爆発的ヒットの意外な源を知る「ザ・ディマンド」

ビジネスが飛躍する際には顧客からの強いディマンド(需要)を引き出す必要があると主張し、その実例をいくつも取り上げています。実例は非常に興味深く、ディマンドを掴んだ際の考え方や手法には非常に勉強になるものがあります。

ただ、ではそれをどうやったら再現できるのか、というのはよく分かりません。そもそもその事例自体が単なる後付けかもしれないわけで。

この原動力となった製品がノキア1100だ。先進国の人々は、この携帯電話に対する巨大な需要を知って驚愕するだろう。この10年に登場した最も印象的なハイテク製品を挙げてみよう。任天堂のゲーム機Wiiは、発売五年で4500万台を売り上げた。やはり五年で、モトローラのRAZR(レーザー)は5000万台、ゲーム機のプレイステーション2は1億2500万台、iPodは1億7400万台だった。ノキア1100は、最初の五年で2億5000万台、その大半は世界でも最も貧しいといわれる国々での売上だった。ノキア1100は世界一売れた家電製品となった。

(ノキア1100には)欧米人には思いもつかないようなオプションを提供している。たとえば、何人ものユーザーの連絡先リストを保存することができる。これは、村人たちが共有する携帯電話には必須の機能だ。また、ユーザーは個々の通話に対して料金の上限を設定することができる。これも共有する場合には必要な機能だ。電力供給が不安定な場所で役に立つ懐中電灯、ラジオ、目覚まし時計なども内蔵されている。さらには、画面表示言語数は80を超え、読み書きができない人のためにアイコン表示も選択することができる。

本書は2011年に書かれたようですが、これだけ成功していると書かれたノキアはその後、まったくディマンドを読み違え大赤字になっています。

ディマンドは驚くほど繊細で壊れやすい。ディマンド・クリエーターたちはこの点を心得ている。たったひとつの重要な変数が欠落しただけで、あるいは決定的な細部にたったひとつの欠陥があっただけで、何千時間にもおよぶ努力と想像力と忍耐がムダになってしまう。だから、偉大なディマンド・クリエーターは常に試行錯誤を繰り返し、製品と組織作りにおいて考えられる限りの弱点を正そうとしている。 彼らは直感的に知っているーーディマンドの世界では真に不可避なものはないと。

これは事実なのだけれども、ではどうしたらいいかという回答にはまったくなっていません。

ただ、本書はこういったディマンドを掴むための試行錯誤を常識をとらわれずにやりつづけるべきだ、と思い出すためと、その事例のストーリーから新たな発想を得るために有効だと思います。ストーリーはどれも非常にエキサイティングでおもしろいです。

<抜粋>
・こんにち携帯電話の出現でこうした状況は変わりつつある。いまや北のウタルブラデシュ州から南のタミルナドゥ州にいたるインドの40パーセント以上の農民が、携帯電話を使った農業情報サービスを利用している。特定の地方市場における、ある作物の最高値と最安値、その日の入荷量など、必要に応じた市況情報を音声や文字データで受け取れる。また、水田の雑草の防除策、バナナの栽培方法といったノウハウも提供してくれる。 この種の情報はアメリカの農民なら当たり前のことだろうが、発展途上の国々での影響は計り知れない。
・この原動力となった製品がノキア1100だ。先進国の人々は、この携帯電話に対する巨大な需要を知って驚愕するだろう。この10年に登場した最も印象的なハイテク製品を挙げてみよう。任天堂のゲーム機Wiiは、発売五年で4500万台を売り上げた。やはり五年で、モトローラのRAZR(レーザー)は5000万台、ゲーム機のプレイステーション2は1億2500万台、iPodは1億7400万台だった。ノキア1100は、最初の五年で2億5000万台、その大半は世界でも最も貧しいといわれる国々での売上だった。ノキア1100は世界一売れた家電製品となった。
・(ノキア1100には)欧米人には思いもつかないようなオプションを提供している。たとえば、何人ものユーザーの連絡先リストを保存することができる。これは、村人たちが共有する携帯電話には必須の機能だ。また、ユーザーは個々の通話に対して料金の上限を設定することができる。これも共有する場合には必要な機能だ。電力供給が不安定な場所で役に立つ懐中電灯、ラジオ、目覚まし時計なども内蔵されている。さらには、画面表示言語数は80を超え、読み書きができない人のためにアイコン表示も選択することができる。
普通のMP3を持っている人が「役に立つよ」とか「いいよ」と言うのに対して、iPodを持っている人は10人中10人が「気に入ってる!」と言うのはこのためだ。(中略)ようするに、マグネティックとは、「優れた機能性」×「優れた感情的訴求力」である。
・ディマンドは驚くほど繊細で壊れやすい。ディマンド・クリエーターたちはこの点を心得ている。たったひとつの重要な変数が欠落しただけで、あるいは決定的な細部にたったひとつの欠陥があっただけで、何千時間にもおよぶ努力と想像力と忍耐がムダになってしまう。だから、偉大なディマンド・クリエーターは常に試行錯誤を繰り返し、製品と組織作りにおいて考えられる限りの弱点を正そうとしている。 彼らは直感的に知っているーーディマンドの世界では真に不可避なものはないと。
・ケアモアの背後にある経済論理は型破りだ。医師たちは従来なら意思が思いつかないような仕事や責任を引き受け、スタッフたちも普通の医療関係者よりずっと長い時間、患者やその家族とすごす。だが、ケアモアが費やす経費は、やがてその何倍もの節約となって戻ってくる。その結果、加入者の医療費総額は業界平均の18%も低い。費用曲線を逆転させることによって、ケアモアは持続可能な民間医療機関市場へと続く経済モデルを構築した。
(アマゾンのシニア・バイス・プレジデント曰く)最も注目すべき点は、キンドル所有者の書店購入回数が印刷された書籍を郵送で受け取っていたときの2.7倍に上がったことだ。
・ジップカーの人気の鍵が「密度」だったこと、キンドルに不可欠だった違いは「書籍への瞬間的なアクセス」だったことを思い出してほしい。これがディマンドの蛇口をひねるトリガーだった。同様に、ネットフリックスのディマンドを一気に加熱させたトリガーは「配達速度」だった。
・リード・ヘイスティングスとネットフリックスのチームが2001年に翌日配送に思い当たったころには、すでに三年がかかりで偉大なディマンドが飛躍するトリガー探しに大きな労力を注いでいた。
優れた教師の資質に「人生の満足度」が関係するなどと誰が思っただろう? ここが重要な点だ。ディマンド・クリエーターは憶測や直感や「常識」には頼らない。ひたすら証拠を探し、追求する。その結果、ディマンドなど無関係な、思いもよらない場所へ導かれたとしてもだ。
・(オーケストラにて)では、なにが違いを生んだのか? リストの第一位は「駐車場」だった。最低限の手間で自宅とコンサート・ホールを往復するという単純なことが、唯一最も強力な「再訪の原動力」だった。トライアリストの重要なトリガーはこれだった。
・(ユーロスターの)年間総利用者数は、1995年の300万人から2000年の710万人に増えた。(中略)2010年には950万人に達した。
・「リスクの高いプロジェクトの成果を予想するとき、エグゼクティブたちは誰もがじつに簡単に、心理学で言う『計画錯誤』の犠牲者となる。これに捕まると、彼らは収益、損失、可能性を理性的に評価するのではなく、妄想的楽観主義に基づいた意思決定を行うことになる」