日本人が不得意とされる「生産性」

著者はマッキンゼー出身だけあって、若干コンサルよりの発想ではあるが、一般企業でもほとんどが通用する「生産性」についての話。文章は平易ながら、たくさんの気づきがあって非常に勉強になりました。マネージャー職以上を目指すひと(もちろん経営者含む)には必読の一冊だと思います。

チーム内の人手に対して仕事が多すぎるとき、最も避けるべきは、安易にアルバイトや派遣社員を雇い、仕事をそれら外部要員に任せてしまうことです。 これは、投入労働力を増やすという意味では、残業をして仕事を終わらせるのと同じです。社員の残業量が規制されているから、もしくは、正社員が残業をすると人件費が高いから、社員以外の時間を投入しているだけです。 しかも外部要員に付加価値の低い仕事を任せてしまうと、その仕事のやり方を改善しよう(生産性を上げよう)というインセンティブが組織から消えてしまいます。そして次第に誰も、それらが本来どのくらいの時間をかけてもよい仕事なのか、考えなくなってしまうのです。

派遣社員を雇ったりIT投資をする前には必ず、 ・本当に残す価値のある仕事なのか? やめられないのか? ・やり方を抜本的に変えられないか? ・外注化やIT投資で、生産性はどれほど上がるのか? それは投資に見合うのか? などを確認するようルール化してしまうだけでも、無駄な仕事を減らすことに役立つことでしょう。

これは本当にそうですね。特に会社が急激に拡大していくと人手が足りないから派遣社員をというのはよくある話です。しかしそれは本当に社内でやるべきことなのか考える、そもそも前々から見越して計画的に採用すべき、ということですね。

これは実際の仕事でもまったく同じであり、研修の参加者はこのプログラムを通じて、マネージャーの役割とは、
 ・どれも正解でどれも不正解である複数の選択肢からどれかを選ぶこと
 ・選んだ選択肢に伴う問題をあらかじめ想定し、備えておくこと
だと学ぶわけです。 より端的にいえば、マネージャーの仕事とは、
 ・決断をすること、と
 ・リスクに備えておくこと

となります。 これを学んでおかないと、マネージャーになった後、決断すべきタイミングを迎えているのに延々と複数の選択肢のメリットとデメリットを分析し続ける「決められない管理職」になってしまいます。

マネージャーの能力というのは測りづらいのだけども、結果としてはものすごい差がつく。もちろんこういったマネージャーの役割を知ってもらうことも重要ですが、結局最後は結果で見ていくしかないのかなと思います。

