トップページへ

堕落する高級ブランド

旧suadd blog » 本・芸術 » 堕落する高級ブランド

堕落する高級ブランド
ダナ・トーマス
講談社
¥ 1,680


元ニューズウィークでファッション・ジャーナリストである著者がルイ・ヴィトン、プラダ、エルメス、カルティエ、コーチ他、現在あるあらゆるブランドがどのように生まれ、どのようにグローバル化し成長してきたのかを丁寧に描いているだけでなく、コピー製品やアウトレットやネットへの取り組みから、日本、中国、ロシア、インドでの現状まで取り上げています。

さらに、すごいのは、タイトルにあるように、現在のブランドの問題点を詳細に調べていて、それに対するカウンターとしての新しい動きまでもを取り上げている点です。

例えば、ブランドがあまりにも大衆化し、グローバル化し金儲けを重視しすぎため、品質にまで手を付けはじめてしまったことが赤裸々に綴られ、それに対して、H&MやZARA、アバクロなどのファスト・ファッションが高級ブランドのデザイナーと組むことで、低価格帯からの追い上げが始まっていることなどが指摘されています。

一方で、ブルガリのホテルやブラジルの新しいラグジュアリー・デパート「ダズリュ」、元グッチのトム・フォードの新しいブランドやクリスチャン・ルブタンなどの新しい取り組みなども紹介していて、非常に刺激的です。

ブランドというのは、現代のあらゆるビジネスに欠かせないものでありながら、まだまだよく分からないものだと思います。しかし、本書によってまさにブランドがもっとも重要な要素になっているファッションの世界を包括的に知ることで、どのようにブランドを扱っていけばいいのか、というヒントを得ることができるように思います。

<抜粋>
・今日、約40%の日本人がヴィトン製品を所有しているという。「なぜブランドものを買うのか」と尋ねた市場調査で、日本人はもっともな理由を挙げている「長く使えるからだ」と。しかし、ある専門家によれば、「日本人が自分たちは階級のない社会にいると考えている」ことがおもな理由ではないかと指摘する。実際、別の調査では、85%の日本人が「自分は中流階級」と答えている。
・現代の香水の始祖ともいえるべき存在が、シェネルNO5だ。 第2次世界対戦が終結したとき、ヨーロッパに派兵されていた米国兵たちは愛する人へのプレゼントとして競って買い求めた。マリリン・モンローが「ベッドでつけるのはシャネルの5番だけ」と言ったのは有名な話だ。(中略)NO5は世界中のどこかで、30秒に1瓶ずつ売れていると言われている。(中略)『ウィメンズ・ウェア・デイリー』によれば、NO5の利ざやは40%で、競合する製品の4倍以上だそうだ。
・大半の香水を実際に創作しているのは大手の香水研究所である。スイスのジヴォータン・ルール、米国のインターナショナル・フレイヴァーズ&フレグランシズ、ドイツのシムライズやハーマン&レイマー、スイスのフィルメニッヒ、英国のクエスト・インターナショナル、日本の高砂香料工業などだ。総事業規模は年間200億ドルで、彼らは高級ブランドの香水からフライドポテトまで、あらゆるものの香りや風味をつくりだしている。
・香水づくりのすべてを外部に委託している高級ブランドでは、新製品の開発時には、まず「どんな香水をつくるか」というブリーフをまとめ、研究所数社でコンペを行なうのが一般的だ。
・プラダのバックパックは、会社自身も気づかないうちに、高級ブランドを急激に変化させるきっかけとなった。「卓越した技術で手づくりの商品を家族経営の小さな会社が販売する」というそれまでの高級ブランドビジネスは、「グローバルな企業が中間階層をターゲットに大量に売る」ビジネスへと変わっていった。
・中国で偽物製造者と闘うのは、いくつかの理由で簡単ではない。その最大の理由は、この国が歴史的に知的財産に所有の概念を持っていない点であろう。たとえば、教育を民主化した最初の人物である孔子は、すべての教室に知識を広げるべく、学者の偉大な作品を模写して学べ、と奨励した中国共産党の指導者が、個人でも企業でもなく、「国がすべての財産を所有する」と明言しているのも事態をさらに複雑にしている。(中略)国際商標協会元理事長のフレデリック・モスタートは言う。 「中国では何世紀にも渡って(コピーする)文化を脈々と受け継いできたのに、ある日突然止めるように命じられた。まさに文化的ジレンマを生んだね」
・(H&Mのマーケティング・ディレクターによると)カール・ラガーフェルドとのコラボは、クリスマス商戦に女性客を引きつけるアイデアを練っているときに浮かんだという。(中略)「女性に人気の高いカール・ラガーフェルドに白羽の矢を立て、電話をかけました。(中略)彼の考えでは、H&Mはシャネルと同じように流行を決定している。大手アパレル企業はファッションをつくっているが、トレンドはストリートで生まれている、ということでした。そこで我々は特別に作られた限定版を、限定された期間だけ大量流通させる、という『マスクリュシヴィティ』に挑戦することにしたのです。我々は民主的にどんな人にも商品を届けたいけれど、特別な日だけしか売らない限定商品もつくります」
・主要ブランドの中には本物の一流品を追求する姿勢を失っていないところもあるーーとくにエルメスとシャネルがそうだ。ケリーやバーキンの伝統的な手づくりのバックや、シャネルNO5の原料となるジョゼフ・ミュルのバラなど、クオリティが製品の要であるというブランドの哲学を貫いている製品もある。
・(トム・フォード曰く)「マクドナルドみたいになっているよね。どのブランドもそっくりと言いたくなるほど似ている。(中略)当時はそれが時代にあっていたんだよ。ぼくたちがしなければ、別の誰かがやっていただろう。あのころ世界の世界の文化はグローバルに均質化していた。そういう空気だったし、それに対応する必要があったし、ぼくたちがやったことに今でも誇りを持っている。でもぼくが関心を持っているのは今、現在のことだ。反動が来ているんだよ。昔ぼくが手がけたバックの広告を見ると吐き気がしそうだ。(後略)」

« 前の記事へ

次の記事へ »

トップページへ