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この世でいちばん大事な「カネ」の話

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この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)
西原 理恵子
理論社
¥ 1,365


漫画家でイラストレーターの西原理恵子による「カネ」にまつわるエッセー。

カネのない無惨な子供時代の話から始まり、その嫌な環境から抜け出すために、著者がどのように考え、どのように抜け出してきたのかが語られています。しかし、そこからギャンブル(麻雀)にハマって抜け出したこと、アジアの貧しい子供たちを見て考えたこと、家族が同じループにはまって苦しみながら再生したことなどが語られています。

子供や学生に向けて語りかけるようなエッセーになっていて、非常に平易な文章になっているのですが、書かれていることはものすごく奥が深くて、胸をうつ素晴らしい作品になっています。誰が読んでも、非常におもしろいと思いますが、すごく心から若い人に読んで欲しいなと思いました。

自分にとって、「カネ」とは一体なんなのだろうか。

僕はカネに困った、という記憶はあまりなく、そういう意味で非常に恵まれていたと思います。その多くは両親によっていて、それについていつでも感謝しています。一方で、自分よりカネを持っている人はたくさん知っていて、カネによってもっと豊かな生活も無駄な生活もできることも知っています。

そういった人は自らの能力でカネを得た人もいるし、運や家柄がよくてカネを得た人もいます。でも、人のことはあまり気にする必要はないと思っています。著者も言っていますが、自らを社会に問うていくことで、何が好きで何が向いているかを知ることができるし、そうすれば自然にカネを稼ぐことはできるようになります。

そして、その過程、つまり人生そのものを楽しむことができればよくて、人と比べることには意味はありません。運がよくてカネ得たからといって、それで自らを過信してしまえば、たとえそれを墓場まで持っていくことができたとしても、本当の意味で人生を楽しんだと言えないのではないと思います。

だから、成功も失敗もすべてを飲み込んで、幸せを噛み締めることができていることこそが重要であり、カネはそれにはあまり影響しない、と考えています。

もちろん、これをある程度カネを稼ぐことができている甘ちゃんの言葉だと思う人もいると思います。確かに僕は、現代日本という世界的にも恵まれた地域で育ち、好きなことを仕事にできているし、だからこそ言える言葉であるのも理解しています。

だから、僕は仕事を通じて、周りの人や世界を豊かにすることに少しでも貢献したいと思っているし、そのために仕事をしていると思っています。そして、そういうことを誰もがそれぞれの分野でやることによって、世界の富が増え、世界から貧困のループをなくすことができるのではないかと考えています。一人一人ができることは少ない。特に僕ができることなんて本当にちっぽけです。でも、自分の仕事をすることで、少しでも貢献できているのではないかと信じています。

<抜粋>
・最下位の人間に、勝ち目なんてないと思う? そんなの最初から負け組だって。 だとしたら、それはトップの人間に勝とうと思っているからだよ。目先の順位に目がくらんで、戦う相手をまちがえちゃあ、いけない。(中略)結局、わたしが予備校時代のまる一年をかけて学んだのは、自分の絵がどうダメなのか、うまい人と、どこがどうちがうのかということを、冷静に判断できる力をつけたことだった。
・「どうしたら夢がかなうか?」って考えると、ぜんぶを諦めてしまいそうになるけど、そうじゃなくって「どうしたらそれで稼げるか?」って考えてみてごらん。
・働くっていったい、どういうことだと思う? 子どもから見たら、大人の世界はすごくたいへんそうに見えて、何だか「感じが悪い」って思っているかもしれない。(中略)大人って、自分が働いて得た「カネ」で、ひとつひとつ「自由」を買っているんだと思う。 単純な話、働いてお金が稼げるようになれば、できることや行動範囲だって広がっていくからね。「大人になる」って、だから楽しいことなんだよ。
・わたしの場合も、人から「あれ描いて」「これ描いて」って注文されて、断らずにやっているうちに「このあいだのアレ、おもしろかったよ」「こういうのをまたやりましょう」って、ウケるほうに、食べていけるほうに、仕事が寄っていった。そうなると、ひとつの仕事が次の仕事を呼んで、仕事の道ができていく。 だから、わたしは思うのよ。 「才能」って、人から教えられるもんだって。
・今、自分のいる場所が気に入らなくって、つらい思いをしてる子だって、その「嫌だ」って気持ちが、いつか必ず、きっと、自分の力になる。 マイナスを味方につけなさい。今いるところがどうしても嫌だったら、ここからいつか絶対に抜け出すんだって、心に決めるの。 そうして運よく抜け出すことができたんなら、あの嫌な、つらい場所にだけは絶対に戻らないって、そう決めなさい。
・ギャンブルっていうのは、授業料を払って、大人が負け方を学ぶものじゃないかな。その授業料を「高い」って思うんなら、やらないほうがいい。まして本気で儲けようだなんて思うほうが、まちがい。(中略)人生だってそう。勝つことより、負けることのほうがずっと多いし、負けてあたりまえ。わたしにとってのギャンブルは、そういうときの「しのぎ方」を、型破りの大人たちから学んだところだった。
・「カネについて口にするのははしたない」という教えも、ある意味、「金銭教育」だと思う。でも、子どもが小さいときからそういった「教え」を刷り込むことで、得をする誰かがいるんだろうか。 いる、とわたしは思う。 従業員が、従順で、欲の張らない人たちばっかりだと、会社の経営者は喜ぶよね。(中略)そういう人間が育つように戦後の学校教育ってあったって思うし、そういう人間を使うことで日本の経済成長もあったと思うけど、もう、単純な経済成長なんか見込めないような今の時代に、そんな金銭教育のままでいいのだろうか。
・「自分は何をしたいか」を考えるのも、もちろん大切なこと。でもその前に、キミたちに聞いてみたい。 働けることのしあわせ、働く場所があることのありがたさについて、考えてみたことがありますか?
・人が生きていくということは、もしかすると遠い遠い家路なのかもしれない。 働くことも、お金も、みんな、家族のしあわせのためにある。 わたしは、いま、そう思っている。 働いていてよかった。自分の仕事があってよかった。そのおかげで、病気だった彼をちゃんと看取ることができた。子どもたちにも、お父さんのいい記憶だけが残った。 お金には、そうやって家族を、嵐から守ってあげる力もあるんだよ。

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