著者は元朝日新聞社主筆の船橋洋一氏で、膨大なインタビューと文献から安倍晋三政権の検証を大掛かりに行っています。
私はこの本で、第2次安倍政権の権力中枢の政策決定過程の舞台裏のドラマを検証することを試みた。調査報道と銘打った次第である。調査報道とは、独立した立場から、当事者の間に埋もれ、表に出ない核心の事実を掘り起こし、社会にとって重要な課題を提起する検証ジャーナリズムであると私は考えている。
そのため文量もとんでもなく多いですが、政治というものがどのように動いているのかが垣間見れて、非常に勉強になりました。本当に官邸、政治家、官僚、世論、各国政府などが渾然一体としながら、予定調和というものがなく、思ったより全然がちんこでさまざまなことが決まっていってるのだと知りました。
内容は多岐にわたっており、私もすべての政治トピックを追っているわけではないので、結果も含めて覚えていないことも多く、緊迫したドラマをみているようで、大変スリリングでした。
ビジネスと大きく違うのは、財務諸表のような明瞭な結果がすぐ出るわけではなく、対外的に言えば、国益を第一としながらも、世界の安全や経済、相手国の都合を考えながら、意見を戦わせて相互の理解を進め、妥協点を見出していくという極めて困難な仕事になっていることでしょうか。かつ国内も、選挙があり、右から左まで違う考えを持つ世論とそれを代表する政治家も考慮しなければなりません。
ほとんど解くことができない難解なパズルを、長期で取り組み続けたというのが安倍政権だったのだなと思いました。大きな批判もあったし、進まなかったこともたくさんありますが、少なくとも安倍政権の「積極的平和主義」は大きな方向性を示したと思うし、国際社会での日本のプレゼンスは間違いなくあがりました。
もちろんそれらを安倍氏がひとりで成し遂げたわけではなく、官邸という強固なチームを作り、自民党や連立与党から時に野党の政治家も巻き込んで、清濁併せ呑んで、物事をなんとか前進させようとしています。
これらを、安倍氏が岸信介や安倍晋太郎の血を引く「宿命の子」であったからやりきれた、と船橋氏は書いています。私はあまりそういったものに縛られない生き方をしたいタイプですが、安倍氏が大きな挫折(第一期の崩壊など)がありながらも、都度復活し、凄まじいプレッシャーの中で、非常に難しい政治的決断をしてきたことを考えると、「宿命の子」と言っても過言ではないなと思いました。
安倍氏を暗殺で失ったのは大変残念ですが、改めて世界の中での日本のポジショニングは相対的に悪くはないし、よき政治家たちもいるので、もっとよくなる、よくできるのではないかなとも思いました。
非常に長いですが、日本を知る、世界を知る、という意味で読む価値のある一冊です。