2023振り返り+本ベスト5

LA

↑LAサンタモニカの夕日

2024年、あけましておめでとうございます!

昨年のテーマは「中長期で考えて、今を楽しむ」でした。

2023年のテーマは「中長期で考えて、今を楽しむ」にしようと思います。改めて、昨年中はお世話になりました。世界は不穏ですが、変化が大きいということはチャンスも大きいと前向きに捉えたいと思います。

ウクライナの次はイスラエルで戦争が起こり、日本でもジャニーズ解体や裏金問題など、想像しなかったことが次々起こった年でした。もはやこれはブラックスワンの常態化ということであり、何があっても対応していくしかない、むしろチャンスと捉えるべき、ということだと思います。もっと言えば、何か起こる前にアクションするのがベストです。

ただ仕事としては、メルカリは10周年を迎えることができ、着実な成長はあったものの、イノベーションは起こせたとは言えません。昨年、

今年はこれらの成果がより見えてくると信じています。

と書いていて、「果報は寝て待て」のようなマインドセットがよくなかったなと思っています。メルカードやメルコインなど大きく伸びた新規事業もありましたが、全体としては必要に応じてもっとステップインできたと思います。

昨年は、2月新ミッション発表から始まって、Culture Doc、Impact Report、I&Dの改定や、指名委員会等設置会社への移行、第三国進出検討など、中長期への意識が強くあったのも影響していたかもしれません。

これはもっとマイクロ・マネジメントするべき、などの単純な話ではなく、もっと優秀な仲間の力を引き出して組織能力をあげ、方向性を定めて成果を出せる仕組みをつくっていくことができたはず、という反省です。うまくやれば、中長期だけでなく、短期的にも大きな成果を出すことができると思っています。

なお、メルカリの状況については、こちらのインタビューが分かりやすいかなと思います。

変わり続けるメルカリ 個人間取引を軸に「大胆に挑戦」 – Impress Watch

D&I財団は3年目となり、地道な活動や知名度があがってきたこともあり、3,000人を超える過去最高の応募者数を記録することができました。今後さらに幹部を拡充し、奨学金だけではなく、インパクトを出せることを検討していきます。

プライベート(一部出張)では、フィジー、スウェーデン、デンマーク、クロアチア、ポルトガルと一昨年に引き続き、様々な国を訪れることができました。やはり新しい土地に行くと新しい発見があり、世界感覚のアップデートがあります。またWBCや井上尚弥戦を現地で観られたのもすごくよい体験でした。

身体のパフォーマンスは非常によいです。減量を長らくしてきましたが、今は増量(バルクアップ)しています。というのも、食事制限と運動に結構無理が出てきて、かなりの摂生が必要となってしまい生活がきつすぎてサステナブルではなくなってしまったからです。基礎代謝をあげるために、増量して筋肉量を増やしています。今は割りと好きなものを食べて、適度に運動して(と言っても週3筋トレ)、ストレスも少なくなりました。一方で、健康診断数値はほぼパーフェクトを維持し、長年のハムストリングの痛み、目のヘルペスなどもほぼ完治しました。この健康をキープするのが重要だと考えています。

昨年テーマの「中長期で考えて、今を楽しむ」については、よく意識できて実行できたし、楽しめた、という感覚はあるものの、「今を楽しむ」だけでなく、成果も欲しかったなと思います。もちろん仕込んだものは時間がかかりますが、もっと短期の成果に貪欲であってもよかった。

「足るを知る」という言葉もありますが、今年は「足る」で満足するのではなく「足る」という土台の上で、限界まで成果を追求してみたいと思っています。今年のテーマは「成果を出す」にしたいと思います。

それでは毎年恒例のベスト5本をどうぞ

5位「負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部」

日本でもこういうことが起こるということを知っておいた方がよいと思います

4位「欲望の見つけ方: お金・恋愛・キャリア」

荒削りですが、一考の余地のあるコンセプトが提示されています

3位「JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書」

M&A海外進出についての教科書でした

2位「人生後半の戦略書 ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法」

人生の後半に向けてどう考え方を変えていくか

1位「怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ」

YouTubeの解説ビデオとともに読むととてつもなくおもしろいです

P.S.2006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年2016年2017年2018年2019年2020年2021年2022年のベスト本はこちらからどうぞ。

