廃
・無限有給休暇

などなど。うまくいかなかったことや途中でこう変えたみたいなことまで書いてあって、非常に勉強になりました。

一方で、Netflixのやり方が唯一であったり、ベストというわけでもないとも思いました。「自由と責任」のセットは当然ですが、ひとって、家庭や体調なんかの理由で、常に最高のパフォーマンスが発揮できるわけでもないし、タイミングによって全然結果が出ないこともあります。与えられた仕事の役割が合っていないということもあります。そこはプロセスで判断する、としてますが、そうすると恣意性がどうしても入ってしまいます。うまくいってるときはよいとしても、そうでないときも多いわけで、心理的安全性の担保は実際なかなか難しいのかなと。

しかし、Netflixが様々な問題を乗り越えるためガイドラインをつくったり、カルチャーを作ったりし、凄まじい業績をあげているのも事実。そこには訳があって、すべてをNetflixのようにしたいわけではなくても、自社にあった形でうまく取り入れることもできそうなので、参考にしていきたいと思います。

以下、抜粋コメント形式で。

こうして生まれたのが「相手に面と向かって言えることしか口にしない」という標語だ。私も率先垂範に努めた。社員が他の社員の不満を言ってくると、「相手にそれを伝えたときには、どんな反応だったんだい?」と尋ねるようにした。

僕も「相手に面と向かって言えることしか口にしない」と決めてます。

とはいえ会社内で率直なフィードバックを促すのは、電光掲示板を設置するよりずっと難しい。率直に意見をやりとりする雰囲気を醸成するには、社員に「フィードバックは頼まれたときだけ与える」「褒めるのは人前で、批判するのは人のいないところで」といった、長年の条件付けや思い込みを捨ててもらわなければならない。

1on1や評価などで率直なフィードバックをお互いできるようにするのは時間がかかりますね。

明文化された規程がなければ、1人ひとりのマネージャーが時間をかけて、自らのチームに許容される適切な行動とはどのようなものか、伝えていく必要がある。経理担当ディレクターはチームを集め、どの月であれば休暇を取っても構わないか、そして1月はどの経理担当者も休暇を取るのは厳禁であることを伝えておくべきだった。キッチンで泣き腫らした目をしていたマネージャーはチームと話し合い、「休暇を取れるのは一時期にチームから1人だけ」「休暇を予約する前に他のメンバーに不当な負担を押しつけることにならないか確認する」など、休暇のパラメーターを設定しておくべきだった。コンテキストはできるだけ明確なほうがいい。「1カ月オフィスを留守にするなら少なくとも3カ月前には断っておくこと。5日間休むなら通常は1カ月前でよい」といった具合に。

コンテキストといますが、これが事実上のルールとなっているようです。もちろんチームごとに決められるというのはありますが、いちいち合意しなければならないのであれば、ことに集中できるようにある程度のルールを設定してもよいのではと思いました。

部下には、私はいちいち経費レポートは見ないけれど、内部監査チームは毎年支出の 10%を監査する、と忠告する。私は部下が会社の経費の節約に努め、支出は控えめにすると信頼している。だから万一監査チームがインチキを見つけたら、その社員は即解雇する、と。ミスをしたら警告する、なんてなまやさしいものではなく、「自由を悪用したらクビ」だ。しかもやってはいけないことを示す悪い見本として、社内で使われることになる。

どこまでやってよいのかをコンテキストを共有する、違反した場合は厳しく措置、ということですが、これもシンプルなルールが設定されてる方がスピーディーに決められるのではという気がします。メルカリはルールもガイドラインもできる限りシンプルかつ最小限にしています(例えば、ニューノーマル・ワークスタイル)。そうすると、変えたいときもスピーディーに変更できるというメリットもあります。

・ シーラは抜群に優秀か。
・ 優れた判断力があるか。
・ 会社にポジティブなインパクトを与える能力があるか。
・ あなたのチームにふさわしい人材か。  
いずれかの問いへの答えが「ノー」であれば、シーラには会社を去ってもらうべきだ
(次章「並の成果には十分な退職金を払う」を参照)。しかし答えがすべて「イエス」なら一歩引いて、シーラの判断を尊重しよう。管理職が「承認役」をやめれば、会社全体がスピードアップし、イノベーションが活発になる。パオロが新しいアイデアにジェレットの承認を得るため、提案書の準備にどれだけ時間をかけたか思い出してほしい。ジェレットがそれを却下したら、パオロは自分が心から正しいと思うアイデアを捨て、別の方法を探さなければならなくなる。すばらしいアイデアはもちろん、それまでパオロが注ぎ込んだ時間がすべて無駄になる。

ネットフリックスはすべてのマネージャーに対し、定期的に部下を評価し、それぞれのポストに最適の人材であることを確認するよう求めている。そしてマネージャーが正しい判断をできるように、「キーパーテスト」という手法を教えている。 チームのメンバーが明日退社すると言ってきたら、 あなたは慰留するだろうか。 それとも少しほっとした気分で退社を受け入れるだろうか。 後者ならば、いますぐ退職金を与え、 本気で慰留するようなスタープレーヤーを探そう。

