『フリー』『ロングテール』のクリス・アンダーソンが、3Dプリンタを中心として誰でも製造業=メイカーになれる「メイカーズ」時代の到来について紹介する衝撃的な著作。
僕は前々からこの分野にすごく興味があって、2007年からCerevoでインターネット×ハードウェアのようなこともやろうとしてきたりもしました。
しかし、本書で一番衝撃を受けたのは、そのコミュニティでした。結局のところ3Dプリンタが身近になったから、メイカーズ・ムーブメントが来ているわけではなくて、出力するデジタルデータやソフトウェアを共有するようなコミュニティがあるからこそ、ムーブメントになってきているのだと思いました。
最近では、Etsyのようなウェブサービスでも、コミュニティをうまく形成し、エコシステムを作っているサービスが増えてきています。個人的には、こちらの流れに非常に注目しています。
<抜粋>
・メイカーボットはもっともシンプルな3Dプリンタのひとつだ。モーターは四個だけ。X軸、Y軸、Z軸を動かすモーターに加えて四個目のモーターはABS樹脂を熱で溶かし、作業用トレーまで運ぶためのものだ。メイカーボットの外枠は、レーザーカッターで切った合板を合わせたもので、プラスチック製の歯車の一部は別のメイカーボットのプリンターで作られている。内部の電子機器には、アルドゥイーノ基板が使われている。
・メイカーボットの哲学は奥が深い。レップラップの3Dプリンタ(スマートで華奢なデザイン)、アルドゥイーノのマイコン基板、CADファイルを指示に転換して3Dプリンタの三個のモーターを制御する一連のソフトウェアなど、歴代のオープンソースのプロジェクトの上にこれが築かれているからだ。ここでいう「オープンソース」とは、なんでもオープンにすることだ。電子部品、ソフトウェア、商品デザイン、製品仕様やマニュアル、それからロゴまでも。メイカーボットのほぼすべてが、コミュニティによって開発されたか、その中のだれかが自主的に作ったものだ。それは知的財産権を放棄することで、コミュニティの指示と善意による強力な保護が得られる。輝かしい実例だ。
・その違いーーひとりが発信するブログ形式のニュースや情報ではなく、コミュニティが作るサイトであることーーは、天と地ほどの大きさだった。
・確かに、ラリーファイターはバギーカーとそれほど変わらない。しかし、ローカルモーターズの電気自動車は、これまでとまったく違うものになる。そして世界的な自動車メーカーは、コミュニティによる開発モデルの力に気付くだけでなく、それを羨むことになるだろう。
・スペースXの基本的なロケット技術はNASAとそう変わらないが、生産工程のおかげで打ち上げコストは比べものにならないほど低い。請負業者、下請け、孫請けが絡んだ、航空宇宙業界の複雑な(しかも政治的な)ネットワークのかわりに、スペースXはデジタル工作ツールを使ってほとんどなんでも内製する。テクノロジーが製造業の複雑さとお役所的な構造を簡略化し、コストを10分の1にまで削減しながら、信頼性はあげている。NASAのモデルを改善するために宇宙工学の仕組みからやり直す必要はない。ほとんどのイノベーションは工場で生まれるからだ。
・いまもアメリカで作られているものは? 国内で販売される大型製品(たとえば自動車)や、価格に比べて人件費の割合が小さい高付加価値製品(たとえば飛行機)、そして価格競争にさらされれにくい特殊品(たとえば医療機器)などだ。
・スパークファンは、コミュニティを核とする典型的な企業だ。ウェブサイトの最初のページには製品ではなくブログが載り、人気のチュートリアルや社員の動画が掲載されている。掲示板では大勢のファンがお互いに助け合っている。
・チェンとストリックラーは、キックスターターがもの作りの資金調達源として注目されることに、いまも少し違和感がある。もともとは、大手レコード会社やハリウッドがなかなか売り出してくれない音楽や映画に加えて、アート、舞台芸術、コミック本、ファッションなどのプロジェクトのためのプラットフォームとして、キックスターターを立ち上げたのだ。
・ある日、喫茶店のオーナーのマルシア・ドーシーが、コンピューター好きの息子がアルバイトを探していると言ってきた。そこで、その息子にミラノ事務所に来てもらうことにした。(中略)「ああ、ちょっと終わるまで待ってもらえるかな」と言って仕事に戻った。 30分後、まっケルビーは男の子のことを完全に忘れていたことに気づいた。顔を上げると、驚いたことに、ドーシーはまださっきとまったく同じ場所に、両手をまっすぐにぶら下げて立っていた。