ドン・キホーテ創業者の安田隆夫氏はガンを患っており最後の作品であるとして本書を上程しています
本書はおそらく私にとって最後の作品になるが、いま私のなかで改めて、一つの確信が深まっている。それは、積極的にリスクを取り、挑戦を続ける者だけが、仕事や人生において「勝利」を摑めるということだ。
しかも、目指すべきは単なる「勝利」ではない。「圧勝」である。勝って勝って勝ちまくり、「これでもか」という気迫で大勝ちを取りにいかなければならない。私はこれを「圧勝の美学」と呼んでいる。そうやって目一杯の果実を収穫しておけば、不運が巡ってきたときに耐え忍べるし、思いきった挑戦をすることも可能になるのだ。これは一個人の人生だけでなく、日本という国全体にも通じる考えである。
生きているうちに恩返しの社会貢献をしたい 私は本来、いわゆる名誉欲とか名声欲などは希薄だから、ドンキ創業以来、社業と経営を何よりも優先して取材・インタビュー等の依頼はできるだけ断り、露出することを極力自制してきた。ただ、『運』を執筆・刊行して、今回の一連の対談やメディア露出等をお引き受けするようになったのは、やはり思いもよらなかった重篤なガンの罹患によるところが大きい。
実は前作の「運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」」を読んで感銘を受けた私は幸運にも安田氏と何度かお話する機会を得ました。当然大変勉強になったのですが(同時にとても楽しかったです)、若手(でもないですが、安田さんからみれば)起業家への期待だと思っており、積極的にリスクを取り、挑戦を続けたいです。
本書は、SBI北尾氏、ニトリ似鳥氏、サイバーエージェント藤田氏、そして早稲田大学入山氏との対談で構成されており、「運」についても繰り返し触れています。
運がいい人とそうではない人の違いは、与えられた運をどう使い切ったかです。運のいい人とは「運を使い切れる人」、運の悪い人とは「運を使い切れない人」あるいは「使いこなせない人」だと言えます。 人生には幸運と不運が交互に訪れますから、不運のときは下手に動かず、チャンスが巡ってきたら一点突破でがむしゃらに突き進む。そうすれば、自分自身でコントロールできるようになります。
似鳥 実は私もね、『運は創るもの』(日本経済新聞出版社) という本を出しています。 運とは、それまでの人づきあい、失敗や挫折といった経験から醸成されるもの。決して偶然の産物ではないですよ。 安田 運は、自らの行動によって変動する「パラメータ」のようなものですね。起点となる運への対応の仕方によって、幸運にも不運にもなる。運に向き合う感受性を磨くことが、経営者には重要なんです。
安田 これまでも思う存分、運を開いてこられたんだから。こう思うことはありませんか? 「こんなに運が良くていいんだろうか」って。 似鳥 しょっちゅう思っていますよ。落ちこぼれだった自分のもとに、こんなに優秀な学生がいっぱい来てくれて……。家内からもよく、「あんたが経営していてよく会社が潰れないね」と言われます(笑)。
(安田) 「運の良い人」とは「運を使い切れる人」であり、「運の悪い人」は「運を使い切れない人」 です。 藤田 そうですね。実際、合理的に麻雀の研究をしている麻雀プロたちも、よく「この牌を切ったほうが牌効率が良い。でも、結局は七~八割は押し引きなんだ」みたいな話をしています。でも、そこで「最後は運に任せる」なんて言われると、私なんかは「うーん」と思ってしまうんです。その「運」とどう向き合うかこそが大事 なのに、と。 安田 短期的な「運」はコントロールできなくても、中長期的な「運」はコントロールできる。そのためには、その時々で最も正しい選択を取り続ける忍耐力が必要です。
その他、後継者や才能、企業思想から、文化(麻雀含む)についてなど、幅広い話題に対して、とても率直にお話しているのが印象的で、とても読みやすいのに内容は深く、大変勉強になりました。
安田 私は「未来の経営者」の資質を次のように定義しているんです。「複雑な事象の本質を見抜いて単純化し、そのうえで、いろんな人を巻き込んで、理解から納得に落とし込んでその気にさせる。また、問題解決に向かっての方法論を同時複合的に創案し、かつ、それらを適時変化対応して応用することのできる能力」。これが、次世代に求められるもの。ただね、実際はこんな完璧なヤツが現れるわけはないんです(笑)。
安田 むしろ、 本来ならば、会社のためにどうしたらいいのか、社員のみんなのためにどうしたらいいのかと常に考えて動くような人こそが、社長にならなくちゃいけない わけです。ところが、こうしたタイプの人は、大企業では変わり者として爪弾きにされることも多いですよね。ここが、中国や韓国のオーナー経営の企業に日本企業が勝てない原因だと思います。優秀な人はいるのに、社長になれない。不適格な人物が社長になってしまう。
安田 私は、 社長業を楽しむようではダメ だと思っています。 社長という立場は苦しいもの です。で、その苦行に全力で取り組めるのは、六年から八年程度なんですね。吉田は社長に就任して六年になりますから、そろそろなんです。彼には、社長時代に手をつけられなかったボトルネックを抜きにいけと言ってます。新しい仕事をしろと。 入山 だから、前向きな人事なんですね。
後継者についてもこのような感じで、かなり率直です。メルカリでもサクセション・プランニングをはじめています。非常に悩ましいところで、圧倒的成果を出してもらいたいですが、最後は実績や優秀さというより、会社の未来に対して反脆弱性を作り出せ、アニマル・スピリットが強いひとなのかなと思っています。
入山 では、会長は基本的にボトルネックとだけ向き合っているんですね。 安田 そうです。私の場合、常に五個とか六個とかのボトルネックが頭の中にズラーッと並んでいます。で、これを抜けるために仮説を考えるわけです。仮説が一〇〇%正しいということはまずなくて、大なり小なり間違えることになる。そうしたら、また新しい仮説を考える。これを繰り返すことでボトルネックを突破するのが私のやり方です。
入山 ボトルネックについて考えるときは、やっぱりお一人なんですか? それとも、社員の皆さんと相談されるんでしょうか? 安田 一人で考える場合と、社員と話をしながら考える場合と両方ありますね。幹部社員だけでなく、現場の一般社員と話していて重要な点に気づかされることもあります。「そうか、ここがボトルネックになっているんじゃないか」って。七割くらいは、誰かと会話をしている中で気づくかもしれません。三割くらいは、自分一人でウンウンうなりながら考えた結果です。
安田 うん。ガッと頭に浮かんできますね。その後、当然のことながら、付帯していろんな問題が山のように発生してきます。それらを全部まともに受け止めてしまうと、複雑すぎて自分でも解決できなくなるんですよ。だから、 複雑な事象をなるべく単純化した上で方法論を組み立てる。で、チームをつくって メンバーに「腹落ち」をさせる。ここに落とし込めるかどうかがポイントで、私はいつもそのことしか考えていないんです。
安田 私自身、一〇〇%の確信があって「絶対にこうしろ」と言うわけじゃなくて、「たぶんこうだと思うんだけど、みんなで議論してみようよ」って感じなんです。そうやって話をしているうちに、余計なものが剝がれて、実態に近づいていって、「あ、これだ」という方法に辿り着く。こうやって見つけたものは、確度が高くて成功しますね。
普段の仕事についても解像度高く言及されています。私もできるだけいくつかの大きなボトルネックに集中したいですが、なかなか難しい。権限委譲含めて経営システムが整っているからだと思っていて、この状態までいけているのは本当にすごいと思います。
最後に「渾身のラストメッセージ」が書かれています。ぜひ本書でご確認いただきたいです

