アイデアによるV字回復物語「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」

USJの観客動員数がジリ貧の中でマーケティング担当として入社した著者が、V字回復の際にどういった施策をどのように思いつき、実行に移し、どのような結果になったかを丁寧に描いています。特にハリーポッターアトラクションに大型投資をする中で数年間ほとんど予算がない中で圧倒的な結果を出していく様は大変興味深く、かつ爽快でした。

でも粘りに粘って考えていると、そんなコロンブスの卵を生み出すことができることがあるのです。ある問題について、地球上で最も必死に考えている人のところに、アイデアの神様は降りてくるのだと私は思っています。

もし明日までに「新しい強いアイデア」を出さないと、自分の家族が全員皆殺しにされることになったら、多くの人は必死な集中力で長時間考えられると思います。そうすると、きっと何かを思いつく確率は上がっているはずです。足らないものがあるとすれば、その必死さ、その執念、「コミットメント」なのではないでしょうか?

もっともっと真剣に考えることできるなと思いました。

後、これ読んだいま、すぐにUSJに行かねばという思いです。

<抜粋>
・要するに「映画だけにこだわらないとディズニーブランドと差別化できなくなるから絶対に集客できなくなる」のだそうです。大変失礼ですが「ああ、実戦経験の足らない自称マーケターは多いな」と私は思いました。  その「映画だけにこだわること」こそが戦略上の大きなミスなのです。この日本において、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが、どうしてディズニーランドと差別化しないといけないのでしょうか?
・その歩いている一歩一歩が正しいんだ! と思えないと、自信を持ったよいエクセキューション(実際のプラン=この場合はショーやイベントの品質)を現場が作ることはできません。腹の底の弱気や心配は絶対に周囲に悟られてはならない、誰かが言い切らないといけないのです。
橋下知事のメッセージをメディアが最初に報道した直後から、我々は突貫で製作した「スマイル・キッズフリー・パス」のTVCMを放映開始したのです。  すると……。  GW前までの地獄の集客トレンドがまるで噓のように、パークに子供を連れたご家族がたくさんたくさん来てくれました。やがてキッズフリーの対象者以外のゲストもパークにどんどん戻って来ました。  潮目は変わったのです!
私はアイデアを考えるときは、まず目的を徹底的に吟味して定め、その次にアイデアが満たすべき「必要条件」を一番時間をかけて考えます。そしてその必要条件を組み合わせ、より条件を絞り込んで、自分が必死に思いつくべきアイデアの輪郭をできるだけ明確に絞り込んでいきます。具体的なアイデアを考え始めるのはいつも最後の最後なのです。
・この日のハロウィーン・ホラー・ナイトを楽しみに夜の時間に残っていた実際のゲストは、想定の2万人どころか、なんと3倍の6万人にも及んだのです! 需要予測を現実がはるかに超えた瞬間でした。  ハロウィーン・ホラー・ナイトは、ずっと7万人程度で赤字だったハロウィーン・イベントを大きく黒字化させる倍増目標14万人をはるかに超え、なんと追加集客数で40万人以上を集客することに成功しました。  これは何十億と投資した大型アトラクションが年間を通じて集客する数字よりも多い数を、約2カ月の間に集客してしまう凄まじい需要創出となったのです。
私は信じているのですが、マーケティングをやる人間は、何でも自分自身でやってみることを習慣にするべきです。前職でヘアカラーやスタイリング剤を売っていた時代は、私は自分のヘアスタイルを金髪のスパイキーや、真っ赤なソフトモヒカンにしていたこともありました。
・しかし、ビジネスは不思議なものです。つくづくそう思います。  もしあの震災自粛の衝撃によって我々があれほど追い詰められることがなければ、これらのアイデアを思いつくこともなかったでしょう。そして、これほどの10周年の成功も絶対になかったはずです。そう考えると、会社の経営も不思議な運命のバランスの上に成り立っているのだと改めて思います。
