トップページへ

ヤバい社会学

旧suadd blog » 本・芸術 » ヤバい社会学

ヤバい社会学
スディール・ヴェンカテッシュ
東洋経済新報社
¥ 2,310


著者は現在はコロンビア大学の社会学者で、学生時代の90年代にシカゴの貧困地域に出入りして、その実態をドキュメンタリー的にまとめたのが本書。よく仕事をしているスティーヴン・レヴィットの「ヤバい経済学」(この本も無茶苦茶おもしろいですよ)でも触れられていて、ようやく本になったということのようです。

貧困地域のひどい生活環境やギャングの実態、コミュニティや政府や警察との関係などが実体験の上で描かれていて、ものすごいリアル。こんな社会があるんだという驚きの連続です。

著者はまずギャングのリーダーJTに気に入られて、コミュニティに食い込みます。それからは本当に驚きの連続で、完全に企業体となっているギャングを徐々に理解していき、でも実際は麻薬の販売ネットワークであることに道義的な責任を感じたり、社会学によって起案される政策についての無力感に苛まされたりします。

コミュニティはコミュニティで、仕切り屋が別におり、権力を持っているし、警察や政府は腐敗しており、時には悪徳警察官はギャングからかつあげすらする。住民は警察や政府が当てに成らないため、ギャングすら頼る他ない、という微妙なパワーバランスの中で生活をしています。

まったく想像できない社会で、アメリカという経済力のある国で警察の治安も行き届かない、暴力的な社会が形成されていたことに非常に驚きを覚えます。

また、一方でドキュメンタリーとしてJTの信頼を徐々に得ていったり、彼がギャング社会でのし上がって行ったりするのもものすごいスリリングで面白いです。最後は切ない気持ちになること間違いなし。

とにかくおもしろいので、是非読んでみてください。

<抜粋>
・(混ぜ物をしてヤクを売っていた部下に対して、ギャングのリーダーJTは)「そんな風にして稼ごうなんて思いつくやつはほとんどいないんだ」と彼は言う。「で、ここに、もっと稼ぐにはどうしたらいいかって考えられるやつがいる。オレの手下は何百人もいるけど、そんなことを考えられるやつはほんの一握りなんだよ。そういう連中を放り出すのはうまくないんだ」。JTが言うには、マイケルの作戦をぶっ潰して、なおかつその背景にある精神は潰さない、そんな解決が必要なのだ。
・団地の生活はあまりに荒っぽく、あまりに厳しく、あまりにむちゃくちゃで、社会科学者が思いつくクソまじめな処方箋では太刀打ちできないような気もする。若い子に学校をちゃんと卒業させてもちょっとしか助けにならないのはとてもショックだった。学校を出てつける、給料の安い、つまらない仕事の価値ってどんなもんだろう? 通りに立てばもっと稼げるっていうのに?
・例えば、同じ階に住む女性五人が、アパートのメインテナンスが悪くて困っているとする(建物の状態がああいう調子なので、これはよくあることだ)。修繕を申請しても、CHAが五人全員に対応してくれる可能性は低いし、ベイリーさんやCHAの管理人に、五人がそれぞれワイロを贈るのも懐具合からいって難しい。そういうとき彼女たちは、最低限の修理に必要なだけのワイロをみんなで出し合う。つまり、ネットワークのメンバーのうち少なくとも一人のアパートはお湯が出て、少なくとも二人のアパートに使える冷蔵庫とストーブがあって、その二つのアパートのうちどっちかでは、ケーブル・テレビがタダで見られるように、ワイロを払って修理をしてもらうのだ。そうやっておいて、みんなで同じ部屋のシャワーを使い、別の部屋でごはんを作り、食べ物はまた別の部屋に貯めておいて、エアコンの利いた一つの部屋に集まってテレビを見て、なんて調子だ。部屋の電気や水道やなんかが全部きちんと使えるなんてのは贅沢で、ロバート・テイラーでは誰もそんなことは考えない。
・Tボーンの帳簿で一番驚きだったのは、一番汚くて一番危ない仕事をしている若いメンバーの給料が信じられないぐらい安いことだ。Tボーンの記録によると、彼らの稼ぎは最低賃金に届くかどうかくらいだった。(中略)でも、ふたを開けてみると、プライスやTボーンだって年に3万ドルぐらいしか稼げていない。

« 前の記事へ

次の記事へ »

トップページへ