今後無視することはできない「ブロックバスター戦略」

一時期クリス・アンダーソンの「ロングテール」理論が脚光を浴びましたが、近年実際にはエンターテイメントの世界で真逆にソーシャルメディアなどで拡散力が広まったこともありメガヒットが連発されています。

例えばレアル・マドリード(世界最大予算のサッカークラブ)やワーナー(ハリウッドのメジャー映画配給会社)、レディ・ガガ、シャラポワなどの例を詳細に解説しており、ヘッドの部分に投資を集中させリターンを最大化するかというブロックバスター戦略が成功を収めています。一方で、iTunesの売れた曲のうち1/3は1曲しか売れていないなどロングテールがほとんど機能していない例も挙げられています。

本書はエンターテイメント中心なのですが(一部ファッションやサービスの話もあり)、インターネット業界でも、GoogleやFacebookなど一部のメガベンチャーに一流の人材が集中し、それがサービスを進化させ(競合に差をつけ)ユーザーを増やし、それが収益を増やし、またひとを集めるという流れを生み出していることを考えると、個人的にも非常に考えさせられるものがありました。基本的には、ブロックバスター戦略はインターネット業界にも有効になりつつあるので、うまく取り込んでいかないとなと思っています。

今後の世の中の流れを考える上で非常に勉強になる一冊でした。

<抜粋>
・ここで、ひとつの原則が鮮明に浮かび上がる。エンターテインメント企業は、創造性豊かな人材との関係を継続させるためならどんな苦労も厭わない、という原則だ。
・ブロックバスター戦略の成功は、マーケティング費用を含めて考えると一層明らかになる。高額を投じた作品ほど、広告の効率性がいいのだ。「製作費1億5000万ドルの映画の広告宣伝費は、たとえ市場を飽和状態にしても、製作費7500万ドルの映画の2倍というわけではない★14」。
・次に、出版社でもスタジオでも、ブロックバスター狙いを敬遠してばかりいると、才能あふれる編集者や映画製作者、テレビプロデューサー、クリエイティブな人たちは職を辞して、大きな成功のチャンスを追求できる会社に移るだろう。
・第一に、低予算の投資はテストケースの役割を果たせるからだ。小さな賭けを妥当な数だけ行えば、メディア制作者が次の大ヒットシリーズを見出す手がかりとなる。
・この話で思い出されるのは、ワーナー・ブラザーズが開催したホーンの送別パーティーでの出来事だ。ジョージ・クルーニーが満座の中で、「俳優たちがやりたかったのに、スタジオ側はやりたくなかった諸々を支持してくれたこと」に対して、ホーンに感謝の意を伝えたのだ。賢い一流俳優は、この種の姿勢を決して忘れず支持者になってくれるものだ。
・どうしてなのだろうか。どうしてレディー・ガガを支えるチームは、かつてはあれほどうまくいった口コミを利用した戦略から手を引くことにしたのだろうか。ガガの新アルバムなら飛ぶように売れるはずなのに、レコード・レーベルの経営陣は、不必要なマーケティングの支出を抑えたいとは思わなかったのだろうか。
・「要は、多様なグループを見つけることが大事なんだ。ゲイ・コミュニティ、ダンス・コミュニティ、クラバー・コミュニティ、ファッション・コミュニティ、アート・コミュニティなどを、ガガのファン層に育てることが必要だ。だからあとになって、ラジオで売り込もうとしたときには、もう何カ月もガガを追っている強力なファン層がいたし、彼らはガガの成功に自分たちも貢献していると感じていた」。
・最終的に、エンターテインメント商品の成功は最初にそれを試した少数の人たちの判断に大きな影響を受けやすいということを、ワッツたちは明らかにした★15。
ワッツによれば、売れている歌でも映画でも本でもアーティストでも、必ずしも〝ほかのものより優れている〟わけではないという。むしろ、人が好むものというのは、他者が好むと考えられているものだ。
