フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略/クリス・アンダーソン

『ワイアード』誌編集長による著作。フリー(無料)に関しての歴史や心理学などから、現代のデジタル時代のコピーなどフリーについて、まとめた本。いろいろな事例やそれに対する考え方などが載っていて非常に勉強になります。

ただ、まとめというかくくり方についてはまだまだ試行錯誤が続いている現在からすると、無理矢理感は否めないかもしれません。むしろ、様々なケースを知ることが自分がやっていることに対して何かしらのインスパイアを得るタイプの本かなと思います。

最近思ってるのは、会社の時価総額なんかは同じようなことやってる会社の売上と利益を比べて見ても、結局適正な価格なんて誰にも分からないし、ある芸能人やプロスポーツ選手がどのくらい稼いでいるか聞いても妥当なのかよく分からないわけで、お金にこだわりすぎてもしょうがないなと。

意味や価値があることをやれば、お金はついてきます。もちろんそこからもっとマネタイズするというのは努力はしてもいいけど、もっと人間やることに遊びがあっていいと思うし、お金儲けできるかどうかというのは一般的に考えられている以上に偶然の要素が大きい気がします。

例えば、音楽がネットでコピーされる前のミュージシャンはすごく儲けられたけど今は儲けるのが難しいとか。時を経て変わりゆくものだから、個人の才能とかではどうしようもないことは多い。

人生お金においては損するくらいでよくて、得したって誰かからあいつは不当に儲けてるって思われても嫌だし。だから僕はお金が絡まなくても個人的におもしろいなと思ったことはやるし、そうでないことはやらない。もちろんそれは甘いことなのかもしれないけど、それでもいいじゃないかとも思う。毎日楽しんで、幸せを感じつつ、自分の興味のおもむくままに生きていきたいなと。

<抜粋>
・デンマークのあるスポーツジムは、会員が少なくとも週に一度来店すれば、会費が無料になるプログラムを実施している。だが一週間に一度も来店しなければその月の会費を全額納めなければならない。その心理効果は絶大だ。毎週通うことで、自信がつくし、ジムも好きになる。いつか忙しいときが来て、来店できない週が出てくる。そうすると会費を支払うが、そのときは自分しか責められない。
・十七世紀以降、市場や商人階級の役割は、多くの地域で全面的に受け入れられるようになった。(中略)「すべてのものに価格がある」という考えは、わずか数世紀ほどの歴史しかないのだ。
・低品質の無料バージョン(低音質でいつ曲がかかるのかわからないラジオ)は、音質のよい有料バージョンを買ってもらうためのすぐれたマーケティング手法となり、ミュージシャンの収入は、演奏からレコードの著作権使用料に移った。現在のフリーは、形を変えて同じやり方をしている。無料の音楽配信がコンサート・ビジネスを成長させるためのマーケティング手法となっているのだ。そのなかで変わらないものと言えば、音楽レーベルがあいかわらずこれに反対していることだ。
・米と小麦を主食とする社会は農耕社会で、内側へ向く文化になりやすい。おそらく米と小麦を育てる過程で彼らはかなりのエネルギーをとられてしまうからだ。一方、マヤやアステカなどトウモロコシを主食とする文化は、時間とエネルギーが余っていたので、よく近郊の部族を攻撃したという。
・(人口学者で生物学者のポール・エリック)は、1975年までに「信じられないほど広範囲で」飢饉が起こり、1970年代と80年代で何億人もが餓死し、世界は「真の欠乏の時代」に入ると予測していた(これがはずれたにもかかわらず、彼は1990年にマッカーサー財団の天才賞を受賞した。受賞理由は、「環境問題に対する世間の理解を大いに高めた」ことだった)。
・実際は売上げを5ドルから5000万ドルに増やすのは、ベンチャー事業にとってもっともむずかしい仕事ではありません。ユーザーになにがしかのお金を払わせることがもっともむずかしいのです。すべてのベンチャー事業が抱える最大のギャップは、無料のサービスと1セントでも請求するサービスとの間にあるのです。
・知的財産に関する議論では、保護に賛成反対どちらの意見もまったく筋が通っているので、それはパラドックスだと言えます。パラドックスは私たちが関心を持つ物事の多くを動かしています。たとえば結婚生活がそうです。彼女と一緒にはいられない。でも彼女なしではいられない。両方の発言ともに真実です。そして、その両者の力関係が結婚生活を何よりもおもしろくしているのです。
・そのあとに起きたことには、ヤフー幹部全員が驚いた。ヤフーの有料サービスからユーザーが大挙して逃げる事態は起こらなかったのだ。広告なしのメールなど、そこにはお金を払うに足る利点が残っていたし、契約を更新しなかったユーザーも年間契約をしていたのですぐにはやめなかったからだ。とにかくユーザーは大きく習慣を変えることなく、せっせと不要なメールを削除しつづけ、容量の消費量はヤフーが心配していたほど急には伸びなかった。
・自動掃除機のルンバのことを考えてみてほしい。円盤形のルンバが動くのを眺めていると、そのマヌケさを残念に思わずにはいられない。でたらめに部屋の中を行ったり来たりしながら、急に引き返して、あきらかに汚れている部分をそのままにしたりする。ところが、どういうわけか最後には、不規則に動いていてもカーペット前面をあまさずカバーしてきれいにする。人間がやれば五分で終わることがルンバには一時間かかるかもしれない。だがそれは自分の時間ではなく機械の時間だ。そして、機械にはいくらでも時間があるのだ。
・(ブラジルのバンド)バンダ・カリプソは、CDの売上げが自分たちの懐へ入ってこなくても気にしない。カリブソの主な収入源はライブ興行であり、それはうまくいっている。町から町を移動しながら、ライブ前にその町に激安のCDを大量に投下するやり方で、カリプソは年に数百回のライブを行う。通常は週末に二回か三回のライブを打って、国中をマイクロバスかボートで旅して回るのだ。