「戦後敗戦」7つの教訓

戦後敗戦

元朝日新聞主筆船橋洋一氏が、「石油危機」「プラザ合意」「半導体敗戦」「湾岸戦争」「ネット敗戦」「尖閣ショック」「福島原発危機」という7つの「戦後敗戦」をとりあげ、「教訓」を提示しています。

前作「宿命の子 安倍晋三政権クロニクル」でもあった、圧倒的な取材力からのディティールを積み上げた事実、そして大局観のある解説となっています。日本を取り巻く戦後の大きな負け戦から得られる知見は非常に大きく、今後のためにも非常に勉強になる一冊です。

特に「デジタル敗戦」については、インターネット業界にいるひとりとして、責任も感じてますし、非常に深刻に捉えています。規制やグローバル化、投資環境など産業構造的なものもありつつ、もっと自分にできることはできなかったのかと。

一方で、これだけ負け続けても、なんとか踏みとどまっている、という見方もできます。日本は経済力は落ちているかもしれませんが、一定の規模はありますし、社会的な分断は相対的に小さく安定しています。

いまの世界各地で勃発する戦争をみていると、経済力と防衛力は強化していかなければならないのは自明ですが、加えて日本には日本らしいプレゼンスを出していくことが、自らを守ることに繋がるんだろうなと思います。

文量が多いですが、どれもストーリーとしておもしろいので、そこまで長くは感じないと思います。戦後日本で何が起こってきたのかという歴史を知り、教訓にしていくべきだと思うので、ぜひご一読ください。

<抜粋・コメント>

過去数十年間の世界は、私たちが生きている間に経験できるであろう最高の世界だった。だがこれからは、安価で質がよく迅速な世界から、高価で質が悪くのろい世界へと急速に移行していく。なぜなら、この私たちの世界がばらばらになって崩壊しつつあるからだ。

ロバート・ゼーリックは次のように振り返った。 「中国はまったく間違った教訓をプラザ合意から引き出している。米国が日本にバブル経済になることを強制した、日本を引きずり降ろそうとした、と思っている。そうではない。日本はプラザ合意に当たって構造改革をしなかった、その失敗から学ぶべきなのだ。今、中国も構造改革をしていない 」  要するに、日本と中国はともに同じ間違いを犯している。どちらも構造改革を進めることができなかったという点において変わらない、ということである。消費より生産・重視の経済成長理念と輸出主導型経済システムからの脱却がうまくいかなかった。その点にこそ、失敗の本質はあったとゼーリックは見るのである。

私は、プラザ合意を評価するに当たっても、国際経済秩序の安定的枠組み構築とそれを維持する経済政策協調──それは、大国間の地政学的取り決めに他ならない──というシステム論の観点、そしてそこでの日本の戦略と国益の観点からその政策協調の是非を評価すべきであると考えていた。プラザ合意は米国の保護主義の爆発を防ぎ、揺らぐドル基軸通貨体制を下支えし、開かれた自由貿易秩序を維持する多角的な取り組みとして戦後の日本の画期的な政策協調であり、通貨外交であると前向きに捉えていた。

プラザ合意は、米国の保護主義を防ぎ、自由貿易秩序を維持するためでもあったと

Rapidus 支援やTSMC誘致などの産業政策復活の動きを「いつか来た道」と批判する声はなお強い。その根底にあるのは、経済自由主義である。政府の仕事は、企業の活動を指揮することではなく邪魔しないことであるという考えである。  しかし、2020年代以降、最適なものを最適な場所で生産して買えばいいというグローバル化時代の前提は崩れつつある。  半導体やAI開発のような巨大な投資を必要とする産業における政府の公共起業家精神が改めて求められるようになった。  この点では、日本もようやく変わりつつある。

半導体やデータセンター、ソブリンAIなどの政府支援への反対は根強い

ところが、「憲法 9 条を守れ」との掛け声の下、反対の声が上がった。航空会社は当初、物資輸送の要請を拒否した。パイロットと整備員のそれぞれの組合が反対したからである。中山太郎外相が、外国人の看護士、介護士、医師を日本政府の負担で周辺諸国に運ぶことを計画したが、日本航空の労組が拒否したため、米国のエバーグリーンの航空機をチャーターし、輸送した。一方、船舶の方は日本政府が軍需物資の輸送を民間の海運業者に依頼したが、全日本海運組合は反対した。それでも、政労協定を締結し、 2 隻の「中東貢献船」を派遣した。  物資協力も、似たような困難に直面した。

さらにその根底には、自衛隊に対する政治家のイデオロギーと無知が横たわっていただろう。  自衛官は入隊に当たって服務の宣誓を行うことが義務付けられている。遵法精神を堅持すること、政治活動への制限、に加え、次のことを宣誓する。 「事に臨んでは危険をも顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる」  任務遂行に生命をかけるという極めて重い誓いの言葉なのである。

当時、海上自衛隊幹部学校の指揮幕僚課程学生だった末次富美雄は、報道でこの言葉を知った時、他の多くの自衛隊員と同様に、「自衛官としての誇りを傷つけられたように感じた」と振り返っている。  大島理森は、「湾岸戦争に日本は合計130億ドルを拠出したが、あとに残ったのは人的貢献で責任を果たしえなかったというむなしさだった」と言う。ただ、「官房副長官として間近で見ていた立場で言えば、海部さんひとりが時代遅れだったのではない。戦争を経験したことのある日本人の多くが同じ思いを共有していたのではないか」とも記している 。

しかし、国際平和のための活動中に戦闘が起きた場合、現場から離脱しなければならない武装組織を、他国の軍隊は信頼するだろうか。もし、自衛隊がそうした行動を取れば、日本への批判は湾岸危機・湾岸戦争において「人的貢献」を行わなかったことに対する批判の比ではないだろう。他国の軍隊が同盟国の米国の軍隊だった場合、同盟は維持できるだろうか。

当時の日本の雰囲気がとてもよく分かります

兼原信克元国家安全保障局次長は「今のままでは、サイバー空間は日本のマジノ線になる」と警告を発している。第二次世界大戦で、400㎞に及んだフランスの対独要塞線(マジノ線) がその一番弱いところをドイツに見破られ、突破されたように、司令塔なき守り一辺倒のサイバー要塞は役に立たないと見るのである 。

長年、日本のネット産業をけん引してきた川邊健太郎LINEヤフー会長は米国主導のAI開発に対抗する日本の取り組みについて聞かれ、次のように答えている。 「時価総額が数百兆円あるような会社が、気合を入れて投資している状況で、対抗し得る勢力は国家しかない。国家が、そういうことを腰を据えてやるのは僕は賛成です。民間が強い米国を除いて、他国も安全保障の観点から、そういうものを国家が作るという風になっていくんじゃないでしょうか。軍事に近い感じになると思います」

AIやサイバーセキュリティは国家単位で戦略を立てて実行していく必要がありますね

2007年、IAEAは原子力安全・保安院の役割と原子力安全委員会の役割を明確にすべきである、と勧告した。安全委員会は、日本の規制は「国際的基準に照らしても非常に優れており、原子力安全の確保に有効に機能しているとの高い評価を、幸いにも得ている」との声明を委員長名で出し、勧告を一蹴した。  ここに覗くのは、安全規制に対する〝一国安全主義〟的なある種の優越感である。

福島原発危機以前の時代の空気を表しています


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