脳の仕組みについては実はよく分かっていませんが、そこに独創的なアイデアを提示する意欲作です。著者は、なんとパーム・パイロット(90年代の携帯情報端末)の創業者でもあるジェフ・ホーキンス。その売却資金を元に研究所を立ち上げて、現在はUCバークレーに移管して研究を続けている鬼才です。
説明するのが難しいのですが、、、
・大脳新皮質にある皮質コラムが、様々な入力デバイス(視力、触覚など)からの入力をモデル化したものを記録する
・何か新しい入力があったときに、次の入力を皮質コラムが予測する
・そして違う入力があった場合には学習をして、新たにモデル化する
・これを絶え間なく繰り返しているのが人間の脳である(意識もそこから生まれる)
という感じでしょうか。ひとつの脳があるというよりは、大量の皮質コラムが予測と学習を繰り返すため、著者はこれを「1000の脳」理論と呼んでいます。
考えられる説明はひとつだけだった。私の脳、厳密には私の新皮質は、何を見たり聞いたり感じたりしようとしているか、同時に複数の予測を立てているのだ。私が眼を動かすたびに、新皮質はこれから何を見るのかを予測する。私が何かを手に取るたびに、新皮質は指が何を感じるはずかを予測する。そして私が行動を起こすたびに、何が聞こえるはずかを予測することになる。コーヒーカップの取っ手の手ざわりのようなごく小さい刺激も、カレンダーに示されるはずの正しい月のような包括的な概念も、脳は予測する。こうした予測は、低次の感覚特性のためにも高次の概念のためにも、あらゆる感覚様相で起こる。このことから、新皮質のあらゆる部位、ひいてはあらゆる皮質コラムが、予測をしていることがわかった。予測は新皮質の普遍的な機能なのだ。
そして、それは普遍的な機能であるから、何にでも適用できると。手を伸ばして何かをつかむといった物理的なものだけでなく、文章を読むとか、数学とか、民主主義とか、すべての概念も学習できる、というわけです。
脳はまず、私たちが世界を動きまわれるように、環境の構造を学ぶための座標系を進化させる、と断定した。次に、脳は同じメカニズムを使って、物体を認識して操ることができるように、その構造を学ぶように進化した。いま私が提案しているのは、脳はまたもや同じメカニズムを使って、数学や民主主義のような概念的対象の根底にある構造を学んで表現するように進化した、ということである。
概念は難しいのですが、順を追って分かりやすく説明されていますし、実体験の実感も強いので、すんなりと頭に入ってきます。後半では、その理論を使い、汎用AIは作れるのか? からAI脅威論、永遠に生きる脳、脳と機械の融合、長期的な人類の行末、など幅広い可能性について解説しています。
非常に刺激的な内容のため、消化に時間がかかりそうですが、この理論が正しいにせよ間違っているにせよ、非常に重要な考え方を示していると思われるため、大変おすすめな一冊です。