M&A海外進出を知る「JTのM&A」

M&Aによる海外進出の成功事例と言われるJTについての、元CFO新貝氏による解説。

JTの海外展開で、対象会社たちをどういった観点でデューデリし、M&Aした場合はその後どういったことに気をつけて、戦略や組織をつくっていったか、そしてどうエグゼキューション(遂行)していったか、などをかなり詳細に描いています。2015年の作品ですが、まったく色褪せていません。

買収検討・交渉の要点は、 (一)買収目的の明確化 (二)対象企業の選択 (三)統合を見据えた企業価値評価=買収後経営の青写真に基づく企業価値算定 (四)対象企業取締役会の重要関心事の洞察 (五)適切なアドバイザーの活用による買収諸課題の解決 (六)買収を巡る他社の動きのインテリジェンス  の六つです。

日本で作った CFOのミッション は、この財務機能の大きな絵姿を財務人材に明示するために作ったものだ。その内容として、(一)CFOが価値創造のナビゲーターであること、(二)財務機能を駆使し、自ら価値創造すること、(三)ファイナンシングを意識し、対話を通じ資本市場と良好な関係を構築・維持すること、(四)世界に通用する財務人材の育成・獲得、を四本柱とした。

CFOはチェンジリーダーである。自らを日々新たにし成果を上げねばならない。役割は四つある。 ① 経営者として のCFOは、変化を機会と捉え、戦略的にリスクを取り、リターンを追求する。 ② CEOのブレーン であるCFOは、CEOが描いた戦略のデッサンを構造計算し、CEOとの対話を通じて、より良い戦略を構築する。 ③ 資本市場への大使 としてのCFOは、対話を通じて財務計数と戦略をストーリーとして、分かりやすく外部ステークホルダーへ説明する。 ④ 財務機能のリーダー としてのCFOは、人をモチベートし、組織を通じて成果を上げる。

メルカリはここまで大きなM&Aをする規模感ではないですが、来るべきときに備えて、組織力を高めていかなければならないと思いました。その際の将来イメージが湧いて、非常に勉強になりました。

天才ボクサーに対戦相手から迫る「怪物に出会った日」

井上尚弥は25戦負けなし、世界4階級制覇王者で、日本ボクシング史上最高傑作と呼ばれています。その井上尚弥に、過去の対戦相手へのインタビューから迫るドキュメンタリー。

「心・技・体でいうと、技と体が凄いのに心が弱いボクサーって多いんです。井上君は試合中に心の揺らぎがなかった。どんなときでも平然としていた。心がしっかりしているから、あれだけのパフォーマンスができる。僕は闘ってみて、ハートがモンスターだと思いました」  二十八分九秒という長い時間、対峙した者にしか分からない「井上尚弥像」だった。(佐野友樹)

「全部がハイレベルすぎるんです。ディフェンス、オフェンス、パンチの当て勘、スピード、フィジカル……。戦力のグラフを作るとしたら、全部の項目が十で大きい。七とか八がないんです。すべてが必殺技くらいのレベル。試合の後、スパーリングしたじゃないですか。『ジャブがハンマーみたいだった』って僕は言いましたよね。でも、本当はよく分からない。だって、あんなパンチを経験したことがないから、喩えようがない。他にそういう人がいないんですよ」(田口良一)

「今までたくさんの世界王者とやってきたけど、スピードは一番。パンチも一番。パワー、ディフェンス、フットワーク、リズムもいい。全部がバーンと抜けている。普通はパンチが上手い人はディフェンスが悪かったり、どこか欠けている部分がある。みんな井上君みたいな動きをしたい。僕だってそうしたい。でも、できないから今のスタイルになっている。だからボクサーの理想なんですよ」(河野公平)

対戦相手は一様に、その強さを語り、負けても対戦できたことに誇りを持っているのが印象的。当然ながら家族も含めたドラマがあるわけで、一心不乱に努力をしたが叶わなかった物語にも心を打たれます。

また、1章読むごとにYouTubeなどで解説動画を観ると、ものすごい臨場感で大変オススメです。今年12月26日に次の世界王座戦がありますが、ものすごく楽しみです。

