海外事例から学ぶ「取締役会の仕事」

コーポレート・ガバナンスに知見のあるコンサルタントや大学で教鞭をとる著者たちが、米国中心に先進的なモニタリング型の取締役会の豊富な事例を紹介しています。また、様々なチェックリストなどもあり、非常に有用です。

内容は若干冗長なところもありますが、逆に様々な事例が紹介されているので、モニタリング型の取締役会のイメージがかなりクリアになりました。ただ、成功事例・失敗事例は片面からの見方ではあると思うし、実際のところは運も含めて、様々な要素が絡み合うものだろうなと思います。

メルカリには、永続的に成長していける会社になって欲しいので、洗練されたコーポレート・ガバナンスを志向しています。2年前に取締役会を監督と執行に分けて、社外取締役多数により監督をし、上級執行役員会で執行をする体制にアップデートしました。そして、取締役会で(攻めとして)大上段の戦略やロードマップの議論、逆に守りとしての各種リスクの議論をできるように、アジェンダ設定を試行錯誤してきました。最初はなかなかうまく行かないなと思うこともありましたが、今は徐々に仕組み化も進んできたと思います。

まだ全然発展途上ですが、本書も踏まえて、少しづつ前進していきたいと思います。

以下、参考になった部分を抜粋コメントします。

<抜粋・コメント>

こうした現状を踏まえれば、ここで取締役会のリーダーシップをより正確に定義すべきだろう。これまでの会社にはCEO、会長、筆頭取締役、主宰取締役など、あいまいで統一性のない組み合わせのまま役職が混在していたが、わたしたちはシンプルに、経営のトップを会長兼CEO、取締役のトップをボードリーダーとすることを提案する。

CEOを執行、取締役代表者(ボードリーダー)を監督として、定義することを勧めています。

同時に、ボードリーダーは取締役と経営幹部の間に引かれている暗黙の境界線を尊重しなければならない。「取締役会が経営陣の前でCEOの権限を奪うようなことがあってはならない」のである。「気軽に質問をして、必要な情報を得ることは大事だが、経営陣に指示をしてはいけない。それはCEOの仕事だから」。取締役が経営陣に不安を抱いているときには、CEOと内々で議論を深められるように筆頭取締役がお膳立てすべきだ、とヒルはアドバイスする。

経験者たちの話をまとめると、ボードリーダーの責務は文書化することが望ましく、その際には少なくとも、エグゼクティブ・セッションで議長を務めることと、取締役会と各取締役の評価を年に一度主宰することを含め、さらに、CEOと協力しながら株主やステークホルダーに必要な情報を伝えたり、各委員会の委員長を任命し、各委員長との協力体制をつくるという任務も明記すべきだという。取締役と経営陣の良好な関係づくりや、CEOとボードリーダーの後継者の育成も忘れてはいけない。話をしてくれたボードリーダーが口をそろえて強調したのが、CEOやほかの取締役との信頼関係や協力体制の必要性だった。取締役会の議論を、基本理念と価値創造に集中させるためには、こうした要素が欠かせないという。また、相互評価などにより機能していないとみなされた取締役に対して個人的に働きかけたり、場合によっては解任するために動かなければならないという点を強調する人もいた。

委員会憲章  ほとんどの会社は、各委員会が責任を持つ項目をあらかじめ定めている。委員会の勧告には取締役全員の承認を必要とするものも多いが、実際の決定はおおむね委員会のなかで行われる。たとえば、ヘルスサウスの報酬委員会の憲章には、取締役が外部の報酬コンサルタントを選任することと、報酬プラン、株式報奨、経営幹部の雇用契約をレビューすることが定められている。

それぞれのひとや機関に対して、「責務」「行動規則」「委員会憲章」などを作ることを勧めています。

そこには次のような質問が並んでいて、自分以外の取締役の欄に回答を記入していくのだ。
1 取締役会に役立つスキルや経験を提供しているか。
2 準備したうえで取締役会に臨んでいるか。
3 基本理念と企業戦略を理解しているか。
4 有益な質問をしているか。
5 事業の展開に役立っているか。
6 議論を前に推し進めているか。
7 取締役同士の関係や、取締役と経営幹部の関係が良好なものになるように努めているか。
 問題ありと評価された項目がある場合、ボードリーダーは行動に出るべきである。一例として、テクノロジー関連の上場企業の取締役会が2012年に実際に使用したものを巻末(付録B)に載せておく。

これは取締役の相互評価についてですが、こういったチェックリストを数多く掲載してくれているのは大変ありがたいです。

CEOには、過度な干渉を避けながら取締役と協働する方法を、ほかの経営幹部に指導するという役割もある。あるバイオテクノロジー会社のCEOは、取締役の質問に答えるときには、無関係な質問を呼び起こすような答え方をすべきではないと経営幹部に注意を促している。取締役の信頼を得ることは重要だが、取締役会は、細かい項目を不必要に掘り下げて自己アピールする場ではない。ボードメンバーは「与えれば何でも食いつく」ので、議論を脱線させることがないように、取締役会に提供する情報は慎重に選ばなければならない。さらに、このCEOは、適切な対応を事前に知っておいてほしいという考えから、新しい取締役には、会議ではどの程度の深さの議論が求められるかといったことについてオリエンテーションを行っている。

メルカリでも以前は取締役会の資料と経営会議の資料が同じものを流用していましたが、今はより上段の議論をするためにイチから作り直すこと。また参考資料の添付は細かくなりすぎるので、できるだけ議題の中に含めるようにしています。

第一に要件、第二に能力  おそらく自然な流れなのだろうが、多くの取締役会はCEOを探すとき、まず候補者の能力に注目してからリーダーシップの要件を考える。しかし、望ましい手順はその逆で、まずリーダーシップの要件を考え、それから候補者の能力を検討すべきなのだ。

2012年も終わりに近づくころ、取締役会はもう一度CEOの要件を見直し、最終候補者がそれらを満たすかどうか検討した。候補者は定期的に取締役会に出席していたが、彼らにはあらためて次回の取締役会で発表してもらいたいテーマを指示した。内容は次のようなものだった。
●会社の戦略をどのように修正するか。
●市場の変化や社会からの期待といったさまざまな要素のなかで、会社にもっと大きな影響を与えるのは何か。
●株主価値をどのように増大させるか。
●意思決定過程を効率化するために誰をスカウトするか。

CEOの指名については、まずは要件を決めることが重要といい、具体的な事例も紹介してくれています。

P.S.「決定版 これがガバナンス経営だ!」も大変オススメです。