・ディーナーは、既存のジャンルをまたいだ音楽やメインストリームの型にはまらない音楽は、たいてい中小レーベルから生まれると指摘した。中小レーベルは、革新的なものを生み出すには好位置につけているのかもしれない。あるいは、なじみのある言葉を用いるなら、過去に売れたアーティストと似たアーティストに多額の費用をかけるという、ブロックバスター・トラップに陥りにくいのかもしれない。
・パフォーマーの私生活さえ一役買う。そもそもイギリスでは、元スパイス・ガールズのメンバーとの関係が大きく取り沙汰されたために、サッカーファン以外の間でもベッカムの名前が広く知られるようになった。ほかの一流サッカー選手と比べて、当初は少しだけ有利に働いたこの種の出来事が、やがて高禄を食める、ベッカムブランドを中心としたキャリアの構築につながっていった。パフォーマーは往々にして、世間の注目を浴びるほど、ますますスターになっていくのだ。
・南米のトップクラブは、ヨーロッパのトップクラブとフィールドでは互角の勝負なのに、南米はヨーロッパと比べて金回りが良くない。サッカーが人気スポーツだという点では引けを取らないが、南米のサッカー市場がわずか20億ドル相当なのに対して、ヨーロッパのサッカー市場は170億ドルにも相当する。
・そのひとつの要因は、早くに勝利を収めた者は、さらなる成功に対して有利な立場にあるという点だ。要するに、経済学者のいう「経路依存性」や「正のフィードバック★18」のことだ。配役担当ディレクターが映画俳優を選ぶ場合を思い描いてほしい。小さな役のオーディションを受ける何百人もの無名俳優を見分けようとするとき、ディレクターにはおそらく判断材料がほとんどない。ところが、ある俳優が1、2度選ばれて、期待に添う仕事をしたとなると、以降もその俳優が引き立てられる十分な理由となる。結果として、ほかの俳優と比べて(仮に違いがあったとしても)ほんのわずかの強みに基づく決定が、幸運な勝者としての豊かなキャリアにつながり、ほかの何百人もの志願者のチャンスをつぶすことになるかもしれないのだ。
・アップルが意気揚々と、アップストアには10万のアプリがあると発表したとき、98パーセントのiPhoneユーザーが、人気の低い9万9000のアプリのどれ一つとして興味を示さなかった★21ことも、驚くにはあたらない。
・それでも、『デコーデッド』のキャンペーン中、ビングのシェアはサービスが始まって以来最高となる12パーセントに達し、最も閲覧数が多いウェブサイトの上位10位にはじめて入った★13。
・まずは、ナイトクラブの世界を詳しく見ることにしよう。パーティー好きの人なら、ストラウスとテッパーバーグの運営するクラブの名前は少なくともひとつは知っているのではないだろうか。しかし、根っから遊び好きの人でも、この2人が起業家としてどれほどの成功をあげているのかについては正確に理解していないだろう。ナイトライフのビジネスでは、クラブはあっという間に、〝イケてる〟から〝イケてない〟に変わるものだ。クラブにとって最高の顧客は、最新流行のクラブにだけ通う客だ──しかし、どのクラブも最新でありたいと願うが、これは時間の問題だ。映画や新アルバムの口コミと同じように、興奮はあっという間に静まる。すると、オープン当初の収益はあがってもすぐに減益に転じて、クラブのオーナーは高額の先行投資を回収しようとして大慌てすることになる。
・アメリカでは、CBSがショーの放映権を100万ドル以上支払って手に入れ、900万人以上の視聴者がチャンネルを合わせた★12。1時間にわたるショーの模様は、12月4日──クリスマス休暇向けの買い物シーズンのはじまりとぴったり一致する──のゴールデンアワーで放送されて、視聴者がヴィクトリアズ・シークレットの小売店やネットショップで買い物したくなるように構成されていた。莫大な宣伝費を投じたこのブロックバスター狙いは目覚ましい効果をあげて、このブランドは毎年大衆市場で大きな話題を呼んでいる。