継続中の伝記「イーロン・マスク」

テスラ、スペースX、スターリンク、X(Twitter)などなどのイーロン・マスクの伝記。『スティーブ・ジョブズ』伝記も書いたウォルター・アイザックソンが手掛けており、ものすごい臨場感。

とにかく破天荒すぎる。ものすごい勢いでいくつもの事業を立ち上げ、その多くを成功させています。ただその過程では泊まり込みをしたりしながら、めちゃくちゃに現場に入り込み、決定的な意思決定をしています。だからこそ成功しているとも言えますが、100%正解の判断をするというわけではないようです。またその過程では、暴言や突然の解雇も含め、多くのひとの人生を破壊するような言動もしています。

「マスクはスティーブ・ジョブズと同じタイプだと思っているんです。とにかくクソなヤツはいるものだ、と。ところが、ふたりともすごい成果をあげています。で、つい、考えてしまうわけです。『もしかして、あの性格と成果はセットなのか?』と」  セットであればマスクの言動は許されるのかと突っ込んでみた。 「これほどの業績に対して世界が払わなければならない対価が、くそ野郎でなければ達成できないなのであれば、そうですね、たぶん、それだけの価値はあると言えるのではないでしょうか。私はそう思うようになりました」  ちょっと考えて、一言追加が出てきた。 「でも私自身がああなりたいとは思いません」(注:元テスラ暫定CEO マイケル・マークス(元フレクストロニクスCEO))

ロスのマスクに対する思いは複雑だ。まず、関係は基本的によかった。 「合理的だしおもしろいし、魅力的なんですよね。そしてビジョンを語る。ちょっとほらっぽかったりしますが、基本的に、すごく引き込まれる形で」  だが、ときに、高圧的で意地の悪いダークなマスクが顔を出す。 「悪のイーロンです。あのイーロンには耐えられません」 「彼を嫌っていると言わせたい人が多いようですが、そんな単純な話じゃありません。だから彼は魅力的なんじゃないでしょうか。ちょっと夢想家っぽいところがありますよね? 複数惑星にまたがる人類とか再生可能エネルギーとか、それこそ言論の自由とか、グランドビジョンを掲げ、そういう大目標を実現するための精神的・倫理的な世界を身のうちに構築しているわけです。だから、彼を悪党呼ばわりするのは違うと私は思ってしまいます

自身のことも考えてみると、起業したてのときなんかはこういう色は濃かったように思います。ただ自分の場合、その判断が全然間違ってることが多かったことから、いかにひとに助けてもらって共にいい経営判断をしていくかとシフトしていったという感覚があります。

マスクがそうならなかったのは、性格もあるでしょうけども、それでおそらく本質を掴んで成功することが多かったから、ということのも大きいでしょう。だからこそ、性格が温存されたのかもしれません。

ただ、その人生は気分も事業も(私生活も)ジェットコースターのようで大変そうで、まさにマイケル・マークスが言うように「でも私自身がああなりたいとは思いません」と私も思います。ただそれによって素晴らしく人類を前進させるイノベーションが起こっているわけで、感謝したいです。とはいえ、X(Twitter)とかのディティールを観ていると、逆に触れることもありそうなので注意も必要そうですが。。

いずれにしても伝記といっても、イーロン・マスクは全然存命なので、これからも目が話せない人物だと思います。

南米で起こっていること「ポピュリズム大陸 南米」

日本では、南米は距離が遠いこともあってか、あまり何が起こっているのか知られていません。私も2012年の世界一周以来滞在していません。とても豊かで美しい自然と複雑な歴史と遺跡や建築が印象的で、一方で都市ではスリなどの危険を常に意識させられました。

本書では、新聞記者としてブラジルのサンパウロに長く駐在した著者が、ベネズエラ、アルゼンチン、ブラジルを主に取り上げ、チリ、コロンビア、ペルー、ボリビアなどについても言及しています。複雑なテーマながら、ストーリーとして描かれており非常に読みやすいです。もちろんこれもひとつの見方ということは言うまでもありませんが、南米の全体像を知る上では素晴らしい一冊です。

経済的に安定していないというイメージはあったのですが、それが民主主義がうまく働かないことによって起こっているというのが大きな気付きでした。国によって違いますが、人気取りのバラマキや国営化、また主に支持率が下がったときに独裁化を目指す政治家の強権発動が複雑に絡み合いつつ、豊かな資源がある国も多い中で、産業育成が遅々としていることも大きな要因になっているようです。

