ディズニーの最近の歴史「ディズニーCEOが実践する10の原則」

直近までディズニーCEOを務めていたロバート・アイガーの自伝。生い立ちから、どのような仕事をしてCEOに上り詰めたのか、CEOになってから戦略をどう根付けてきたかやピクサー、マーベル、ルーカス・フィルム、20世紀フォックスなどなどの買収などの詳しい意図や経緯がかなり詳細に描かれており、非常にエキサイティングで、おもしろかったです。

前CEOマイケル・アイズナーやマイケル・オービッツ、スティーブ・ジョブズ、ジョージ・ルーカス、ルパート・マードックなどの超個性的なキャラクターとのやりとりの臨場感が素晴らしくて、それをロバート・アイガーの率直な性格でなんとか話をまとめていくのは見事としかいいようがないです。そういった中で彼の経営哲学が語られているのでひとつひとつ納得感があり、大変勉強になりました。大企業の経営というのがどういうものなのか知るには大変役に立つ一冊だと思います。

以下、抜粋・コメントです。

これまでには難しいことも、悲劇的な出来事もあった。だが私にとってディズニーの経営は、誰かの言葉を借りれば「世界一幸せな仕事」だ。私たちは映画、テレビ番組、ブロードウェイ・ミュージカル、ゲーム、衣装、おもちゃ、そして書籍も作っている。またテーマパークやアトラクション、ホテル、クルーズ船も建設し、運営している。世界中の一四のパークでは毎晩、パレードやショーやコンサートを行なっている。私たちの仕事は楽しい体験を作り出すことだ。これほど長いことディズニーで働いていてもいまだに、「これは夢だろうか? どうしてこんな幸運に恵まれたんだろう?」と思うことがある。

この気持ちはすごく分かる。私もよく「これは夢だろうか? どうしてこんな幸運に恵まれたんだろう?」と思ってます。

創造のプロセスを管理するということは、それが科学ではないと理解することからはじまる。すべては主観であり、何が正しいかはわからない。何かを生み出すには大きな情熱が必要で、ほとんどのクリエイターは自分のビジョンや流儀が疑われれば、当然ながら傷つく。私は、制作側の人たちと関わる時には、このことをいつも心に留めている。意見や批評を求められたら、制作者がそのプロジェクトに心血を注ぎ込んでいることや、彼らの人生がこの作品にかかっていることを、極端なくらい気にかけるようにしている。  だから決してはじめから否定的なことは言わないし、制作の最終段階でもない限り、細かいことも言わない。正確で 俯瞰 的な判断力がないことを隠すために、どうでもいいような細かいことにこだわる人は多い。小さなことからはじめる人間は、小さく見える。大筋がぐちゃぐちゃなら、小さなことを直しても意味がないし、重箱の隅をつつくのは時間の無駄だ。

この感覚は他のビジネスでも同じで、社内外だろうがみんなどれだけ心血を注ぎ込んで仕事をしているかを考えなければならないし、小さいことにこだわっていけない(しかし分かっていても難しい。。)。

オービッツは、CEOの右腕として複雑な事業体の経営を助けるより、知り合いの大物有名人を使ったアイデアを次から次へと思いつきで投げてばかりいた。未上場のタレントエージェンシーの共同創業者だったオービッツは、自分があれこれと口にした思いつきを誰かがすぐに実行してくれることに慣れていて、ディズニーでも同じようにできるはずだと思い込んでいた。彼はエージェントとしては一流で、クライアントのために目の前の仕事をすべて投げ出して時間を作り、話し相手になっていた。だがそんな彼のやり方はディズニーには合わなかった。トム・クランシー、マジック・ジョンソン、マーティン・スコセッシ、ジャネット・ジャクソン(および、それ以外の数々の有名人)に、ディズニーの事業拡大につながるような話をバラバラに持ちかけていた。大物有名人に、ディズニーが彼らのためにできることをいつもあれこれと売り込んでいたのだ。こうしたことは話題作りにはなるが、ほとんどの場合はうまくいかなかった。案件を担当する重役が時間と労力を注ぎ込んで、事業なりプロジェクトなりのすべての面に責任を持って最後までやり遂げることが必要になるからだ。また、大物タレントは何でも自分の好きなようにできると勘違いしてしまうが、どんなアイデアも慎重に吟味するディズニーのような企業では、そんな誤解が悲惨な結果につながりかねなかった。

