オプスウェア創業者であり、短期間で超一流VCに上り詰めたアンドリーセンホロウィッツのベン・ホロウィッツが自らの起業と彼の経営の考え方をまとめた作品。
前半はほとんどジェットコースターのようなオプスウェア時代の振り返りが強烈。浮き沈みというよりは、ほとんど死にかけながらなんとか倒産を免れ続け、最後に大復活してHPへの売却を果たす、まさに奇跡のストーリー。
後半はそういった経験を元にしたベンの経営哲学。僕も同じような悩みを抱えてきたので、すごく共感できたし、勉強になりました。複雑な問題について、明確な理由付けをして対応していっているにつけて、非常に頭が良いひとなのだなと思いました。
しかし、最終的なところは
スタートアップのCEOは確率を考えてはいけない。会社の運営では、答えがあると信じなきゃいけない。答えが見つかる確率を考えてはいけない。とにかく見つけるしかない。可能性が10に9つであろうと1000にひとつであろうと、する仕事は変わらない。
ということで、逃げたくなるような局面でも諦めないであらゆる手を尽くせるかが、成否を分けるというのに完全に同意します。
<抜粋>
・私はこのままでは時間切れになってしまうのを思い知らされた。そのときまで、私は本当に真剣な選択をしたことがなかった。自分には無限の時間と無限の能力があって、やりたいことは何でもできるとぼんやり考えていた。しかし父のジョークのお陰で私は、このままでは家族を失いかねないと気づかされた。ありとあらゆる努力をしながら、私はもっとも大切なことを忘れていた。自分がしたいことではなく、何が大切なのかという優先順位で、世界を見ることをこのときに初めて学んだ。
・1995年11月になってビル・ゲイツは、『ビル・ゲイツ未来を語る』(アスキー)という著書の中で、やがて「情報スーパーハイウェイがすべての企業と消費者を単一のネットワークで結びつける」と予想し、「インターネットに取って代わって、コミュニケーションの世界を制覇することは論理的な必然だ」と書いている。ゲイツは後になって「情報スーパーハイウェイ」を「インターネット」と書き直した。しかしオリジナル版ではそうではなかったのだ。
・ネットスケープ以後、デベロッパーがコンピューティングに新たな機能を追加するとすればインターネットという環境に対してであり、マイクロソフトの独自規格に対してではなくなった。
・またも資金調達が必要になった。今回は状況がさらに悪くなっていた。2000年の第4四半期に、私は可能性が少しでもある資金源はすべてあたり、その中にはサウジアラビアのアル・ワリード・ビン・タラール王子も含まれていたが、誰ひとりとしていかなる評価額でも投資する意思を見せなかった。シリコンバレーでもっとも勢いのあるスタートアップだったわれわれが、たった半年のうちに投資対象ですらなくなっていた。477人の社員と時限爆弾にも似たビジネスを抱えながら、私は答えを探し求めた。
・完全に資金が底をついたら何が起こるかを考えていると──あれだけ注意深く選んで雇った社員を全員解雇し、投資家の金をすべて失い、われわれを信じてビジネスを託してくれた顧客を危険にさらす──将来の可能性に集中することなど困難だった。
・私は、愕然とした。激しく汗をかき始め、電話を切ったあと、すぐに着替えなければならなかったほどだった。どうしていいか、見当もつかなかった。もし私が家へ帰れば、会社は間違いなく倒産する。もし、ここに残れば……そんなことができるか? 私は電話をかけてフェリシアを出してもらった。
・われわれの運命を考えると、とても眠るどころではなかった。私はなんとか気分を高めようと、こう自問してみた。「起き得る最悪のことは何か?」。返ってくる答えはいつも同じだった。「倒産し、母を含めて全員の財産を失い、ひどい不景気の中で一生懸命働いてくれた人たちを全員レイオフしなければならず、私を信じてくれた顧客全員が困難に陥り、私の評判は地に堕ちる」。もちろん、その質問で気分が楽になったことなど一度もなかった。
・私がCEOであり、ラウドクラウドが上場企業であったために私以外には全体像が見えていなかった。私は、会社が極めて深刻なトラブルに陥っているとわかっていた。私以外にこのトラブルから会社を救える者はいないし、私はすべての事情を理解していない人たちからのアドバイスに聞き入っていたのだ。私にはあらゆるデータと情報が必要だったが、会社の方向性に関する提言はいらなかった。今は戦時なのだ。会社が生きるも死ぬも、私の決断の質次第であり、その責任を回避したり、緩和したりする術はなかった。
・「ひどい経済環境だった」「アドバイスが悪かった」「物事の移り変わりが速すぎた」などというセリフは許されない。選択肢は、生き残るか、完全崩壊のどちらかだ。