ではどうすればよいのか、というのは結論がなく頭を抱える状態です。翻って日本のことを考えると、強い民間部門があるのと、政治的に安定しているため、そこまでポピュリズムが進んでいないことが功を奏しているようです。ただ、日本も医療も含めた財政支出はとんでもないことになっているし、南米のケースを観ていると、どこかでバランスが崩れることも十分ありえます。

そういった時になにが起こりえるのかというスタディケースとして、南米各国のことを知っておくのは非常に重要だなと思います。

最後にベネズエラ、アルゼンチン、ブラジル、ボリビアから抜粋引用だけしておきます。

制憲議会発足後のベネズエラ政府の動きは速かった。8月に制憲議会が発足すると、1日もたたないうちに、政権に批判的だったルイサ・オルテガ検事総長を罷免し、マドゥロと近い人間を後任に充てた。オルテガは後に亡命し、「マドゥロや政権幹部が大規模な汚職に関わっており、自身を守るために憲法や法を侵害した」と海外に訴えたが、後の祭りだった。 次に、制憲議会は野党が多数派の国会から立法権などの権限を剝奪したと宣言。野党を無力化した。司法、行政に続き立法まで大統領が手中に収めることで、事実上の独裁体制を築いたかたちだ。

一つだけ断言できるとすれば、与野党が団結するという奇跡が起きない限り、アルゼンチンの経済的・政治的な混乱は今後も続くだろう。残念なことに、国難にも関わらず、アルゼンチンの政党や国民には、心を一つにして難局を乗り切るという発想はない。財政問題や通貨安、1次産品に依存した産業構造や貧富の格差など問題点は多岐にわたり、これらの解決は4年では不可能なことは明らかだ。しかし、大統領選と議会選という2年ごとの選挙でせわしなく民意を問われる環境では、腰を据えた改革は難しい。民主主義が機能している現状、アルゼンチンがベネズエラのようになるとは思わないが、かつてのように大国として復活する将来は想像しにくい。

多民族の移民国家にも関わらず、ブラジルという国の中枢は白人が占有し、仲間同士で利権を分け合う構造は長く続いた。リオでは、学費が年間数百万円かかるようなインターナショナルスクールの徒歩圏内に月10000円以下で暮らす貧困層が暮らす。もちろん、富裕層の利用するような設備にはガードマンが立っており、ファベーラの住民が近づくことはない。同じ言葉を喋り、同じ文化を持つ国民でありながら、住む場所が数百メートル異なるだけで片や贅を尽くした生活を送り、片やインフラも整っていないような場所での生活を強いられ、互いが交わることがないという現実こそが、ブラジルの歴史の産物だ。

ボリビアから学べることは多い。歴史的に右派と左派と言うイデオロギー的な対立軸が生じやすい南米では、左派政権が分配策を採ると「共産主義者」といったレッテルを貼られ、対立の軸になりがちだ。企業や投資家、メディアも交えて、左派が政権を握ると経済が崩壊すると騒ぎ立てることも少なくない。しかし、低所得者の底上げは不平等を減らすことにつながり、民主主義の安定的な運営には不可欠だ。富裕層への増税は国連のグテレス事務総長も賛同しているもので、富の偏在を是正するという観点では合理的だ。ベネズエラのような野放図なばらまきは論外ではあるが、市場との対話を通じながら、インフラ整備や現金給付で低所得者の所得を底上げしつつ、教育機会の提供で機会の平等を実現していくというボリビア政府の路線自体は決して否定されるものではない。

新しいフレームワーク「「価値」こそがすべて!」

ハーバード・ビジネス・スクール教授フェリックス・オーバーホルツァージーが提唱する「バリューベース戦略」を解説した作品。非常にシンプルですが、フレームワークとして使うとよさそうなので、メルカリでも一度考えてみたいと思います。

Amazonにもある簡単な説明は以下の通りです

■ WTP(Willingness to pay、支払意思額)

バリュースティックの上限に位置します。これは、 顧客の視点を表しています。具体的には、顧客が製品やサービスに対して支払うであろう上限額のことです。企業が製品を改善すれば、WTPは上昇します。

■WTS(Willingness to sell、売却意思額)

