ロンドン・ビジネススクール教授リンダ・グラットンが、これから世界がどのように変わっていくか、それに対してどのように考え方や行動を変えていくべきなのか、を鋭く考察しています。
本書が特に素晴らしいのは、お金だけではなく自分が本当に大好きなことが何かを内省した上で選択していくべきというというところだけでなく、それに対しての不安や代償や結果も受け入れるべきだ、と主張しているところです。
あなたがバランスの取れた生活を重んじ、やりがいのある仕事を重んじ、専門技能を段階的に高めていくことを重んじるのであれば、それを可能にするための<シフト>を実践し、自分の働き方の未来に責任をもたなくてはならない。 そのためには、不安の感情に対する考え方を変える必要がある。自分が直面しているジレンマを否定するのではなく、強靭な精神をはぐくんで、ジレンマが生み出す不安の感情を受け入れなくてはならない。自分の選択に不安を感じるのは、健全なことだ。深く内省し、自分の感情にフタをしない人にとって、それはごく自然な心理状態なのだ。不安から逃れたり、不安を無視したりする必要はない。 そのジレンマのなかにこそ、あなたが光り輝くチャンスが隠れている。
結局のところ会社や社会が自分の代わりに選択してくれる世界は終わりを迎えてしまったので、それぞれが意識的にやりたいことを追求していくしかない。それはすごく厳しいことなのだけど、だからこそ自ら選び行動し、得られた人生の満足感はこれまでになかったほど高いものになる、というわけです。
それを円滑にするためのアイデアが詰まっています。素晴らしい作品なのでぜひ多くのひとに読んでいただきたいです。
<抜粋>
・現在、経済発展から取り残されている貧困層は、サハラ砂漠以南のアフリカなど一部の地域に集中しているが、グローバル化が進み、世界がますます一体化すれば、先進国も含めて世界中のあらゆる地域に貧困層が出現する。グローバルな市場で求められる高度な専門技能をもたず、そうかといって、高齢化が進む都市住民向けサービスのニーズにこたえる技能と意思もない人たちが、グローバルな下層階級になる。
・どれくらいの時間をつぎ込めば、技能を自分のものにできるのか。レヴィティンの研究によれば、おおむね、10000時間を費やせるかどうかが試金石だとわかった。一日に三時間割くとしても、10年はかかる。
・はっきり言えるのは、人々の健康と幸福感を大きく左右するのが所得の金額の絶対値ではなく、ほかの人との所得の格差だという点だ。
・人々がせめて一日一時間テレビを見る時間を減らせば、メディア専門家のクレイ・シャーキーが言う「思考の余剰」が世界全体で一日90億時間以上生み出される。(中略)100万人がテレビを一時間見ても、一人ひとりの活動は分断されたままだが、インターネットでコミュニケーションを取り合いながらその時間を過ごせば集積効果が生まれる。
・「自分」に関する本が読まれるようになたのは、比較的最近の現象だ。昔の人は、いまほど自己分析をしなかった。(中略)私の二人の祖母は、ビートン婦人の『家政術』はともかく、自己啓発書はもっていなかった。自分について内省することをあまりしない世代だったのである。私は自分について内省する世代の一人だ。Y世代やZ世代は、そういう傾向がいっそう強まるだろう。
・ただし、自分に合ったオーダーメードのキャリアを実践するためには、主体的に選択を重ね、その選択の結果を受け入れる覚悟が必要だ。ときには、ある選択をすれば、必然的になんらかの代償を受け入れなければならない場合もあるだろう。これまでの企業と社員の関係には、親子の関係のような安心感があった。私たちは、自分の職業生活に関する重要な決定を会社任せにしておけばよかった。それに対して、新たに生まれつつあるのは、大人と大人の関係だ。このほうが健全だし、仕事にやりがいを感じやすいが、私たちはこれまでより熟慮して、強い決意と情熱をもって自分の働き方を選択しなくてはならなくなる。そのために必要なのは、どのような人生を送りたいかを深く考え決断する能力だ。
・連続スペシャリストへの道(中略)1 まず、ある技能がほかの技能より高い価値をもつのはどういう場合なのかをよく考える。未来を予測するうえで、この点はきわめて重要なカギを握る。 2 次に、未来の世界で具体的にどういう技能が価値をもつかという予測を立てる。未来を正確に言い当てることは不可能だが、働き方の未来を形づくる五つの要因に関する知識をもとに、根拠のある推測はできるはずだ。 3 未来に価値をもちそうな技能を念頭に置きつつ、自分の好きなことを職業に選ぶ。 4 その分野で専門技能に徹底的に磨きをかける 5 ある分野に習熟した後も、移行と脱皮を繰り返してほかの分野に転進する覚悟をもち続ける。
・未来の世界では、知識と創造性とイノベーションに土台を置く仕事に就く人が多くなる。そういう職種で成功できるかどうかは、仕事が好きかどうかによって決まる面が大きい。自分の仕事が嫌いだったり、あまり意義がないと感じていたりすれば、生後とで創造性を発揮できない可能性が高い。仕事を単調で退屈だと感じている人は、質の高いケアやコーチの仕事などできないだろう。日々の仕事はさしあたり無難にこなせるかもしれないが、大好きなことに取り組むときのようなエネルギーはつぎ込めないはずだ。
・これまで企業は、合理性と一貫性を確保するために「管理」の要素を重んじてきた。遊びと喜びの要素が完全に排除されていたとまでは言わないが、これらはあくまでも脇役でしかなかった。しかし未来の世界では、単なる模倣にとどまらない高度な専門技能を身につけたければ、遊びと創造性がこれまで以上に重要になる。
