『なぜ経済予測は間違えるのか?』は必読

前からそうでしたが、2008年に金融危機が起き、明らかに今までの経済学が現実社会では成り立たず、エコノミストの予測にはまったく根拠がなかったということが分かっているにも関わらず、なぜ未だに正規分布から導きだされた金融理論を使い、エコノミストの経済予測がまことしやかに信じられているのか。

ものすごく疑問だったのですが、本書を読むとすごくすっきりとします。一言で言えば代わる理論がない、というだけなのですけど。もちろん本書で代わりとなる統一的な理論が提示されているわけではないですが、それぞれの分野で少しづつ新しい考え方が生まれてきているのだなと思って、安心しました。

個人の戦略として重要なのは、今まで正しいとされていたことすべてに疑問を持って、今までのやりかたが間違っていたなら捨てて、確実に意味のあることをやる、ということでしかないのかなと思いました。

そして、間違っていることには加担しない、ということでしょうか。むしろ、個人的には、明らかに間違っていることが進行している世の中ではアービトラージはすごく取りやすいなと前向きに捉えるようにしています。

<抜粋>
・金融業界のこれほど多くの人々が、自分たちが管理しているリスクを誤解して、危険について知らなかったとすると、それはなぜか。私が思うに、経済理論の基礎をなす根本前提が間違っているからだ。つまり、数理モデルだけではなく、経済についてエコノミストがとる、現行の思考様式が完全に間違っているのだ。
・経済が予測しがたい理由の一つは、創発する特性があって還元論的分析になじまないからだ。これと同じく予測する際に重要な問題は、正のフィードバックと負のフィードバックのからみ合いがあることで、どんな流れにも、間もなくそれに対抗する流れが育つらしい。
・クオンツたちの後ろ暗い秘密は、用いられる道具がたいてい非常に単純だということだーー数学や物理学の博士号はほとんど箔をつけるためのもので、実際のところを言うと、リスクのモデル化という分野は、パスカルとその三角形の時代以降さほど変化していない。
・「たいていの経済学の論考や教科書には『バブル』という言葉は出て来ない。(中略)バブルが存在するという考えが、経済学や金融の世界の大部分ではいかがわしいこととされるようになっていて、経済セミナーでそれを持ち出すのは、天文学者の集まりで占星術を持ち出すようなことになっている」
・ゴールドマン・サックスのような会社に、金融の話がよくわからない人向けの二段階金利サブプライム・ローンをまとめる自由を最大限に与え、ほとんど何もないところから何兆ドルもの信用バブルを作り、うまく行かなくなると政府から金を引き出すというのは、フリードマンの頭にはなかったことだろう。
・学会や政府にいる主流のエコノミストは、完全な経済というピュタゴラス教的な幻想にまだ目をくらまされていて、誤りから学習できていない。この神話を拡げ続けることによって、大学やビジネススクールは、未来の金融危機の種を蒔いている。誤ったリスクモデルが経済のリスクを上げるのと同じように、経済が本来安定して自己調整すると見て、そのように扱うーー規制を緩めることによってーー世界観は、いずれその逆になる。
・言いたいのは、ただ経済が再帰的で、したがって予測しにくいということだけでなく、私たちの考え方や神話が経済を特定の形にし、不安定になるように細工するということでもある。これはたぶん、経済学理論が世界に影響し、そのため客観的だとは言い張れなくなる最も明らかな例だろう。
・利益のために取引することが、必ず善だったり悪だったりすることはない。それは脈絡に左右される秤の上に乗っている。アデア・ターナーは、「市場はすべて初めから善であるか、すべての投機は悪であるか、いずれかの前提で生きていく方がよっぽど難しいでしょう。現実はもっと複雑で、私たちは差引勘定や決断をしなければなりません。けれどもこの複雑な世の中では、それ以外のことはできません」と言う。