起業家としての成功経験もあり、その後ベンチャー・キャピタリストに転身したジェフリー・バスギャングが、起業家と投資家について豊富な経験から、実話を中心に重要ポイントについて語られています。両方の経験のある方は少ないので非常に貴重です。
僕自身、起業家としてすごく身に包まされるものもあったし、いま趣味でやっているエンジェル投資についてもすごく参考になる部分もあり、さらにVCとの関係においては、自分が恵まれていたがゆえに知らずにいた行動原理がすごく勉強になりました。
本書はタイトルがいまいちなためか、(アマゾンにレビューもなく)あまり知られていないようですが、本当にもったいないです。スタートアップの起業家はもちろん、投資家や関係者すべてにオススメです。
以下は印象に残ったパートを抜粋コメントにて。
CEOは、取締役会とかわした約束を守らず、大金を失い、納期の遅れを公表し、優秀な人材も容易に採用できない。あれこれと主張するも、結局はどれも現実に即していない。布石を打ってもピントがずれている。予算超過。取締役会なり金曜の午後に送るメールなりで、厄介な思いつきを提案する(にしても、なぜCEOが悪いニュースを伝えるのは決まって金曜の午後なのだろう?)。取締役の面々は少しずつ、不信感を募らせ、CEOへの信頼を失っていく。CEOが提供する情報はどれも、本当に正確なのかと疑いはじめる。 (中略)同時にCEOは、どんどん自分に非難が集中してくるように感じる。蜜月期間のときには、明確なビジョンをもった素晴らしい人物とほめたたえてくれていた取締役たちが、どうして四六時中自分を非難し続けるようになったのか、彼にはまるで理解できない。
これは本当にありがちで、起業家が思っている以上に投資家は約束に対しては敏感です。投資家は起業家が言ったことを覚えていて、もし約束通りに達成できなかったり、報告がなかったりすると、信頼感を失っていきます。お互いが不信感を持ってしまっては終わりです。しかし、実際のところほとんどの場合、約束を守れない起業家が悪いのであって、何かを変えなければいけないのは確かです。
多くの起業家は、助けを求めることを恐れ、実際に助けを求めているにもかかわらず、それを認めることをよしとしない。結局のところそういった面々が起業家になったのは、自分で自分のボスになるのが楽しいからであり、熱意はあるものの、自分たちのビジョン追求に固執しすぎるきらいがある。そんな彼らにとって、自分たちが助けを必要としている、そしてときには、たとえどんな状況であれ、自分たちが陥っているところから救い出してもらうために救命用具まで必要としている、ということを認めるのは容易ではない。
しかし、それは誇り高き多くの起業家にとっては非常に困難なことです。そのプライドこそが、成功のさまたげになってしまうことが多い気がします。しかし、プライドは絶対に必要です。プライドが高くなければ折れてしまうこともあり、このバランスがいいのが成功する起業家の条件になります。
(注:デイヴ)わたしが学ばなければならなかったのは、そういったことに対処するための、今までとは違うやり方でした。幸いわたしは、スポンジさながらなんでもどん欲に吸収していきましたから、最も聡明な人を引っ張ってきては、もろもろのやり方を教えてもらい、それを片っ端から実践していったのです。そうしているうちに、なにもかも自分ひとりで答えを出さなければいけないという思い込みを捨てられました。悟ったのです。自分が最も聡明な人間になる必要などない、と。
ここで成功する起業家は助けを求め、自らを変革する方向に動きます。これができるかが僕は最も重要なキーだと思っています。結局、会社というのはCEOの器の大きさまでしか大きくなりません。だから常にきついストレッチをしていく必要があります(それが自らの望む方向性と違う場合、CEOを連れてくるのが最良の道かもしれません)。
しかし、それでもスタートアップというのが世の中に変革をもたらすためにある以上、また、会社というのは、起業家だけのものではなく、投資家や従業員、そして顧客という関係者がいる以上、よりよいサービスを提供できる器にしていくことが求められています。
それらを理解した上で、それぞれの立場でスタートアップに関わっていく必要があるのです。
<抜粋>
・起業家は自信に満ちていなければならない。それは当然だが、当人だけが自信に満ちていても駄目なのである。起業家たるもの、他者にも自信を抱かせなければならず、それはまったく別種の挑戦なのだ。
