21世紀の人類のための「21 Lessons」

サピエンス全史』『ホモ・デウス』のユヴァル・ノア・ハラリの新作。本作は「雇用」「自由」「平等」「コミュニティ」「宗教」「戦争」「教育」「意味」「瞑想」などなど身近といえば身近な21のテーマそれぞれにハラリが現状はどうで将来どうなっていくか、などを明瞭に描いています。

特に重要なのはAIやバイオのようなテクノロジーの発展により、上記のようなテーマのそれぞれが甚大な影響を受けるというところです。いくつか抜粋します。

たとえ私たちが新しい仕事を絶えず創出し、労働者を再訓練したとしても、平均的な人間には、そのように大変動が果てしなく続く人生に必要な情緒的スタミナがあるかどうか、疑問に思える。変化にはストレスが付き物だし、二一世紀初頭のあわただしい世界は、すでにグローバルなストレスの大流行を引き起こしている。雇用市場と個人のキャリアの不安定さが増すのに、人はうまく対処できるだろうか? サピエンスの心が参ってしまわないようにするためには、おそらく、薬物からニューロフィードバック、さらには瞑想まで、今よりはるかに効果的なストレス軽減法が必要となるだろう。二〇五〇年までには、仕事の絶対的な欠如あるいは適切な教育の不足のせいばかりではなく、精神的なスタミナの欠乏のせいでも、「無用者」階級が出現するかもしれない。

私たちがしだいにAIに頼り、決定を下してもらうようになると、この人生観に何が起こるのか? 現時点では、私たちはネットフリックスを信頼して映画を推薦してもらい、グーグルマップを信頼して右に曲がるか左に曲がるか選んでもらう。だが、何を学ぶべきかや、どこで働くべきかや、誰と結婚するべきかを、いったんAIに決めてもらい始めたら、人間の一生は意思決定のドラマではなくなる。民主的な選挙や自由市場は、ほとんど意味を成さなくなる。大方の宗教と芸術作品にしても同じだ。アンナ・カレーニナがスマートフォンを取り出して、カレーニンの妻であり続けるべきか、それとも 颯爽 としたヴロンスキー伯爵と駆け落ちするべきかをフェイスブックのアルゴリズムに尋ねるところを想像してほしい。あるいは、あなたが気に入っているシェイクスピアの戯曲で、きわめて重要な決定がすべてグーグルのアルゴリズムによって下されるところを想像するといい。

事態はこれよりはるかに悪くなりうる。これまでの章で説明したとおり、AIが普及すれば、ほとんどの人の経済価値と政治権力が消滅しかねない。同時に、バイオテクノロジーが進歩すれば、経済的な不平等が生物学的な不平等に反映されることになるかもしれない。超富裕層はついに、自分の莫大な富を使って本当にやり甲斐のあることができるようになる。これまで彼らが買えるものと言えば、ステータスシンボルがせいぜいだったが、間もなく彼らは生命そのものを買えるようになるかもしれない。寿命を延ばしたり、身体的能力や認知的能力をアップグレードしたりするための治療や処置には多額のお金がかかるようであれば、人類は生物学的なカーストに分かれかねない。

今後数十年でほとんどすべてのテーマで劇的な変化が起こり、油断すると、ディストピア的な世界へと待ったなし、という警告になっています。

個人的には、今後すべてが変わるのは間違いないと思いますが、悪い方向にだけいくとは考えていません。バイオテクノロジーが発展すればより健康に生きられる時間が伸びるのは間違いないわけだし、AIは今も人々の生活をどんどん便利にしてくれています。しかし、当然ディストピアへの入口も徐々に広がっており、ひとりひとりがどういった可能性があるのかということをよく考えて、よりよくしようと努力しなければならないと思いますし、自分がその一躍を担えたらと思っています。

未来を考える上で、非常に考えさせられる作品なので、必読だと思います。