<抜粋>
・あのとき「これからはみんな楽しく働ける、人にやさしい職場に変わります」などといった、耳には心地よいけれど誤ったセルフスクリーニングにつながる安易なメッセージを発信しなかったことが、このときの対応のポイントです。(中略)これにより同社は、「ユニクロの商品が大好き」「毎日ユニクロ商品を着ている」といった商品イメージへの好印象だけから応募してくる学生を減らし、それなりにプレッシャーのかかる労働環境ではあるが、成果を出せば若くても高く評価される職場で働きたい、という学生を惹きつけることに成功しました。
・仕事が忙しくなると、儲かっている企業はすぐに(非正規ワーカーを含む)人材を増やしますが、これも多くの場合、組織の生産性を下げてしまいます。急いで雇った新人の生産性は既存社員ほど高くないばかりか、社内にあふれる生産性の低い作業を彼らに押しつけてしまうことで、それら生産性の低い仕事がいつまでも温存されてしまうからです。
・そうではなく、上司は部下に「資料はよくできている。すばらしい。ところでこれは、いったい何時間かけて作ったんだ?」と問うべきなのです。 「徹夜しました」と言われたら、「徹夜!? じゃあ、おとといからやってるから全体で三〇時間くらいかけたのか? なるほど。今回の資料は本当にいい出来だから、次はこのレベルの資料が一五時間くらいでできるようになったら一人前だな。そうなったらすごいと思うよ」と褒めるべきなのです。 反対に、ごく短い時間で仕上げたと言われたら、「それだけの時間でこのレベルの資料を完成させられるなんてすばらしいな。どういうやり方で情報収集や分析をやっているのか、ぜひ次の会議でみんなに方法論を共有してくれ」と褒めればよいのです。
・生産性が向上したかどうかを評価するのは、紛れもなく成果に対する評価です。つまり生産性の伸びを評価基準とすることで、管理部門においても成果に基づく評価(量を評価する従来の成果主義ではなく、質を評価する成果主義)が可能になるのです。
研修プログラムにしろOJTにしろ、多くの企業は育成の主眼を平均的な社員に設定するため、トップパフォーマーの力がうまく引き出せていません。それでも目に見える部分では、トップパフォーマーの成果は一般社員の中のハイパフォーマーさえも上回っています。このため、誰も彼らの育成に問題が生じているとは気づかないのです。
「部下の指導をすることで学べることはたくさんある」とはよくいわれることで、私もそう思います。しかし、それよりはるかに多くのことを学べる機会が別にあるなら、トップパフォーマーにはそちらにチャレンジするよう促すべきです。
・人事考課において、今の自分は一年前の自分からどこがどれほど成長したのかを言語化させ、その成長レベルが十分かどうかという振り返りを行います。目標についても「一年後にはどういう点において、今よりどれほど成長したいか」という、具体的な目標を立てさせます。 もちろん、社内規定の評価においては「去年も今年もA判定」で構いません。しかしトップパフォーマーにはそういういった横並びの評価に加えて、「いかに去年の自分と今年の自分の違いを大きくするか=いかに成長幅を最大化するか」いう視点をもたせる必要があります。 これは、ボーナス査定や昇格判断のためではなく、成長支援のための人事考課です。トップパフォーマーの場合、一般的な評価にはあまり意味がありません。彼らにとっても重要なのは、さらなる成長支援のための特別な目標設定と振り返り(フィードバック)なのです。
多くの人は、A評価かB評価かという話ではなく、仕事に対する具体的で詳細なフィードバックを与えられると、極めて真摯にそれを受け止めます。自分の言動や仕事振りがポジティブに評価されていると知れば、たとえ報酬に反映されなくてもやる気につながるし、反対にネガティブなフィードバックを受けられれば、それが給与や役職に影響を与えないものであっても、重く受け止めます。
・このため「目の前の成果を上げるためには、部下の育成に時間を使うより自分が頑張るほうが早い」と考える人が出てきてしまうのですが、管理職がそんな発想のままでは、組織の生産性が上がることはありません。 反対に、部下のスキルアップが部門の成果を上げるための有効な手段だと認識されれば、「忙しくて部下の育成に手が回らない」のではなく、「忙しいから早く部下を育成しなければ!」へと意識を変えることができます(図表24)。仕事の成果は、自分や部下がより長い時間働くことで上げるものではなく、チームの生産性を高めることで実現するものなのです。
・チーム内の人手に対して仕事が多すぎるとき、最も避けるべきは、安易にアルバイトや派遣社員を雇い、仕事をそれら外部要員に任せてしまうことです。 これは、投入労働力を増やすという意味では、残業をして仕事を終わらせるのと同じです。社員の残業量が規制されているから、もしくは、正社員が残業をすると人件費が高いから、社員以外の時間を投入しているだけです。 しかも外部要員に付加価値の低い仕事を任せてしまうと、その仕事のやり方を改善しよう(生産性を上げよう)というインセンティブが組織から消えてしまいます。そして次第に誰も、それらが本来どのくらいの時間をかけてもよい仕事なのか、考えなくなってしまうのです。
・派遣社員を雇ったりIT投資をする前には必ず、 ・本当に残す価値のある仕事なのか? やめられないのか? ・やり方を抜本的に変えられないか? ・外注化やIT投資で、生産性はどれほど上がるのか? それは投資に見合うのか? などを確認するようルール化してしまうだけでも、無駄な仕事を減らすことに役立つことでしょう。
