人生のジレンマを考える「イノベーション・オブ・ライフ」

「イノベーションのジレンマ」のクリステンセン教授の最終講義。ビジネスでの豊富な事例からライフ、すなわち人生に対する戦略を考えるという意欲作。それぞれのストーリーは非常におもしろくて、それを人生論に転換する著者の持論も勉強になりました。

ただ、書かれている結論は割りと普通ではあり、かつ人生というのはすべての人にとって違うものなので最終的には自分で判断する他ない。ストーリーはあくまでストーリーと割りきって頭の片隅においておくくらいがちょうどいいなと改めて思いました。

<抜粋>
・戦略は一度限りの分析会議で決定されるようなものではない。たとえば上層部の会議で、その時点で得られる最良のデータや分析をもとに決定されるのではない。むしろそれは持続的で、多様で、無秩序なプロセスなのだ。このプロセスを適切に進めることは、本当に難しい。意図的戦略と新たな創発的機会は、資源をめぐって互いと争うからだ。一方では、成功している戦略があれば、それに意図的に集中して、全員の取り組みを正しい方向に向けなくてはならない。だが反面この集中のせいで、次の大きな潮流になるかもしれないものを、妨げになるとして、却下してしまうおそれがある。
・企業が戦略を立てる方法を見ていてわかるのは、始めのうちは有効な戦略を見つけるのは難しいが、だからと言って成功できないわけではないということだ。むしろ企業が成功できるかどうかは、有効な手法を見つけるまで、試行錯誤を続けられるかにかかっている。
・人生のなかの家族という領域に資源を投資したほうが、長い目で見ればはるかに大きな見返りが得られることを、いつも肝に銘じなくてはならない。仕事をすればたしかに充実感は得られる。だが家族や親しい友人と育む親密な関係が与えてくれる、ゆるぎない幸せに比べれば、何とも色あせて見えるのだ。
・皮肉にもホンダが成功したのは、当初の台所事情があまりにも厳しく、利益モデルが見つかるまでの間、気長に成長を待つほかなかったからだ。もしアメリカ事業により多くの資源を配分する余裕があったなら、たとえ儲かる見こみはなくても、さらに多額の資金をつぎこんで大型バイク戦略を追求していたかもしれない。これは投資という観点から言えば、「悪い金」にあたる。だが実際のホンダには、スーパーカブに注力する以外、ほとんど打つ手がなかった。生き延びるには、小型バイクのもたらす利益がどうしても必要だった。これが、ホンダが最終的にアメリカで大成功を遂げた、一番の理由だ。ホンダはやむを得ない事情から、理論に忠実な方法で投資をするしかなかったのだ。
・リズリーとハートの研究では、子どもたちが学校にあがってからも追跡調査をした。子どもたちに語りかけられた言葉の数は、彼らが生後30ヶ月に聞いた言葉の数とも、成長してからの語彙と読解力の試験の成績とも、強い相関関係があった。
・意外に聞こえるかもしれないが、人間関係に幸せを求めることは、自分を幸せにしてくれそうな人を探すだけではないと、わたしは深く信じている。その逆も同じくらい大切なのだ。つまり幸せを求めることは、幸せにしてあげたいと思える人、自分を犠牲にしてでも幸せにしてあげる価値があると思える人を探すことである。わたしたちを深い愛情に駆り立てるものが、お互いを理解し合い、お互いの用事を片付けようとする努力だとすれば、その献身を不動のものにできるかどうかは、わたしの経験から言えば、伴侶の成功を助け、伴侶を幸せにするために、自分をどれだけ犠牲にできるかにかかっている。
・相手のために一方的に何かを犠牲にすれば、相手との関係を疎ましく感じるようになると思うかもしれない。だがわたしの経験から言うと、その逆だ。相手のために価値あるものを犠牲にすることでこそ、相手への献身が一層深まるのだ。
・企業が生き残るには、企業戦略を支えるものごとを、従業員に優先させなくてはならない。そうでなければ、従業員は企業の基盤をゆるがすような決定を下してしまうことがある。
・優先事項は、子どもが何を最も優先させるかを決定づける。実際、これはわたしたちが子どもに授けられる能力のなかで、最も重要なものかもしれない。
・従業員が選択した方法が、問題解決に役立っているとき(完璧である必要はなく、十分な成果をあげればよい)、文化が醸成される。文化は社内の規則や指針という形をとり、従業員はこれをもとに選択を下すようになる。(中略)このことの何がよいかと言えば、組織が自己管理型になることだ。従業員に規則を守らせるために、管理職が逐一監視する必要はなくなる。全員がなすべきことを直感的に進めていく。
・家族に思いやりが含まれる問題に初めてぶつかったとき、その解決策を選ぶように手助けし、それから思いやりを通じて成功できるよう手を貸してやろう。また子どもが思いやりの選択肢を選ばなかった場合は、そのことをたしなめ、なぜ選ぶべきだったかを説明する。
・わたしたちが人生で重要な道徳的判断を迫られるときには、どんなに忙しいときであろうと、またどんな結果が待っていようと、必ず赤いネオンサインが点滅して、注意を即してくれると思っている人が多い(中略)問題は、人生がそんなふうにはできていないことだ。
・「ぼくがほしかったのは……成功だ」と彼はBBCに語っている。彼の動機は金持ちになることではなく、いつまでも成功者と見られたいという願望だった。リーソンは最初の損失がこのイメージをゆるがしたときから、シンガポールの刑務所の独房に直結する道を歩み始めた。
・ほとんどの人が「この一度だけ」なら、自分で決めたルールを破っても許されると、自分に言い聞かせたことがあるだろう。心のなかで、その小さな選択を正当化する。こういった選択は、最初に下したときには、人生を変えてしまうような決定には思われない。限界費用はほぼ必ず低いと決まっている。しかしその小さな決定も積み重なると、ずっと大きな事態に発展し、その結果として、自分が絶対になりたくなかった人間になってしまうことがある。わたしたちは無意識のうちに限界費用だけを考え、自分の行動がもたらす本当のコストが見えなくなってしまうのだ。
・あなたも本書の助言を最大限に活かすには、人生に目的をもたなくてはいけない。