日本でもインフレが進む中で、ハイパーインフレが起こった第一世界大戦後のドイツで何が起こったかが描いてあるということで、興味を持って読みました。元々は1975年に刊行され、ウォーレン・バフェットが知人に必読書と進めたことから、再刊されたようです。つまり、かなり前に書かれたものなわけですが、今でも色褪せていません。内容はルポタージュになっており、当時の世相が非常にリアルに感じられます。
実際、産業界が一見活況を呈したことが、インフレの問題を複雑にした。ドイツの産業界は過去 12 カ月間、大幅に業績を伸ばしていた。恒常的なマルクの下落のおかげで国際的な競争力をかなり高めていたことに加え、政府の経済政策でさまざまな形の大規模な助成を受けたからだった。企業家は外国人の前では、極端に悲観的な話を巧みに語るので、今の状況では 10 時間労働制の復活が欠かせないという主張にも賛同を得た。しかし現実には、鉱山労働者はイギリスやフランスの同業者の支持のもと、労働時間の延長を拒みつつ、充分に仕事をこなしていた。重工業界の有力者ティッセンも述べたとおり、ほとんどの労働者は、貧困から脱するためには政治的な意見を言うより働くことがたいせつだと気づいていた。
意外だったのが、ハイパーインフレ下では企業が活況を呈していたことです。確かに物の価値がどんどん上がるという中では、借入金は縮小されるし、今稼ぐ力がある企業にとっては、インフレというのは悪くない状況なのかもしれません。
ほとんどのドイツ人はドルが値上がりしているのであって、マルクが値下がりしているのではないと思っていた。食べ物や衣服の値段が上がっているのであって、通貨の価値が下がっているのではないと受け止めていた。紙幣マルクの大量発行のせいで、紙幣の購買力がとめどなく下がり続けているとは考えなかった。
─途方に暮れ、幻滅を味わった。国の自信は繁栄もろとも失われていた。社会道徳は低下し、制度は崩れた。悲観主義や不穏な空気が広がるなか、安心や、地域社会の一体感や、愛国心は消えた。フランスの軍国主義者に対する観念的な憎しみも、フランス全般に対する憎しみも、かつてヨーロッパで最も法を尊んでいた国民をひとつにまとめられなかった。国家そのもののしくみが、倫理観とともに瓦解しようとしていた。インフレによって精神的、物質的、社会的に破壊されたドイツの状況は、想像を絶するほど悪化していた。
いちばん影響をこうむっていなかったのは、農村部の地主や農民たちだった。農民たちは食べ物のほとんどを自給でき、農産物の値段を小売り店と同じように頻繁に引き上げていた。ただし土地を持たない小作人の暮らしはそれほどはよくなかった。出稼ぎ労働者は新しいハンガリーの国境線に移動を制限されたせいで、最低限の収入さえ得られなくなっていた。
一方で、(地主や農民などを除き)一般のひとの多くは、かなり深刻なダメージがあり、モラルが失われたことで社会全体が不安定化しました。
国際連盟が恐れたのは、オーストリアの破綻よりも、オーストリアが隣国──ドイツや、バイエルンや、イタリアや、ドナウ川流域国──との関税同盟を結ぶこと、あるいはそれらの国々と合併して、政治的な強国を形成することだった。実際、財政支援以外には、それが唯一の実行可能な解決策として急浮上しつつあった。オーストリアがイタリアの保護領、大イタリアの一部になるかもしれないという恐れは、フランスに再考を促すのに充分だった。
革命やクーデターがいつ起こってもおかしくはありませんでした。それに対して、ヨーロッパの複雑な外交関係により、ルール地方を占領されたルール紛争などもあり、混乱に拍車をかけていました。
実際のところ、信用詐欺はうまくいった。1923年に農作物を分配するために設計された一時しのぎのレンテンマルクが、1年後にライヒスマルクが導入されるまで1兆マルク札の地歩を守る武器となった。ブレッシアーニ・トゥローニはこう述べた。「新しい紙幣には古い紙幣とはちがう名前が付いているという単純な事実をもとに、国民はそれが紙幣マルクとはちがうものだと考えた。(中略) 兌換 できない紙幣であるという事実にもかかわらず、新しい通貨は受け入れられた。それは保有され、すぐには使われなかった」
また、大きかったのが、当時貨幣に対する信用というのが、大量発行によって、失われていることがあまりよく分かっておらず、金融政策がどんどんインフレを悪化させた、というのもあります。そういう意味では、今は経験値も溜まっているので、ここまでのことにはならないかもしれません。
とはいえ、時代が変われば、また違うということもありえるため完全に楽観視はできません。現在は、世界経済が複雑に絡み合っており、システミック・リスクが高くなっているのは自明なので。できることとしては、個人としても、企業としても、ともかくどんな状況でも価値を生み出せるようにしておくしかないと思いました。