題名通りの自伝「中卒の組立工、NYの億万長者になる」

その名の通り中卒の組立工が、NYの億万長者になるまでを語った自伝。ちなみに、水村美苗『本格小説』に出てくる東太郎という人物のモデルだそうです。

著者は中卒ながらオリンパスに入社し、英語を死ぬ気で覚えて、ニューヨークに赴任。それから独立して成功し、億万長者になっていきます。しかし、自慢めいたものはまったくなくて、とにかく苦労しながら歯を食いしばって自らの道を切り開いていくのを読みながら、だからこそ成功できたんだなぁと思いました。

本当にまだ戦後間もない時期で、オリンパスという当時はまだ小さな会社が自らの製品でもって、アメリカ市場を切り開いていくのに感動も覚えたし、その後、著者がアメリカで何社も医療機器の企業を設立し、上場やM&Aを成功させていくのは、まさにこれから自分たちがインターネットの分野でやっていくことだとも思いました。

すでにこんなにすばらしい事例があることに勇気づけられる一冊です。おすすめ。

<抜粋>
・(NYから妻へ)私は時間を見つけては毎日必ず手紙を書くようにした。これはものの喩えではない。私はニューヨークについたその日から、文字通り1日も欠かさず手紙を出し続けていた。
・(オリンパスのセールスレップを辞めるにあたり)言い方を換えれば、人間というものは本当に追い詰められない限り、思い切った決断を下すことができない。その意味で「チャンスの神様」は、逆境に陥った時にこそ顔を覗かせ始めるのである。ましてや自分は裸一貫、中卒入社からここまで這い上がってきた。既に退社も経験しているし、恐れるものなどなにもない。チャンスの神様の前髪をつかめるかどうかは、勇気を持って前に進めるかどうかっだけだった。
・当時のアメリカでは、ひどい人種差別がまかり通っていた。スーパーで列に並んでいても、レジの女性は「はい、後ろの人」と言って白人を優先する。
・人とのつきあいは半分ギャンブルでもある。 仕事にせよプライベートにせよ100%確実な判断はないし、これはと見込んだ相手に裏切られたり、肩透かしを喰わされたりすることは往々にしてある。 しかしよく言われるように、一人の人間ができることには限界があるのも事実だ。
・私とベルは、各方面から1300万ドルもの出資金を募り、「ハート・テクノロジー」という名の会社が発足することになった。(中略)やがて会社が上場されると株価はぐんぐんと上昇。私とベルは適当なタイミングで持ち株を売却し、バーサフレックス社に関わった時以上に、大きな利益を稼ぎ出すことに成功した。
・私は「バイオセンス」という会社の企業サポートではかなりの資産を築くことができた。これは不整脈の部位を特定する装置を製造・販売するために作られた企業で、私は会社の立ち上げにあたって25万ドルを出資していた。 後にバイオセンス社は「ジョンソン&ジョンソン」社に合併吸収される。(中略)私は3500万ドルもの利益を手にした。
・また淑に元気になってもらうためには、自分が健康でいなければならない。ビジネスの世界で鎬を削っていれば、当然のようにストレスはたまる。これまでは食事の前にスコッチを呷り、食事の際にはワインを1本あけるような生活をしてきたが、淑のサポート役に回ったのを機に一切の酒を断った。
・誰かを批判してやろうというような気持ちは毛頭ない。むしろ自分の人生を振り返れば振り返るほど、私が関わった企業や出会った方々への感謝の気持ちがふつふつと湧き上がってくる。 オリンパス社とは不幸な形で二度も袂を分かつことになったが、もともとアメリカに渡る機会を与えてくれたのはオリンパス社であったし、私を内視鏡の世界に導いてくれたのもオリンパス社である。またガストロカメラや内視鏡の開発を通し、世界中の数多くの人たちの命を救ったという功績は、我々日本人が後世に長く語り継いでいかなければならない。

中卒の組立工、NYの億万長者になる。