・一年に一度、仕事の閑散期に「部門内の仕事の洗い出しと、不要な仕事の廃止」を行うことを慣習化すれば、他にも多くのメリットが得られます。 ひとつは、部内の仕事の洗い出しを通して、各スタッフがどの仕事にどれくらいの時間をかけているかが把握できることです。管理職が「一時間くらいで終わっているはず」と思っていた仕事に部下は三時間もかけていた、ということはよくあり、指導機会を見逃さないという意味でも有益です。 また部下にとっても、「こんな仕事になんの意味があるの?」と疑問をもっていた仕事について、「その仕事は廃止できない。なぜならこういう価値があるからだ」と説明してもらえる貴重な機会となります。 面倒な仕事だと思っていても、その仕事に大きな意味があったのだとわかれば、今まで以上にやる気をもって取り組めるし、自分の仕事が後工程でどう使われるのか理解できると、より使いやすい形を考えようとするなど、自主的な生産性向上の取り組みも促進されます。
・これは実際の仕事でもまったく同じであり、研修の参加者はこのプログラムを通じて、マネージャーの役割とは、
 ・どれも正解でどれも不正解である複数の選択肢からどれかを選ぶこと
 ・選んだ選択肢に伴う問題をあらかじめ想定し、備えておくこと
だと学ぶわけです。 より端的にいえば、マネージャーの仕事とは、
 ・決断をすること、と
 ・リスクに備えておくこと
となります。 これを学んでおかないと、マネージャーになった後、決断すべきタイミングを迎えているのに延々と複数の選択肢のメリットとデメリットを分析し続ける「決められない管理職」になってしまいます。
・外資系企業の多くでは、こういった研修を新人だけでなく、マネージャーや部長にも、そして役員にも受けさせています。マッキンゼーの上級役員(パートナー)も、「顧客企業の経営トップとのコミュニケーション」をロールプレイング形式で学ぶグローバルトレーニングに定期的に参加します。 講師は何十年もコンサルタントを務めている各国のベテランコンサルタントですが、前述したように、ロールプレイング研修の学びは講師から得られるというよりは、ともに研修に参加する仲間から得られるものが大半です。
・そうはいっても、自分自身一度もロールプレイング研修を受けたことがない人事部や研修部のスタッフが、いきなり会社の制度としてそういった研修を企画するのは敷居が高いかもしれません。 そういうときは、自部門の新人向けのトレーニングから始めてみればよいと思います。自分はその相手役として研修に参加するだけでも、ロールプレイング研修の意義はよくわかります。 また、こういった「演じる」研修は最初は気恥ずかしく思えますが、何度かやっているとその効果の大きさが実感できるようになり、積極的に取り入れようという気持ちも高まります。
できあがったブランク資料は上司や顧客と共有し、「この資料のブランク部分に具体的な数字や情報が入れば、我が社は意思決定ができますよね?」と確認します。つまり、最初にブランク資料を作ることで意思決定への覚悟を問うことができ、後から「これだけの情報では意思決定はできない。もっと情報が必要だ」と、むやみに判断を引き延ばすことも不可能になるし、「意思決定をするかどうかはわからないが、とりあえず勉強したいので資料を集めてほしい」という生産性の低い仕事を減らす効果も期待できます。
・また、もし事前にブランク資料を見せられた上司や顧客から「これだけでは意思決定はできない」と言われた場合にも、どんな情報が足りないのかを口頭説明ではなくブランク資料の項目として提示してもらえるようになるため、何日も作業をした後で「欲しかったのはこういう資料ではなかった」というすれ違いが起こることもありません。 このようにブランク資料を使えば、資料作成だけでなく意思決定の生産性をも大幅に向上することができるのです。
・よくある「会議の議題一覧」と、「会議の達成目標」の違いは次のような感じです。 本日の会議の議題一覧
 1.来月の○○発売三周年記念イベントについて
 2.先月発売された○○の販売実績の報告
 3.来月実施予定の市場調査の方法について
本日の会議の達成目標
 1.来月の○○発売三周年記念イベントの、メインの出し物の素案出し
 2.先月発売の○○の販売目標未達の理由の共有と今後のてこ入れ策の決定
 3.来月の市場調査を○○リサーチ会社に発注すること、および、調査内容の詳細の最終確認
・ちなみに、大半の会議の達成目標は次の五つのどれかです。
 ① 決断すること
 ② 洗い出しすること(リストを作ること)
 ③ 情報共有すること
 ④ 合意すること=説得すること=納得してもらうこと
 ⑤ 段取りや役割分担など、ネクストステップを決めること
・それよりも、営業担当者と技術者など、異なる視点をもつ二者が議論のたたき台となるリストを作ってきて、会議ではその資料を見ながら、不足しているアイデアを追加していくほうが、圧倒的に生産性は高くなります。 こういった方法を「会議でアイデアの洗い出しを行う場合の標準プロセス」として統一してしまえば、会議の生産性は簡単に上げられます。誰かがひとりで行えば五分もかからない〝たたき台のリスト〟作りに、全員が雁首をそろえる会議時間を使うなど、あまりにも生産性が低いので「そういう会議のやり方は禁止です」と、研修で教えてしまえばよいのです。