バリュースティックの下限に位置し、従業員とサプライヤーに言及したものです。従業員にとって、 WTSはジョブオファーを受け入れるために必要な最低限の報酬のことです。企業が仕事をより魅力的 なものにすることができれば、WTSは下がります。逆に、仕事が特に危険な場合は、WTSは上昇し、従業員はより多くの報酬を必要とします。

WTPWTSの差、つまりバリュースティックの長さが、企業の生み出す価値になります。ある調査によると、優れた財務パフォーマンス(企業の資本コストを超えるリターン)は、より大きな価値を創造することができるかどうかに依存していることが示されています。そして、付加価値を創出する方法は、WTPを高めるか、WTSを低くするかの2つしかありません

とりうるオプションを、WTPを高めるのか、WTSを下げるのかを定量的に検討し、戦略に落とし込むことができます。本書には、それぞれの事例が豊富に取り上げられており読みやすく勉強になりました。

メルカリは「新たな価値を生みだす」マーケットプレイスでもあるため、「価値」について議論することも多いですが、事業展開の可能性を価値で捉え直す、というのはすごくよいのではと思っています。

リアリティがすごい「黒い海 船は突然、深海へ消えた」

突然沈み多数の死者を出した海難事件の真相に迫ろうとするドキュメント。不可思議な状況に気づいたジャーナリストである著者が、様々な取材をしていくのですが、調査した委員会や理事所、政府関係者などとの一問一答が迫真で非常にエキサイティングです。誰がどこまで知っているのか、あるいは知らないのか、政府の圧力や、諸外国との外交への配慮などあるのか、などを少しづつ明らかにしています。そして明らかにならないこともあり、リアリティがすごい。すごくリアルな良質なドキュメントでした。

第 58 寿和丸の事故は覚えていないと言い続けた喜多は、取材の後半、船底に穴があいて沈んだ可能性が高いと言い切った。 「覚えていない」と言い張る喜多は、本当は第 58 寿和丸の事故をよく記憶しているのではないかと思った。理事所の所長だったとき、船底損傷を疑い、潜水調査の可能性を検討したことも忘れていないだろう、と。しかし、理事所の所長として仕切った事故調査の話をすれば、守秘義務に抵触しかねない。そのため、この事故を知らない体で「個人的な見解」として語ろうとしてくれているのかもしれない。

第 58 寿和丸の取材に着手した当初、私は、運輸安全委員会は何らかの真実を隠すために潜水調査を拒み、強引な報告書を作成したのではないかとの疑念を持っていた。それはある意味、買いかぶり過ぎだったのかもしれない。実際にはリソースが限られるなかで、「教訓を残す」という役割を外形的に整える仕事をこなしただけのように思えた。

万が一に備える「負けへんで!」

上場企業の創業社長が、検察に突然逮捕され、裁判となり、数年後に無罪として勝訴する。そんなことがこの日本であるのかと思いましたが、実際200日以上も過酷な環境で勾留され、取り調べをされ、創業して成長を続けていた上場会社を最大のライバルに売却せざるを得ず、1%も勝ち目もないと言われる検察との裁判を闘う、壮絶なストーリー。

拘置所の中で、検事や弁護士、裁判官、社員、家族などと限られた情報の中で精神的にも肉体的にも追い詰められ疑心暗鬼になりながら、少しづつ活路を見出して、勝訴にいたる様が克明に描かれており、非常に貴重なドキュメンタリーとなっています。

もちろん本書は著者側からの視点であり、検察側からの見方もいろいろとあるのでしょうけれども、、この日本でどういうことが起こりうるかを知っておくだけでも、万が一の備えとなるので、読んでおきたい一冊です、起業家に限らず。

抜粋コメントを少しだけ

前年 12 月 16 日に逮捕されてから、半年弱である。その間、わたしは狭い三畳一間の部屋に閉じ込められ、どこにも行けず、やりたいこともできず、好きなものも食べられず、一日の行動を逐一管理されて過ごしている。  就寝の時間も起床の時間も風呂の時間も運動の時間も食事の時間も、自分では決められない。テレビも見られない。電話もメールもできない。会いたい人と会うことができない、話したい人と話すことができない。  家族と会えるのは平日1日あたり 10 ~ 20 分だけで、しかも必ず刑務官が立ち会っている。  拘置所の中で過ごしているこの1分1秒がすべてストレスなのである。