・未来の世界で個人ブランドを築くためには、「私って、こんなにすごいんです!」と大声で叫んで歩くだけでは十分でない。(中略)業績や能力を誇大宣伝したり、虚偽宣伝をしたりする人もいるだろう。そこで、魅力的な個人ブランドを築いて大勢の人たちとの差別化を図り、その個人ブランドに信憑性をもたせることが欠かせない。職人にせよ、プログラマーや物理学者にせよ、まずは質の高い仕事をし、そのうえで自分の資質を世界に向けてアピールする必要があるのである。
・アメリカの複雑系研究者スコット・ペイジが売り上げ予測の精度を比較したところ、個人の予測より、不特定多数の人たちの予測のほうが概して正確だった。個人がきわめて高度な知識の持ち主の場合も結果は同様で、集団のメンバーが多様なほど、予測の精度が高かった。こうした傾向は、予測の対象が複雑な現象の場合にことのほか顕著だった。
・意識的に普段と違う場に身を置いたり、自分と違うタイプのグループに適応して仲間に加えてもらったりすることは、ビッグアイデア・クラウドを築くうえで重要な戦略だ。しかし、そうした「プッシュ」の戦略に加えて、「プル」の戦略も実践できたほうがいい。自分の魅力を高めて、ほかの人たちがあなたのグループに自分を適応させたり、あなたと偶然出くわすことを期待したりするよう促すことも目指すべきだ。
・活力の源となる友人関係を築き、維持するためには、時間的余裕が欠かせない。時間に追われ、他人の要求に対応することに忙殺されると、深い友情のためにつぎ込むエネルギーと意欲がすり減ってしまう。
・業績をあげた人物に高給で報いることができない組織は、代わりにどのような「報酬」を提供できるのでしょうか? 私の場合、リーダーシップを振るい、責任を与えられ、意思決定をくだす経験がとても大きな報酬になっています。そのおかげで、仕事を通じて幸せを感じられています。このような機会が得られるとわかっていれば、物質的な要素はもっと早く捨てていたのに。
・話を聞くうちにわかったのは、子どもを持たない人生を意識的に選択した女性がごく少数にすぎないということだ。現在の生き方を選択した時点では、自分がどういう選択をしようとしているのかを正しく理解していないケースが多かったのだ。その選択をすることにより、どういう結果が待っていて、なにをあきらめなくてはならないのかを正確に計算できていなかったのだ。 私たちは人生における仕事の位置づけを選択するとき、こういう落とし穴に陥りやすい。選択の結果が現実になるまでに時間がかかったり、結果が予期しないものだったりするケースが多いからだ。
・どうして、お金が増えても幸福感が高まらないのか。(中略)ここで注目すべきことがある。お金と消費には限界効用逓減の法則が当てはまるが、それ以外の経験にはこの法則が当てはまらないという点である。たとえば、高度な専門技能を磨けば磨くほど、あるいは友達の輪を広げれば広げるほど、私たちが新たに得る効用が減る、などということはない。むしろ、私たちが手にする効用は増える。所得が増えるほど所得増の喜びは薄まるが、技能や友達は増えれば増えるほど新たな喜びが増す。
・「親代わりに子どもの相手をしているテレビという機会は、さまざまな品物をカネで買うことが人生そのものであるかのように描く。私たちは、子どもをポルノに触れさせないように細心の注意を払う半面で、きわめて不用意に、物質主義の魅力を生々しく教え込むメディアに子どもたちをさらしている」
・しまいには、「私はお金が好きに違いない。なぜなら、お金を稼ぐために、こんなに頑張って働いているのだから」と考えはじめる。
・コーステンバウムらに言わせれば、選択にともなう不安を避ける必要はない。そういう感情を味わう経験こそが私たちの職業生活に意味や個性、現実感を与える。選択から逃げ、不安や罪悪感と向き合うことを避け、選択につきもののジレンマについて考えることを拒めば、職業生活の豊かさのかなりの部分を手放すことになる。仕事に関する古い約束事のもとでは、誰かが代わりに選択してくれたが、未来の新しい約束事のもとでは、自分自身で選択する意思をもたなくてはならない。
・あなたがバランスの取れた生活を重んじ、やりがいのある仕事を重んじ、専門技能を段階的に高めていくことを重んじるのであれば、それを可能にするための<シフト>を実践し、自分の働き方の未来に責任をもたなくてはならない。 そのためには、不安の感情に対する考え方を変える必要がある。自分が直面しているジレンマを否定するのではなく、強靭な精神をはぐくんで、ジレンマが生み出す不安の感情を受け入れなくてはならない。自分の選択に不安を感じるのは、健全なことだ。深く内省し、自分の感情にフタをしない人にとって、それはごく自然な心理状態なのだ。不安から逃れたり、不安を無視したりする必要はない。 そのジレンマのなかにこそ、あなたが光り輝くチャンスが隠れている。
・議論は哲学的な領域に入っていく。未来の世界で、私たちは自分にとって大切な価値や自己像を追求できる可能性と、そのための選択と行動をおこなう自由を手にする。そういう時代には、社会や組織からどのような制約を課されているかを認識し、その制約にどう向き合うかを決めるのが自分自身なのだと理解し、同時に、自分の選択と行動がもたらす結果からは逃れられないのだと覚悟する必要がある。