日本はなぜ貧しい人が多いのか/原田泰

タイトルは統計的な事実の一つで、基本的に統計学を駆使して、一般に信じられている俗説の誤りを指摘し、さらにはそれではどうすればいいかまで仮説を提唱する内容になっています。統計の読み方にはいろいろな考えがあり、本書の読み方が必ずしも正しいとは言えないとは思いますが、いろいろと意外な事実を見せつけられると、もっと丁寧にものごとを見ていく必要があるのだなと痛感させられます。

特に年金について、なぜ今払いすぎになっているのかを高度経済成長と人口増で説明し、支給額と支給年限を3割カットすればほとんどすべての問題は解決するし、それでもまだ世界一のレベルにある、というのは目から鱗でした。

もちろん精査は必要だと思いますが、根拠のない削減やばらまきよりは、事実に基づいた国家経営をして欲しいものだなと思いました。これ以外のパートも非常に興味深くて、見識を広げる上でよい良作と思います。

<抜粋>
・要するに、1700年ごろまで、世界はほとんど一様に貧しかった。ところが、その後の300年で、世界のある国は豊かになり、他の国は貧しいままだった。これは、豊かな国が豊かなのは、他の国を貧しくしたからではないことを示唆する。
・子供のコストには、養育するための直接コストだけではなく、母親が子供を育てるためにあきらめなければならない所得が含まれる。(中略)失われた所得は、2億3719万延となる。これが例えば2人の子供を育てるためのコストで、1人当たりにすれば1億1860万円ということになる。もちろん、これに加えて食費や教育費もかかる。
・(年金について)人口が減少すれば有利な年金は払えない。しかし、これは当たり前のことではないだろうか。私は、むしろ、日本中のすべての高齢者が、払い込んでもいない年金が魔法のポケットから出てくるはずはなく、産んでもいない子供が年金を払ってくれるはずもない、という当たり前の事実を認識してくれると思っている。世代間の対立などあり得ない。すべての親は、次世代の子供の幸せを願っており、それが日本を繁栄させてきた。高すぎる年金は諦めてもらうしかないが、子供は、親にそれなりのプレゼントをすることを嫌がってもいない。年金のカットは、制度の永続性を保障し、人々にむしろ安心を与えるはずだ。
・年金支給額と支給年限を3割ずつカットすれば、年金支給額は(1-0.3)×(1-0.3)=0.49であるから半分になる。年金保険料引き上げは必要なくなるどころか、引き下げも可能になり、人口減少社会の問題は解決する。そして、年金をカットした後でも、日本の年金は世界一のレベルにある。年金の大幅なカットをした後でも、私たちは、日本の社会保障システムを誇りに思うことができる。これはすごいことだと思いませんか?
・日本の社会保障支出全体の対GNP比は2003年で17.7%と、国際的に見て低いが、高齢者向け支出に関しては、9.3%であり、ドイツの11.7%より低いものの、イギリスの6.1%、オランダの5.8%を大きく上回っている。では、何が低いのか。日本は医療費も低いが、もっとも低いのは家族を助ける支出だ。(中略)イギリスは、高齢者のための支出が日本の3分の2にすぎないのに、子供のためには日本の4倍も支出している。イギリスは、高齢者が我慢して、子供を育てる若者を助けている。これこそが未来のために現在を犠牲にする不屈のジョンブル魂だと私は思う。
・公務員の賃金水準が高い都道府県ほど、都道府県民の所得は低い傾向がある。(中略)なぜこのような傾向があるのだろうか。所得の低い県では、公務員の他に仕事がないので、公務員の賃金が相対的に高くなるというのが、通常の答えだろう。 しかし、公務員のほかに仕事がないのであれば、公務員の賃金も安くて済むはずだ。(中略)むしろ因果関係を逆にして考えるべきではないか。公務員の賃金が地域の賃金水準よりも高ければ、有能な人材が公務員になり、ビジネスには集まらない。だから、地域の経済発展が遅れるのではないか。