逮捕されるとこういった状態になると

「山岸さん、こらえてください。無罪をとるには向こうが押収したものを全部見ないとダメなんです」 「でも、それが終わらないと保釈される可能性はないんでしょ。そんなん理不尽ですやん。どうしてこんな理不尽なことになるんですか? なんでこんな目に遭わなアカンのですか?」  弁護人は下を向いたまま答えない。  長期間にわたって監禁生活を送り、何度も保釈請求して拒まれることが続くと、冷静な判断力はどんどん失われていってしまう。

弁護団の先生方は、わたしの置かれている状況がいかに理不尽であるか心の底からわかった上で、誤った有罪判決が出ればもっと理不尽なことになると考えて、必死になってくれていた。  でも、このときのわたしにとっては、いつ終わるかもわからないブツ読みが完了するのを待てという弁護人のアドバイスこそが理不尽に感じられた。

なかなか正常な判断が難しくなってしまうようです。著者はすごく強い方だと思います

日本の強みと弱み「エンタメビジネス全史」

全史というにふさわしく、まさに日本のエンタメを網羅的にカバーしていて、非常に勉強になりましたし、大変おもしろかったです。

エンタメ/コンテンツ/遊びは元来、子供向けのものではない。エンタメは「大人」こそが熱狂してきた領域で、実は「子供」が消費者として対象になっていったのは、日本では大正時代、欧州や北米でも 20 世紀に入ってからの話である。大人が興じてきた遊びが、思考のトレーニングや社会の予行演習になる、もしくは子供向けだからこそ消費・市場が伸びるということで、あとから子供向けに作り替えられたのである。

そもそも子供に教育を与えて、社会全体の生産性を高めようという発想自体が近代に入ってからのものであり、それ以前は子供といえども労働力でしかなく、〝未熟な大人〟として数えられるような時代が一般的であった。子供が労働力であった時代は、彼らは遊びも教育も与えるべき対象ではなかった。

そもそもエンタメ/コンテンツ/遊びというのは大人のためだった、というのは慧眼でした。余裕があるのは大人であって、子どもは昔は不完全な労働力であったと。

日本のエンタメは独特の発展をしてきており、国内では一定のシェアを保っています。これは実は世界的に観ると非常に珍しく、音楽や映画では90%以上外国製という国の方が多いです。また、オリジナリティが高いためにポケモンをはじめとして海外でも強いIPがたくさんあります。ただ、スポーツのように圧倒的な差をつけられてしまったものもあり、何がその辺りの差になっているのか、コンテンツの性質や海外事例を含めて書いてあり、大変勉強になりました。

メルカリも鹿島アントラーズというスポーツビジネスをしているので、こういった状況を勘案しながら、勝利する・タイトルを穫るということはもちろん、ビジネスとしてもまだまだ拡大させていきたいなと思いました。

考え方を変える「人生後半の戦略書」

私も45歳ということで人生後半と言えるのだろうと思いますが、後半に向けて考え方を変えていかないといけない、というのはとてもよいコンセプトだなと思いました。

人生後半で、諦めないといけないことを諦めることでより満足感のある、後悔のない人生を送ることができる、というある意味受け入れがたいが受け入れなければならないことを様々な角度から指摘してくれます。

割と冗長で宗教など主観的な内容も多く、すごくまとまっているわけではないのですが、ところどころで考えさせられることが多かったです。まぁ人生のことなので人によって違いすぎることでもあるのでやむなしかと思います。

抜粋コメントします。

たとえば、高齢者は単語作成を競う「スクラブル」が得意だし、外国語の習得も上々です(アクセントを完璧にするのは苦手でも、語彙の増強、文法の理解に 長けています)。高齢者に見られるこうした特徴は、研究により裏づけられています。母国語であれ外国語であれ、死ぬまでずっと、語彙力は落ちずに伸びていくのです

また、複雑なアイデアを組み合わせて活用する能力は高齢者のほうが高いことに気づく人もいるかもしれません。言い換えれば、高齢者は、若い頃のような画期的な発案や、素早い問題解決はできないかもしれませんが、既知の概念を使ったり、既知の概念を他者に表現したりするのは相当うまくなっています。