・「きみは会社に残り、全員の立場を理解していることを確かめなきゃいけない。一日も待てない。いや、むしろ1分だって待てない。従業員たちは、自分がきみのために働くのか、EDSに行くのか、いまいましい職探しをするのかを知る必要がある」とビルは答えた。ビルは正しかった。
・「いくつか悪い知らせがある。ブレードロジックにやられている。これは製品の問題だ。これが続けば、会社を叩き売らなくちゃならない。勝てる製品を持たない限り、生き残る道はない。そのために、きみたち全員にがんばってもらう必要がある。今晩家に帰ったら、奥さんやご主人、大切な人、誰であれきみたちのことを一番気にかけている人と真剣に話し合って、こう言ってもらいたい。『ベンが向こう半年間、私を必要としている』。会社に朝早く来て、遅くまでいてもらいたい。夕食はおごる。私も一緒にここにいる。失敗は許されない。銃には一発だけ弾が残っていて、標的に命中させなくてはならない」
・自分へのメモ「やっていないことは何か?」を聞くのは良いアイデアだ。
・それは死ぬまで続く、自分対自分の議論だった。一方で私は、仮想化によって仮想サーバーのインスタンスが大量発生すれば、われわれのやり方が以前にも増して重要になると主張した。しかし次の瞬間私は、それは真実かもしれないが、アーキテクチャを変更すれば、オプスウェアの立場は危うくなると思い直した。
・「成功するCEOの秘訣は何か」とよく聞かれるが、残念ながら秘訣はない。ただし、際立ったスキルがひとつあるとすれば、良い手がないときに集中して最善の手を打つ能力だ。逃げたり死んだりしてしまいたいと思う瞬間こそ、CEOとして最大の違いを見せられるときである。
・自分の中では、プラスを強調し、マイナスを無視することによって、全員の士気を高めているつもりだった。しかし部下たちは、現実が私の説明よりも微妙な状況だと知っていた。しかも彼らは、世界が私の言うようにバラ色ではないことを知っているのに、全社ミーティングのたびに私のくだらない景気付けを聞かされていたのだ。
・200人のグローバルなセールス部門を率いるのは、25人のローカルなセールス部門を動かすこととは違う。運が良ければ、25人のチームを率いるために雇った人物が、200人のチームの動かし方を身に着けるかもしれない。そうでなければ、新しい仕事に最適な人物を雇う必要がある。これは、幹部の失敗でもシステムの失敗でもない。それが大都市における生活なのだ。この現象を避けて通ろうとしてはいけない。事態を悪化させるだけだ。
・もっとも重要なのは、あなたの強い意志だ。降格の話題をあやふやな気持ちで始めたら、混乱を招く。状況の混乱、そして人間関係の混乱だ。相手が会社を辞めるかもしれないという考えを持っておくべきだ。彼が抱く強い感情を考えれば、会社に残りたいと思う保証はどこにもない。彼を失う余裕がないなら、降格は実行できない。
・どの会社にも、命懸けで戦わなくてはならないときがある。戦うべきときに逃げていることに気づいたら、自分にこう問いかけるべきだ。 「われわれの会社が勝つ実力がないのなら、そもそもこの会社が存在する必要などあるのだろうか?」
・自分の惨めさを念入りに説明するために使うすべての心的エネルギーは、CEOが今の惨状から抜け出すため、一見不可能な方法を探すために使うほうがはるかに得策だ。やればよかったと思うことには一切時間を使わず、すべての時間をこれからきみがするかもしれないことに集中しろ。結局は、誰も気にしないんだから。CEOはひたすら会社を経営するしかない。
・教育は、早い話が、マネジャーにできるもっとも効果的な作業のひとつだ。自分の部下たちに全4回の講義を受けさせることを考えてほしい。1時間の講義に3時間の準備が必要だとする──計12時間の作業になる。クラスには生徒が10人いるとしよう。 来年彼らは合計約2万時間、会社のために働くことになる。あなたの教育によって部下たちの業績が1パーセント向上するなら、あなたの12時間によって、会社は200時間相当の利益を得ることになる。
・機能教育を新規採用の条件にする。 アンディ・グローブ曰く、マネジャーが社員の生産性を改善する方法はふたつしかない。動機づけと教育だ。よって、教育は組織のマネジャー全員にとって、もっとも基本的な要件である。この要件を強制する効果的な方法のひとつは、採用予定者向け教育プログラムを開発するまで、その部署の新規雇用を保留することだ。
・幹部採用をみんなの総意で決めようとすると、議論はほぼ間違いなく、長所ではなく短所のなさへとぶれていく。孤独な作業ではあるが、誰かがやらなくてはならないのだ。
