ピカソがどうスゴいのかを知る「ピカソは本当に偉いのか?」

ピカソがなぜ芸術家として圧倒的に評価され、その作品が高価になっているのかを丁寧に解説してあります。ピカソが英才教育を受けとてつもない技量を持っていたこと、「種の起源」から変化、前衛に価値が出てきたこと、美術館が登場し美術マーケットができてきたこと、などなど他にもいろいろ理由がありますが、まさに時代が作ったスーパースターだということがよく分かりました。ディズニーやマリリン・モンロー、ビートルズ、ビル・ゲイツやジョブズなどと同じ。

著者は、労働意欲を奪ってしまうほどの高値はどうか、晩年の自画像から幸せであったのかと疑問を投げかけていますが、個人的には現代のスポーツ選手や映画スターも同じだし、起業家もそう。膨大な価値を生み出した対価としてはそんなものかなとも思うし、晩年の自画像が後悔を示しているのではないかという点については、というよりも他の要素(分からないですが数々の女性を傷つけたことなど)が影響しているような気はしてます。そもそも普通のひとでないので普通の感覚では計り知れないのかなと。

いずれにしても、非常に勉強になる良作です。

<抜粋>
・ピカソの成功の秘密は、十九世紀後半に急成長した画商というビジネスの可能性を正確に見抜き、自分の作品の市場評価の確立と向上にあたって、彼らが果たす役割というものをとことん知り抜いていた点にありました。
・当然ながら、そうした安値で仕入れられた絵というものは、ひとたび市場で評価を得た場合には、画商に大きな利益をもたらすことになります。実際に、モネやルノワールの作品は、はじめは徐々にでしたが、やがて加速度的にその評価と値段を上昇させていくことになり、これを扱う画商には大成功がもたらされることになりました。
絵画ビジネスに関して抜群の才覚を持っていたピカソは、その時々の市場の状況に呼応して自身の作風を変幻自在に転換してみせています。
・こうしたピカソの破壊的な性向は、作品制作にとどまらず彼の対人関係、とりわけ女性関係においても発揮され、時に相手の人格までを崩壊させてしまうような、激烈な愛憎関係を再生産していくことになります。
・人格や自尊心までが内面に向かって崩れていくさまを見るような迫真の描写は、子供がおもちゃの中を見たくて壊すように、画家が人間の心を破壊することではじめて可能になったものといえるでしょう。そもそも、自分が一度は愛した女性の半狂乱の泣き顔というものを、絵画作品の題材にできるという点で、ピカソの感覚は常軌を逸してしまっています。
マティスは、いかに大胆な表現を追求しようとも芸術は、人の哀しみや苦しみを癒すものという信念を抱いていたといいます。ところが、ピカソはまるで芸術によって世界を破壊し創造し直そうとでもしているかのように見えたというのです。
・そして、彼らに先立つドラクロワが、色彩は脇役であるべしという絵画理論の基本を破壊したのは、デッサンに象徴される「理性」に代わって、色彩の喚起する「感覚」こそが革命後の絵画の主人公となるべきだとの確信があってのことでした。
・ニーチェはモネやルノワールと同世代のドイツの哲学者。二十四歳という異例の若さで大学教授に抜擢された俊才で、激烈な陶酔に誘う独特の文体で綴る強烈な哲学は当時の若者を熱狂させました。四十四歳の時にトリノ街頭で発狂し、十一年の療養生活の後、肺炎で一九〇〇年に亡くなっています。
ピカソに限らず、周囲にカリスマ的な影響力を及ぼす人の多くは、それが意識的なものであるか否かを問わず、自身の感情をあらわにすることに長けています。
・彼女の切り出した突然の別れ話にピカソは、自分に発見された恩を返せと逆上、自分のもとを去ったら行く先は砂漠しかないと警告します。実際に、ピカソの彼女に対する嫌がらせは執拗をきわめ、画学生時代にピカソとの同棲で中断されていた絵画を再開したフランソワーズは、フランスではなく英米の絵画市場に活躍の場を見出そうとします。
近代絵画は写真に対抗して写実描写を放棄しましたが、当時の画家が写真に対して抱いていた危機感は私たちの想像を上回るものがあり、ピカソの世代に至ってなお真剣に心配をしています。
・ピカソは写真の出現が絵画の存在基盤を危うくしていると語っています。対するムンクの答がふるっていて、カメラをあの世に持って行き死後の世界を撮れるようになるまでは恐るるに足らないと、一笑に付しています。
・じつは、ジャリがその怒りにも似た破壊性をもって打破しようとしていたのは、この「常識」というものに他なりませんでした。  ただし、ここでいう「常識」は、ブルジョワ階級というフランス革命によって新たに社会の支配的な階層に納まった人々に特有の「常識」を指しています。
・じつは、ピカソ自身もそのことは充分に心得ており、経済的な安定を確保して以降は、個人的な面談にせよマスコミの取材にせよ、意識的に演出したボヘミアン的な言動を欠かさぬよう留意していました。

「我が逃走」を本当に書いた貴重な作品

paperboy&co.創業者、家入さんの新作。ペパボがGMOに買収されたくらいから、上場、社長退任、カフェ立ち上げ、東京都知事選挙、CAMPFIRE、BASE立ち上げなどなど。とにかく赤裸々に逃走っぷりを書いていて、非常におもしろかったです。むしろこれだけ自分のダメっぷりや散財する様を克明に描いた作品は今までにないのではないでしょうか。

個人的には、このくらいの時期はよく家ちゃんと飲んだりしていたので、各出来事にいろいろ思い出があり、登場人物も知っているひとが数多くいて、「なるほど、あれはそういうことだったのか」と物事をまったく違う方向から観た思いです。

むしろ、割と近い位置にいても心理状態まではなかなかよく分からないというか、誰であっても分からないものなんだなと思いました。

後、本当に家入さんのダメっぷりが強調されているのですが、しなしながらロリポップ初めとしたサービスやペパボという組織や、その後一緒に作ってきたCAMPFIRE、BASEといったサービスは本当に素晴らしく、創るひととして超一流なのは間違いないです。今は新しいサービスを作ってるみたいで(ちょくちょく聞いてますが)本当に楽しみです。

ハチャメチャぶりを周りではなく自らが書いたという点で非常に貴重でおもしろい作品でした。

※本書は献本いただきました(後、CAMPFIRE運営会社には出資しております)