一般論ですが、日本人は何でも自分でゼロから始めようとする、悪いクセがあるように思うのです。これは日本人の職人気質から来ているのではないかと思うのですが、人のアイデアを活用したり、それをベースに新たな価値を増築していくことが、スマートだと信じている人をあまり見たことがありません。
・世の中からアイデアを探して盗んでくることを真っ先にやることは、マーケティングをやる人間には絶対に必要だと思っています。誇りを持ってやるべきです。自分たちでゼロからアイデアを捻り出すのは、本来は探してどうしても見つからないときの最後の手段であるべきだと私は考えています。そしてリノベーションは、それがリノベーションだと気づかれないくらいの新しい価値を創造できたときに成功するのです。
・アイデアというのはそんなに安いものではないのです! そして2013年を生き抜くことは、会社の未来を創ることそのものでしたから、ベストを尽くさず諦めるなど絶対に選択肢にはなかったのです。
・でも粘りに粘って考えていると、そんなコロンブスの卵を生み出すことができることがあるのです。ある問題について、地球上で最も必死に考えている人のところに、アイデアの神様は降りてくるのだと私は思っています。
・もし明日までに「新しい強いアイデア」を出さないと、自分の家族が全員皆殺しにされることになったら、多くの人は必死な集中力で長時間考えられると思います。そうすると、きっと何かを思いつく確率は上がっているはずです。足らないものがあるとすれば、その必死さ、その執念、「コミットメント」なのではないでしょうか?
・ビギナーだからベテランだからどうのこうのではなく、確率を上げている人が一番釣るのです。考えてみれば当たり前の話ですね。アイデアも同じです。アイデアの神様に微笑んでもらうためには、やるべきことをちゃんとやって確率を上げておくのが道理だということです。
・何十億も何百億も投資して、一体何年間集客に貢献してくれるのか。「中途半端な強さの映画」に何十億円もかけることは非常に非効率なのです。  我々がハリー・ポッターに450億円もの巨額を投じる決心をした理由の1つは、すぐに劣化していく中途半端な映画アトラクションを45億円で10個作るよりも、よほど効率的だと考えたからです。
・経済的に有利な人間だけを優遇するのか? と、ネガティブにとる人もいるようですが、より多くの料金を払った方が、より良い席で見られたり、より良い体験ができたりするのは、世の常ではないでしょうか? なぜテーマパークだけが入場料金だけの画一料金でなければならないのでしょうか? ファストパスのように開園ダッシュの「走力」でゲストに差がつくことも、エクスプレス・パスのように「料金の選択」で差がつくことも、同等だと私は考えています。
経営資源が少ない企業は、まず一番大事なところに資源を集中しないと勝てません。あれこれリスクヘッジしようと資源を分散すると、全てで資源が不足して負ける可能性が大きくなります。一点張りで絶対に勝たないといけない重要性は、大企業の比ではありません。  だから中小企業は、大企業よりも頭を使っていかないと駄目なのです。より戦略的でなければならないのです。生み出されるアイデアの質もスピードも、大企業よりも優れていないことには話にならないでしょう。経営資源で劣るならば、せめて知恵で優れないと勝負になりません。
・これは私の考えですが、先進国の中でも特異な日本の文化事情によって、母親が罪の意識なしにストレスを発散できる装置が少ないからではないかと思います。先進国の中で、家事負担がここまで女性に偏るのも日本くらいなので、欧米のように子供をどこかに預けてストレス発散をすることに罪悪感を覚える人が多い。日本の女性は献身的な存在と言えるのではないでしょうか。家庭のため子供のため、子供の教育にすべてを注ぎ込み、自分の楽しみは後回しの傾向は、昔から続いてまだ残っています。そんな彼女たちにとって、子供と一緒に楽しめるテーマパークの存在は貴重なのです。  パークを歩いているときに、子ども連れの母親ゲストを見かけると、私はいつも「どうか彼女たちのこの1日が素晴らしいものになりますように……」と祈るような気持ちになります。ユニバーサル・ワンダーランドをつくったのもその想いが土台にあったからです。