今だからこそ大前氏の政治思想を確認する「訣別」

大前氏の政治上の主張をまとめた作品。2011年末出版。

毎回大前氏の著作を読んで思うのは、すごく筋の通ったまともな主張だと思うのだけど、なかなか受け入れらないもどかしさ。ほんと政治は難しいのだなぁと実感させられます。橋下氏が大前氏と比較的近い政治思想のようなので密かに期待してます。

もちろんすべての意見に賛同するわけではないのですが、実現していく過程で間違っていたら直していけばよいので。少しでも前に進んで欲しいと思います。

以下は特に印象的なところ

21世紀に入ってからはロシアのプーチン政権による所得税のフラット化が絶大な効果を上げている。12%、20%、30%の累進性だった所得税を2001年にオール13%のフラットタックスにした途端、所得税収が25%以上増えて、以後もしばらくは税収の大幅増が続いた。所得の87%が手元に残ることになり、所得を隠す者がいなくなって巨大な地下経済が表に出てきたのである。

日本では地下経済がどのくらいあるのか分からないのでなんとも言えませんが、もし税収増が期待できるのであれば、ぜひ実現して欲しい。国としての競争力も大幅にあがるだろうし。

(ロシア)ある日突然、ジェフリー・サックスのリコメンデーション(推薦)で国営企業が株式会社になった。株式は従業員にも配られたが、生まれてからずっと「資本主義は悪いことだ」「株式は悪だ」と教え込まれてきたから、急に資本家にされても顔を見合わせて株の扱いに戸惑うばかり。そんな人たちに「その株式、買ってあげましょう」と声をかけてきたのが、後に株式会社の会長になる男だった。

なぜ現代でいきなり大富豪が生まれうるのか不思議だったのですが、これには納得がいきました。

<抜粋>
政権と首相のたらい回しをやめさせるにはどうするべきか。 私は「一回の選挙から選ぶことのできる首相は二人まで」というルールを作るべきだと考える。一国の首相になるということは非常に重いことだ。健康問題など、何らかの理由で交代せざるを得ない場合もあるから、一回だけは首相交代を認めるが、二回目以降は認めない。二回目の内閣が倒れたら解散総選挙を行って、新しい政権に移行する。
・日本では大臣や実力派の政治家には「◯◯番」と呼ばれる、ぶら下がりの記者がつく、日本の新聞やテレビの政治部記者というのは政策を国民目線で評価するような能力がないから、とにかく担当の政治家にぶら下がって情報を拾おうとする。 政治家とぶら下がりの記者、両社の間にはぶら下がった政治家が出世をすれば記者も出世するという関係性が生じる。ゆえに新大臣が誕生すれば、善人っ者との違いをアピールしたい新大臣と前任者を否定して新大臣を持ち上げる記者という構造になりがちだ。
・日本人にもう一つ特徴的なのは、子どもの教育にお金をかけすぎることだ。(中略)百歩譲って「投資ではなく、子どもの将来のため」だとしても、今の日本の教育を受けさせれば受けさせるほど、これからの時代にも、世界的にも通用しない人材に育つだけだ。 むしろ子どもにかける教育費の半分でもいいから、自分や配偶者に投資すべきだと私は考える。そうすることで世帯としての「稼ぐ力」が上がれば、結果的によりよい教育を子どもに授けることができるようになるからだ。
・自分の稼ぐ力をアップする。そのために計画的に行動している日本人というのは非常に少ない。日本ぐらい自分に投資することに無関心な国はないが、自分の配偶者に投資するという発想はさらに乏しい。
・国土交通省が発表した2008年度の国内線利用実績によると、全国98空港で需要予測に対して実績値が100%を上回ったのは(中略)8港しかない。実績が比較可能な空港の九割が需要予測を下回り、三割以上の空港が予測値の半分にも達してなかった。
・デンマークなどでは、嫡出子だろうが非嫡出子だろうが、病院で生まれ落ちた瞬間にデンマーク国籍とID(識別番号)が与えられる。生まれた瞬間に親とは関係なく個人が国家と契約を結び、個人としての権利義務が発生し、一国民として尊重されるのである。出生届の父親の名前を記入する必要はない。それくらいやらなければ子どもは増えないのである。
・(ロシア)ある日突然、ジェフリー・サックスのリコメンデーション(推薦)で国営企業が株式会社になった。株式は従業員にも配られたが、生まれてからずっと「資本主義は悪いことだ」「株式は悪だ」と教え込まれてきたから、急に資本家にされても顔を見合わせて株の扱いに戸惑うばかり。そんな人たちに「その株式、買ってあげましょう」と声をかけてきたのが、後に株式会社の会長になる男だった。
・(中国)共産党一党独裁という政治体制については教義的にもまったく妥協していないし、地方政治の人事権も中央は手放していない。ただし、経済運営に関しては、1998年に首相に就任した朱鎔基の改革で地方に権限が大幅に移譲された。朱鎔基は「8%以上の経済成長をすること」「暴動など社会不安を起こさないこと」「腐敗しないこと」という「三つの約束」を果たす限り、経済運営に関する全権限を市長に移譲する、としたのだ。
・「答えがある」ことが前提の日本の教育では「答えがない」時代には対応できない。だから世界から後れを取っている。政治家も識者も教師もそういう現状認識ができていないから、「教育再生」などという懐古主義的なコンセプトにすがりつくのである。
・新卒の就職率が低下しているのは不況だけが理由ではない。日本にとどまっていては未来がないと、日本の企業が見切りをつけたからだ。世界、特に新興経済国に打って出ない限り、企業は生き残れない。そこで勝負すると決めたからには、新興国で通用する人材を求めるのは当然である。
究極的には大選挙区制にして、各道州から十数人の国会議員を選出する。天下国家を論じることに専念する国会議員は100人もいれば十分。国民DBの項目でも触れたように、道州から選出した国会議員で運営する下院と直接投票で民意を問う上院の二院制に移行すべきだろう。コミュニティーレベルの議員は首長以外は無報酬で、平素は仕事を持っている人々がその任にあたる。このようにすれば、行政コストも議会運営費用も大幅に下がる。
・21世紀に入ってからはロシアのプーチン政権による所得税のフラット化が絶大な効果を上げている。12%、20%、30%の累進性だった所得税を2001年にオール13%のフラットタックスにした途端、所得税収が25%以上増えて、以後もしばらくは税収の大幅増が続いた。所得の87%が手元に残ることになり、所得を隠す者がいなくなって巨大な地下経済が表に出てきたのである。
2008年に「今後きちんと納税するなら、過去の脱税は罪に問わない」という刀狩り政策を打ち出して税収を倍増させたインドネシアのような例もある。そのあたりの「納税心理」というものを日本の政治家や経済学者、税制調査会のメンバーはもっと勉強するべきだ。