一般常識とは異なる効果「ソーシャルメディア・プリズム」

デューク大学社会学および公共政策教授クリス・ベイル氏が、一般的にソーシャルメディアで言われているエコーチェンバー効果に対して、対立意見に触れられるようにすることでお互いの理解が進む、というような常識を否定し、むしろ逆に強化されるという「ソーシャルメディア・プリズム」を提唱しています。

ここで少々立ち止まり、人が自身のエコーチェンバーから出ると一般的にはどうなると言われているかを思い出そう。まず、対立見解と向き合うことで内省が促される。また、どのような話にも二面性があることに気づくようになる。考えのより良い競争が生まれるし、私たちが互いを教化するのを促したり、仲間割れする要素よりもひとつにまとまる要素のほうが多いと気づかせたりする。やがて、こうした経験を経て誰もがより穏健でより見識の広い市民になり、持論を考える際には幅広い証拠を考慮するという務めを律義に果たすようになる。なかには、こうした経験を経て、相手方の合理的な主張を指摘しつつ自分の側の過激主義者を批判するようにさえなる、と考える向きもある。

ソーシャルメディアをきわめて理想化したこのビジョンは、今となっては異様に思えるかもしれない。だが、こうした予言を突き動かしていた論理──人をつなげるのがもっと簡単になれば民主主義はより効果的に機能する──はテクノロジー業界をリードする大勢を今なお突き動かしている。たとえば報道によると、フェイスブックのCEOのマーク・ザッカーバーグは、フェイスブックユーザーは何をフェイクニュースと見なすべきかを的確に熟慮できると信じている。フェイクニュースという言葉そのものが政争の具となっているのにだ( 13)。同様に、ツイッターのCEOのジャック・ドーシーは、ツイッターのアルゴリズムを微調整してユーザーがもっと多様な見解に触れるようにすることを検討してきた。そうすることで穏健化が進むと考えているからである

ソーシャルメディア・プリズムによって、社会的ステータスを求める過激主義者は勢いづき、ソーシャルメディアで政治を議論しても得るものはないに等しいと考える穏健派は〝ミュート〟され、私たちの大半は反対派を深く疑うようになる。そして、ともすると分極化そのものの広がりについても疑うようになるのだ。

つまり、反対派の過激主義な発言に触れることで、逆に同じ意見がプリズムのように強化されると。かつ穏健なひとたちは双方の過激派にコメント(攻撃)されるのを嫌がり発言を控えることで、ソーシャルメディア上から存在しなくなってしまう、という効果もあると言います。

そもそもソーシャルメディアになぜハマるのか、という点も、人間の性質として、アイデンティティを出して試しては反応をうかがい、自己認識を更新していく、ということが非常にスピーディーに行えるから、としています。

私たちがソーシャルメディアにやみつきなのは、目を引く派手なコンテンツが表示されたり気を散らすコンテンツが延々と流れたりするからではなく、私たち人間に生得的な行動、すなわち、さまざまなバージョンの自己を呈示しては、他人がどう思うかをうかがい、それに応じてアイデンティティーを手直しするという行動を手助けしてくれるから

本書で言われている内容は、直感に反するものも多く、常識や今までの取り組みの多くを否定するものですが、様々な調査結果から裏付けられているとしています。さらに、それではどうすればよいか、という野心的な提案もされています。

想像してみよう。ステータスをより高貴な目的に結び付けたプラットフォームを開発したらどうなるかを。政敵を見事やり込めたユーザーにではなく、どちらの党派にもアピールするコンテンツをつくったユーザーにステータスを与えるプラットフォームを。プラットフォームの目的をより明確に言語化すれば、それに基づく原則をシステム全体のアーキテクチャーに埋め込むことができる。そうして開発されたプラットフォームは、物議を醸したり軋轢を生んだりするコンテンツは増長させず、幅広いユーザーの心に一斉に響くメッセージのランクを上げることができる。すでに意見の同じ人のフォローはレコメンドせず、受容域の範囲内の人と接触させることができる。

偽りの分極化と闘うために、われわれが分極化研究所で開発してきたようなツールをあらかじめ用意するという手もあろう。たとえば「いいね」カウンターの代わりに、イデオロギー的尺度でどの辺りの人が自分の投稿に反応したかを青、赤、紫で示すメーターを用意するとか。人工知能を活かせば、粗野なコンテンツや偏見に満ちたコンテンツを投稿しようとしているユーザーに、自分の目的をよく考えるよう促すこと、あるいは相手方に訴える価値観でメッセージを言い換えるよう支援することができそうだ。 

定性的な調査も多く精査が必要ですし、提案は荒削りだとは思いますが、これからの社会や求められるサービスについて数多くの新しい示唆があり、非常に勉強になりました。インターネット・サービスをつくっていくひとたちには必読かなと思います。