・(注:リード・ホフマン)「ペイパルのおかげで、この先の人生をつつがなく暮らせるんです。子育てをはじめ、なにも心配はありません。つまりわたしは、“この先なにを悩むことがあるんだろう”といった状態だったのです。まあ、そんなことを言って結局は、いかにして世の中を大きく動かせるような影響力をもつかと頭を悩ませているだけですが。それと、思いたったんです。“いいか、おれには新たに巨大非営利団体をつくりあげられるほどの大金はない。あくまでも自分には充分な額を持っているだけだ。だったら、営利を追求しつつ、本当に世のため人のためになることをしたらだどうだ”ってね」
・リードは決して、儲けたかったわけでも目立ちたかったわけでもない。2008年の夏まで、彼が妻と住んでいたのは、寝室がふたつの小さなマンションだった。そしてリードは、洋服よりも書物を好む人物だ。「お金は大事ですよ、でしょう?」と彼も認めている。「お金があればいいものが手に入るし、他のことだって好きにできるんですから。でも、お金そのものが人生の意義じゃないんです。お金は確かに“きっかけ”ですが、わたしは別に、お金がほしいと思って朝起きるわけでもないし、お金がほしいから家に帰るわけでもありません。それは、もっと他のいろいろなことをさせてくれるものなのです。リンクトインそのものは、とてつもなく大きな影響をおよぼせますし、わたしに大金をもたらしてもくれるでしょう、なにか他のことに使えるお金を。そのなにかこそ、『自分がここにいるから、世の中はもっとよくなる』と胸を張って言えるものなのです」
・わたしは悟ったのだが、VCになるのと起業家精神を抱くのとでは、まったく異なる魅力があった。VCになれば、思いもかけなかった知的な経験をしたり、優れた新しいアイデアをもった素晴らしい人々を広く世に知らしめ、世界中にプラスの影響をおよぼす機会も得られる。また起業家に比べ、VCの方がはるかに浮き沈みもない。起業家だと、感情の起伏もジェットコースター並に激しく、ハイなときはとてつもなくハイだが(『天下をとるぞ!』)、落ち込むとどん底までいってしまう(『給料も払えず、倒産するぞ!』)。ところがVCは、とにかく仕事に感情をもち込まないーーわたしも、それに慣れるまでにはかなり時間を要した。
・「わたしが本当の意味でのベンチャー・ビジネス(注:投資側として)をはじめるまでには、少し時間がかかりました。最初の10年間は、自分のしていることがわかっていなかったような気がします」(中略)リード投資家として、ジャック・ドーシーのツイッターに最大の投資をおこなったのも彼だ。フレッドほど頭脳明晰にして有能な人物が、ものになるまでに10年を要したというのだから、凡人はどれくらいの時間がかかることか。
・わたしとしては、起業家にぜひおすすめしたいのだが、話し合いの席についてくれたVCには、パートナー間でのキャリーの配分がどうなっているのかをきいてみるといい。妥当な質問であり、パートナーシップのあり方や、だれがどの程度政策決定権を有しているのか、といったことに対するそのVCの本音が浮き彫りになってくるだろう。VCとていつも起業家に、創立チームの価値とプライオリティを理解する手段として、創立資産の分割法についてきいてくるではないか。つまりはお互いさま、というわけだ。
・VCへの売り込みの過程は、デートの約束をとりつけることに似ている。そんな意見を耳にしたことがあるが、わたしに言わせれば、むしろ自動車購入に近いと思う。たいていの人が、ひとりの相手と何度もデートを重ねてから、結婚にいたるだろう(少なくとも昔はそうだったし、わたしもそうだった)。しかし、車を購入する場合は同時進行だーー複数のディーラーと複数のブランドをチェックしてのち、購入にいたる。
・スタートアップ企業の取締役会には、公式および非公式の義務がある。取締役会の主要任務は、株主のためにエクイティ(株式)の価値をあげることであるのは明らかだ。要するに取締役会は、株主のエージェントだ。この役割において、かられが果たすべき重要な要因はふたつ。(情報に基づき、熱心かつ良識的におこなう)注意義務と(企業およびその株主の利益に貢献する)忠実義務だ。取締役会は、企業を経営するわけではない。経営するのはCEOだ。そして最上の起業家は、取締役会の面々が演じる、重要にして価値ある役割を認識したうえで、彼らが効率的に仕事をしていくうえで欠かせない透明性を提供する。