アイズナー時代に一時期COOだったマイケル・オービッツについては辛辣だが、結果を出せなければすべてが否定されてしまうのが歴史か。。。

たいていの場合、CEOとその後継者は緊張関係にあるものだ。人は誰しも、自分に代わる人間はいないと思いたがる。だが、客観的に見れば、この仕事ができるのは自分ひとりだという考えにしがみついても意味がないとわかるはずだ。優れたリーダーシップとは、代わりのいない存在になることではない。誰かを助けて自分の代わりになる準備をさせてあげることだ。また、意思決定に参加させ、育てるべきスキルを特定し、その向上を助け、時にはこれまで私がやってきたように、なぜその人がまだステップアップできないのかを正直に教えてあげることでもある。

「優れたリーダーシップとは、代わりのいない存在になることではない。誰かを助けて自分の代わりになる準備をさせてあげること」、なかなかに難しいがなんとかして心がけたい。

電話をつないだまま、自宅前に車を停めた。それは一〇月の暖かい夜で、エンジンを切ったものの、暑さと緊張で汗が吹き出した。妻のアドバイスを心の中で唱えた。ドンといけ。その場で断られる可能性は高い。上から目線だと思われて、腹を立てられてもおかしくない。ピクサーを軽々しく買収できると思うなんて、ずうずうしいにもほどがあるのかもしれない。ふざけるなと言われて電話を切られて終わっても、元に戻るだけだ。失うものは何もない。「お互いの未来について、しばらく考えていたんだ」そう切り出した。「ディズニーがピクサーを買収するっていうのはどうだろう?」スティーブが電話を切るか、吹き出すか、待っていた。その一瞬が、私には永遠に思えた。  私の予想を裏切って、スティーブはこう言った。「あぁ、それならとんでもないってこともないな」  断られると思い込んでいたので、少しでも可能性があるとわかって、アドレナリンがどっと 噴き出した。もちろん、万が一夢が実現するとしても、その時までには数知れないハードルがあるのは頭ではわかっていた。それでも、興奮を抑えられなかった。「そうか。よかった。じゃあ、もっと話し合うのはいつにしたらいい?」

この辺りのピクサーをめぐるジョブズとのやりとりの臨場感はとくにすごい。

経営者となって経験を積むあいだに、ある時点で私は、「プレスリリースを使った経営」というものを意識するようになった。つまり、外の世界に向けて私が強い確信を持って発信したことは、社内にも響き渡ることがわかったのだ。二〇一五年には、私の戦略への投資家の反応はすこぶる否定的だったが、私が現実を率直に語ったことで、ディズニーの社内では「トップがこれほど真剣に打ち込んでいるなら、自分たちも真剣にならなければ」とやる気になってくれる人が増えた。二〇一七年の発表もまた、同じように社内にいい影響を与えた。私が直接配信にどれほど打ち込んでいるかを社内のチームはわかっていたが、外向きの発表を聞き、特に投資家の反応を見ることで、全員に前に進む力とやる気が湧いてきた。

私も「プレスリリースを使った経営」を心がけてます。

マイケル・アイズナーはよく、「マイクロマネジメントは過小評価されている」と言っていた。私も賛成だ。だが、それにも限度がある。細かい部分に気をつけることは、それを大切に思う気持ちの表れだ。「偉大なもの」はたいてい、ほんの小さなことの積み重ねだ。マイクロマネジメントの欠点は、それが周囲の人のやる気を失わせ、リーダーから信頼されていないと部下に感じさせてしまいかねないこと

マイクロマネジメントの「周囲の人のやる気を失わせ、リーダーから信頼されていないと部下に感じさせてしまいかねないこと」という欠点は意識しすぎてもしすぎることはないところなのですが、僕もマイクロマネジメントという評をいまだによくもらい、そのたびに反省しています。