「キーパーテスト」と言われているもの。かなり過激です。

積極的に新たな試みに挑戦するマインドセットを持たせるために、ネットフリックスでは「賭け」のイメージを使う。それによって社員に、起業家という自己認識を持ってもらうのが狙いだ。起業家が多少の失敗を経験せずに成功をつかむことはまずない。カリや(数ページ前に登場した)パオロのような経験は、ネットフリックスでは日常茶飯事だ。私たちはすべての社員に、自分が正しいと思う賭けに出て、たとえ上司に反対されても新しいことに挑戦してもらいたいと思っている。その賭けが失敗したら、さっさと後始末をして、そこから何を学んだか話し合えばいい。

私がネットフリックスに入社したとき、ジャックからこんな説明を受けた。君にはカジノでチップをひと山受け取ったと考えてほしい。それを自分が正しいと思う賭けに自由に使っていい。最善を尽くし、慎重に考えて、最高の賭けをしてほしい。その方法は私が教える。失敗する賭けもあれば、成功するものもあるだろう。最終的に君の業績を評価することになるが、それは個別の賭けの成否で決まるわけではない。事業を成長させるために、チップを有効に使う能力そのものが評価される、と。

ジャックはさらにカリにこう説明した。「ネットフリックスでは社員に、判断を下す前に上司の承認を得ることは求めていない。ただ優れた判断を下すには、コンテキストをきちんと理解し、さまざまな立場の人からフィードバックを受け、あらゆる選択肢を理解することが不可欠だと考える」。なんでも自由にできるからといって他の人々の意見を求めずに勝手に重要な決断を下せば、判断力が低いとみなされる、と。

ネットフリックス・イノベーション・サイクル 本気になれるアイデアを見つけたら、次のステップを踏もう。
1 「反対意見を募る」あるいはアイデアを「周知する」。
2 壮大な計画は、まず試してみる。
3 「情報に通じたキャプテン」として賭けに出る。
4 成功したら祝杯をあげ、失敗したら公表

「賭け」という言葉はすごくよいですね。メルカリでもバリューである「Go Bold」はもちろん、「Big Bet」という言葉もあります。人間は失敗するのが怖く、現状維持バイアスがあるため、意図的にやらないとできないのが「賭け」です。また、「反対意見を募る」というのもすごくおもしろいですね。集合知を募るプロセスを入れるのはとてもよさそうです。

パティの言うとおりだった。ネットフリックスでは1人ひとりのマネージャーに、担当部門を最高のプロスポーツチームのように運営してほしいと思っている。強い熱意、一体感、仲間意識を醸成しつつ、各ポジションに最高のプレーヤーがいる状態を維持するためには、厳しい決断も常に求められる。

アメリカ企業の多くでは、部下を解雇することを決めたマネージャーは「業績改善計画(PIP)」と呼ばれるプロセスを開始することになっている。マネージャーはこの部下と毎週面談した記録を数カ月間にわたって作成する。フィードバックを与えたにもかかわらず、部下が成果を挙げられなかったことを記録に残すためだ。PIPが部下の業績改善につながることはめったになく、単に何週間も解雇を遅らせるだけだ。  PIPはふたつの理由から生まれた。ひとつめは社員が建設的なフィードバックや改善する機会を与えられずに解雇されるのを防ぐためだ。しかしネットフリックスには率直なカルチャーがあるため、誰もが毎日たくさんのフィードバックを受け取る。どの社員も解雇される前にはっきりと、そして頻繁に、改善するためには何をしなければならないか言われているはずだ。

Netflixは、まさにプロスポーツチームのような会社だと思います。結果を出せるものだけが試合に出られる。だから、PIPなんてしない。自分で改善できるものしか、残さない。ある意味明確です。

個人レベルで重要な意思決定が下される疎結合なシステムがうまく機能するためには、上司と部下の目的地が完全に一致していなければならない。疎結合がうまくいくのは、上司とチームのあいだでコンテキストが明確に共有されているときだけだ。このようにコンテキストが一致していれば、社員は組織全体のミッションと戦略に沿うような意思決定を下すことができる。だからネットフリックスには、こんな標語がある。

足並みは揃えつつ、それぞれが独立を

密結合はすごく重要で、メルカリの開発でもすごく時間をかけてマイクロ・サービス化して、マイクロ・ディシジョンを進めています。しかし、なにか新しいことをやるときは、なかなか難しい判断になるがよくあります。Netflixが、このカルチャーで成功できるのはある意味、ビジネスモデルがシンプルであるということもあるかもしれません。スポーツもルールがあるからこそ、AさんよりBさんの方がよい、と明確に言えるという。

部下が何かバカげたことをしたら、部下を責めてはいけない。自分の設定したコンテキストのどこがまずかったのか、考えてみよう。自分の目標や戦略を正確に、かつ創意工夫を促すようなかたちで伝えただろうか。チームが優れた判断を下せるように、さまざまな前提条件やリスクを明確に説明しただろうか。ビジョンや目的に対してあなたと部下の足並みは揃っているだろうか。

コンテキストの共有が非常に重要、というのは本当にその通りだと思います。