「原則として資料の説明は禁止」というルールを作れば、会議の生産性は大幅に上昇します。
・会議体として結論を出すためには、まず、参加者個々人が自分の意見を決定し表明する必要があります。しかし中には、意思決定自体が不得意な人がいます。そういう人は意思決定が必要なタイミングを迎えても、「場合による」とか「一概には言えない」「もっと調べないとわからない」「情報が足りない(ので決められない)」などと、なんとか意思決定を逃れようとします。 こういう人には、意思決定の練習が必要です。「あいつは決断力がない」という言い方がありますが、「不確定な状況において決断する」のはビジネススキルのひとつなので、苦手なら練習をして身につければいいのです。
・個人としてポジションをとることに加え、会議では「組織としての意思決定」も必要です。結論が出せないまま終わってしまった会議については、「なぜ今日の会議では結論が出せなかったのか」を記録しておくだけでも、今後の会議の生産性を上げるヒントが得られます。 一番よくないのは、必要な結論が出なかったにもかかわらず、「今日はいい議論ができた」「多様な意見があることがわかった」などと言い、あたかも成果があったかのようにごまかしてしまうことです。決めるべきことが決められなかったのであれば、そのために使われた時間の生産性はゼロであった=無駄であった、という現実をきちんと見据えることが必要です。
・また、意思決定が必要なタイミングで「場合による」という答えを返してくる人には、「どういう〝場合〟なら、イエスという判断になるのか?」と、「場合による」の〝場合〟を明確化させます。
・たとえば、「顧客の反応がわからないから決められない」「販売すべきかどうかは顧客の反応次第」などという話になったとき、「では調査をしてから決めましょう」と意思決定を延期するのではなく、「調査の結果、顧客の四割は満足と回答、三割が機能には満足だが価格が高いと回答した」などと仮の情報を挙げてみて、「もし調査の結果がこうであったら、私たちは今、どういう意思決定ができるのか?」と確認しておくのです(図表34)。
・ベンチャー企業やオーナー企業の意思決定が速いのは、彼らが自分なりの意思決定のロジックをもっているからです。ロジックがあるから、部下に情報を集めさせればすぐに意思決定ができるのです。 「情報が足りないから今日の会議では決められない」という話になったときは、必ず「足りないのは本当に情報なのか? 意思決定のロジックは明確なのか?」という視点で確認をしましょう。「会議時間の短縮」に敏感な企業は増えていますが、本当は「意思決定の生産性」についてこそ、より意識的になるべきなのです。
・外資系企業やベンチャー企業のオフィスに、子ども向け施設のようにカラフルな部屋や、畳の部屋、観葉植物で埋め尽くされた部屋など、ユニークな会議室がつくられることがあるのも、通常のオフィス環境とは異なる雰囲気を生み出すことで、話し合いの生産性を高められると期待するからです。
・また、テーブルがあると資料に目を落として話を聞く人が増えますが、イスだけの会議室で小さなテーブルを脇に置くと、みんなお互いの目を見て話すようになります(図表36)。ディスカッションを多用する米国の高校や大学の教室で、小さな机が脇についたイスを使うのは、この効果を狙ってのことです。教科書を読んだりノートを書くことより、議論のほうが優先だと生徒に伝えたいのでしょう。
・まずは、カレンダー上に残る過去の会議を振り返りながら、各会議について、その成功度合いを%で評価します。五つの議案があり、すべてにおいて目標が達成されたなら一〇〇%の成功、三つしか決まらず、残りふたつは持ち越しになったなら六〇%といった具合です。
・時間の短縮だけでなく「どうしたらもっと活発な意見交換が行われるのか?」「どうすれば一定時間で意思決定が完了させられるのか?」といった方向からも、ぜひいろんな工夫を試してみてください。生産性とは、そういった試行錯誤を通して、少しずつ上げていくものなのです。
「労働時間が長すぎる → では労働時間を減らしましょう」というのもコインの裏返しです。そうではなく、「解くべき課題は生産性を上げることだ」と認識し、イノベーション(改革)や継続的なインプルーブメント(改善)を通して仕事の生産性を高めれば、結果として残業も労働時間も減少します。
・最近は、人工知能の進化によって、今ある職業の多くが消えていくという予測が世界各国で発表されています。人口が減らなければ、それらは大規模な失業問題に発展します。しかし幸か不幸か日本では、労働人口が急激に減っていくのです。
・急成長を続ける企業では長時間労働が常態化していることも多く、生産性への意識が低くなりがちです。また、投資家に高く評価されるとキャッシュフローが潤沢になり、人を雇うことで問題を解決しようという方向に流れがちということもあるでしょう。 しかし、同じように全員が遅くまで忙しく働いている会社でも、その実態はふたつに分かれます。ひとつは「生産性が低い人が仕事に忙殺され、忙しく働いている会社」、もうひとつは「生産性が高い人が長時間働いているハイパワーな会社」です。一見すると両社はどちらも「全員が長時間働いている忙しい企業」にみえますが、それぞれの企業が達成できるレベルには大きな差が生まれてしまうのです。