・CEOは、取締役会とかわした約束を守らず、大金を失い、納期の遅れを公表し、優秀な人材も容易に採用できない。あれこれと主張するも、結局はどれも現実に即していない。布石を打ってもピントがずれている。予算超過。取締役会なり金曜の午後に送るメールなりで、厄介な思いつきを提案する(にしても、なぜCEOが悪いニュースを伝えるのは決まって金曜の午後なのだろう?)。取締役の面々は少しずつ、不信感を募らせ、CEOへの信頼を失っていく。CEOが提供する情報はどれも、本当に正確なのかと疑いはじめる。 (中略)同時にCEOは、どんどん自分に非難が集中してくるように感じる。蜜月期間のときには、明確なビジョンをもった素晴らしい人物とほめたたえてくれていた取締役たちが、どうして四六時中自分を非難し続けるようになったのか、彼にはまるで理解できない。
・起業家がこうしたメロドラマを避ける最上の方法は、VCに素直かつ正直に向き合うことだ。同様にVCは、起業家の信頼を勝ち得ること。そうすればだれもが、この胸襟を開いた会話から同様に利益を得られるのだ。
・デイヴは、取締役会によってCEOを解任されるのではないかとの不安に苛まれだす。「『なにか問題が発生して、きっと仕事がうまくいかなくなるんだ。四半期の業績もよくないだろう。これをミスったら、あれがうまくできなかったら、ぼくはきっとお払い箱だ』朝から晩までそんなことばかり考えていたら、落ち込むのは容易ですから」デイヴの言葉は続く。「成功するには、そうした不安をとり除かなければなりません。『どうやったらこの仕事はうまくいくだろう?』その一点にのみ、考えを集中させなければならないのです」
・(注:デイヴ)わたしが学ばなければならなかったのは、そういったことに対処するための、今までとは違うやり方でした。幸いわたしは、スポンジさながらなんでもどん欲に吸収していきましたから、最も聡明な人を引っ張ってきては、もろもろのやり方を教えてもらい、それを片っ端から実践していったのです。そうしているうちに、なにもかも自分ひとりで答えを出さなければいけないという思い込みを捨てられました。悟ったのです。自分が最も聡明な人間になる必要などない、と。
・それが如実にわかるのは、起業家が、“自分こそ最も聡明だ”と証明すべくひとりで空回りしているときだ。起業家のそんな態度を目の当たりにしたVCや他の経営メンバーたちは、起業家が自分たちの率直なフィードバックに素直に耳を傾けようとしているとは決して思わない。むしろ、自分たちの頼りなさを必至に隠そうとしていると考えるだろう。
・多くの起業家は、助けを求めることを恐れ、実際に助けを求めているにもかかわらず、それを認めることをよしとしない。結局のところそういった面々が起業家になったのは、自分で自分のボスになるのが楽しいからであり、熱意はあるものの、自分たちのビジョン追求に固執しすぎるきらいがある。そんな彼らにとって、自分たちが助けを必要としている、そしてときには、たとえどんな状況であれ、自分たちが陥っているところから救い出してもらうために救命用具まで必要としている、ということを認めるのは用意ではない。
・(注:デイヴ)取締役会で突然新たな問題が浮上するというのはよくないことなので、あらかじめ取締役メンバーに連絡をして、正直に言うことが大切です。『こういう問題が発生しています。理由はこうです。お知恵を拝借したいのです。助けてください』と。そうすれば、取締役会の席上で『いったいなんの話をしているんだね?』などと言われることもないでしょう。
・時間というものに対する考え方が、VCと起業家では大きく異なるのだ。VCにとって、時間は友だちである。断をくださなければならないとき、時間をかければかけるほど、たくさんの情報も得られ、より質の高い判断ができると考えている。かたや起業家にとっては、時間は敵だ。起業家は、とてつもない切迫感を抱いているーーライバルに先んじなければ、一刻も早く顧客との約束を果たさなければ、資金が底をつくなか、なんとしても給料を工面しなければ、というわけだ。一方、投資先起業がどんな困った状況に陥ろうと、VCは、次の月曜には自分たちの快適なオフィスに戻って、マネジメント・フィーを徴収するのが常だ。たとえそれが企業活動を停止させたあとでも。
・ベンチャーの支援を受けたスタートアップ企業には、なにかしら魔法のようなものがある。外部の投資家が課してくる規律ゆえなのか、VCが取締役会にもたらす価値や経験のせいなのか、とにかくベンチャーの支援を受けたスタートアップ企業は、支援を受けていないベンチャーに比して、あらゆる点で勝っているのだ。「ベンチャー・キャピタルが投資をおこなって40〜50年になりますが、支援を受けている企業は依然として、民間セクターのほかの企業に比べ、2倍の事業成長率を示しています。これはどうしてなのでしょうか?」