・第一は、「正しい野心を持った人材を採用する」ことだ。会社をアメリカ上院みたいな政治の場にしたければ、間違った野心を持つ人間を雇うのがてっとり早い。長年インテルを率いたアンディ・グローブによれば、「正しい野心家」というのは「会社の勝利を第一の目標とし、その副産物として自分の成功を目指す」ような人物だという。それに反して「悪い野心家」は、「会社の業績がどうあろうと自分個人の成功が第一」というタイプだ。
・「大組織においては、どの職階においても社員の能力はその職階の最低の能力の社員の能力に収斂する」 その理由はこうだ。どの職階でも、社員は自分の能力を測る物差しを直近上位の職階の社員の中で最低の能力の社員に求める。仮にジャスパーという男が副社長の中で一番能力が低いとしよう。すると部長職の社員は、全員がジャスパーと自分を比べて自分には昇進の資格があると考える。すると副社長はすべてジャスパーと同程度の能力の社員で占められるようになる。以下同様にして、すべての職階が無能レベルに達する。
・フェイスブックは新規採用職員に対して他社に比べて低い肩書しか与えないことで、いくぶんかは損をしているかもしれない。しかし逆に、肩書が低いことでフェイスブックを選ばないような社員はまさにフェイスブックが必要としない社員だとも考えられる。実際、フェイスブックの採用手続きと試用期間はフェイスブックが望むような人材が残り、望まないような人材が自ら去るよう巧みにデザインされている。
・CEOは開発過程をブラックボックスと考えて、目に見える成果だけを追ってはならない。「ソーセージがつくられる現場」を自分の目で見て何が行われているのか理解していなければならない。
・個人面談は緊急性の高い課題についての報告だけでなく、社員が日頃抱いている不満、目にしてはいるが正式の報告書には書きにくい問題点、温めている有望なアイデア、メールシステムへの不満、個人的な悩みなど、ありとあらゆる問題を拾い上げることができるほとんど唯一のチャネルだ。
・組織デザインで第一に覚えておくべきルールは、すべての組織デザインは悪いということだ。あらゆる組織デザインは、会社のある部分のコミュニケーションを犠牲にすることによって、他部分のコミュニケーションを改善する。
・私は成功したCEOに出会うたびに「どうやって成功したのか?」と尋ねてきた。凡庸なCEOは、優れた戦略的着眼やビジネスセンスなど、自己満足的な理由を挙げた。しかし偉大なCEOたちの答えは驚くほど似通っていた。彼らは異口同音に「私は投げ出さなかった」と答えた。
・過去10年間にテクノロジーの進歩のおかげで、新企業を立ち上げるための資金的ハードルは大幅に下がった。しかし、優れた企業を築くために必要な勇気というハードルは、以前と変わらず高いままだということを覚えておくべきだろう。
・平時のCEOは会社が現在持っている優位性をもっとも効果的に利用し、それをさらに拡大することが任務だ。そのため、平時のリーダーは部下からできる限り幅広く創造性を引き出し、多様な可能性を探ることが必要となる。しかし戦時のCEOの任務はこれと逆だ。会社にすでに弾丸が一発しか残っていない状況では、その一発に必中を期するしかない。戦時には社員が任務を死守し、厳格に遂行できるかどうかに会社の生き残りがかかることになる。
・平時のCEOは企業文化の育成に務める。戦時のCEOは生き残りを賭けた闘争に自ら企業文化をつくらせる。戦時のCEOは突発的非常事態に対応するプランを用意する。戦時のCEOは、『バトルスター・ギャラクティカ』のアダム提督ではないが、サイコロを投げて「3のゾロ目に賭ける」しかない場合があることを知っている。平時のCEOは自社の優位性の活かし方を知っている。
・しかし良きCEOであろうとするなら、つまり長期的に人々の支持を得ようとするなら、時には短期的に人々を怒らせるような行動を取らねばならない。つまり不自然な行動を必要とする。
・社員の行動にいちいちフィードバックを与えることは、当初いかに不自然に感じられようと、CEOの業務の基礎となるブロックのひとつずつだ。
・CEOが常にフィードバックを発信し続けていれば、全社員がそのことに慣れる。「ボスにああいうことを言われたが、どういう含みがあるのだろうか? ひょっとしてCEOは私を嫌っているのかもしれない」などというような疑心暗鬼を生まずに済む。誰もがフィードバックで指摘された内容に集中するようになり、個人に対する抜き打ちの実績評価だとは考えなくなる。
・ベンチャーキャピタリストになって初めて私は、他人の思惑を気にせずに本当に思っていることを言う自由を得た。CEOにはそのような贅沢は許されない。CEOは「周りはどう思うだろうか?」と常に考えていなければならない。特に公に弱みを見せることは許されない。それは社員、経営陣、株主の利益に反する。CEOは常に絶対の自信を見せていなければならない。