いきなりではありますが、よい部分もあると。外国語の習得、については個人的に苦労しているところで一定レベル以上は逆に大変なのではと思ってますが。。

1つ目の知能が、「 流動性知能」です。キャッテルの定義では、推論力、柔軟な思考力、目新しい問題の解決力を指します。一般的に、生得的な頭の良さと考えられている知能で、読解力や数学的能力と関連があることが研究で明らかになっています。革新的なアイデアや製品を生み出す人は、概して流動性知能が豊かです。知能テストを専門としていたキャッテルの観察では、流動性知能は成人期初期にピークに達し、 30 代から 40 代に急速に低下しはじめました。

いずれ流動性知能の落ち込みに見舞われることは、まず確実です。しかし、 革新 中心のキャリアから、 指導 中心のキャリアへとキャリアを年々再設計する能力は失われませんから、加齢による強みを発揮することは可能です。

一方で低下する能力もあります。

それなのに、なぜ人は懲りもせず同じ試みを繰り返すのでしょう? 理由は2つあります。第1に、第1の曲線は自然と下降していくものだという認識がありません。自分の調子が悪いんだと思っています。第2に、別の種類の成功に通じるもう1つの曲線が存在することを知りません。

人生の後半は、知恵で他者に奉仕しましょう。あなたが最も重要だと思うことを分かち合いながら歳を重ねるのです。何かに秀でているということは、それだけで素晴らしいことなのだから、それ以上の見返りは不要です。そう思って生きていけば、歳を経るほど最高に秀でた存在になれるのです。

役割を変えていく、ということが重要である、ということです。

幸福になりたいなら、「なんとしても幸福になりたい」、「世間から見た自分の特別度が多少下がることを受け入れて、自己モノ化をやめたい」と正直に宣言しなくてはいけません。「肩の荷を下ろしたい」という願望をはっきり口にするのです。そのために必要なのはプライドではなく、その対極にある謙虚さです。

人よりキャリアを優先する人生から、私を解放してください。  仕事にかまけて人生をないがしろにする行為から、私を解放してください。  他者より優位に立ちたいという欲望から、私を解放してください。  世間の空虚な約束に 惹かれる心から、私を解放してください。  職業上の優越感から、私を解放してください。  愛よりプライドを取る心から、私を解放してください。  依存から離脱する苦痛から、私を解放してください。  落ち込み忘れられる恐怖から、私を解放してください。

今まで大事にしていた価値観、例えば仕事上の成功、などから自分を解放する必要があると。むしろ弱さを認めることが重要なのだと言いますが、これは本当に同感です。

さんざん考えて伝えた答えは、「誠実、思いやり、信頼」でした。その3つを身につければ、息子が可能な限り最良の人間になれると感じたのです。  それをきっかけに、大切な人たちに手に入れてもらいたいことを3つずつ書き出し、こう問いかけることにしました。私は今書き出したものに投資しているだろうか? 私の時間、エネルギー、愛情、技能、お金を、こうした長所や資質を伸ばすために注いでいるか? 私自身の行動で模範を示しているか? 新しい投資戦略が必要か?

子育てに対して大切なことを何かを考えるというのはよさそう。

人生の次の段階で……  

続ける活動は何?  進化させやり方を変える活動は?  やめる活動は?  新しく学ぶ活動は?

次の段階を始めるために……

新しい自分に進化するために、来週何をする?  来月何をする?  6カ月以内に何をする?  1年後、それらの行動の結果として表れる最初の成果は何?

さまざまな問いかけがあり、まったくすぐに答えが出せるわけでもなく、かつそれも変わっていくものだと思いますが、いろいろ考えていくためのきっかけとしてすごく有用なリストかなと思います。

荒削りなコンセプト「欲望の見つけ方」

ひとの欲望が模倣から来ている、というのはすごくおもしろい考え方で思い当たる節もたくさんあります。一方で、それはそれとして内在的な欲望というか、ひとりひとりやりたいこと、欲しいものというのもあるし、他人に影響を受けつつも自分を見つけていくというのがそこまで悪いことでもないと個人的には思っています。

その後、奇妙なことが起きた。自分が設立した会社から去るとき、解放感を味わったのだ。  そのとき自分は 何もわかっていなかった ことに気づいた。それまでの成功は失敗だったように感じ、失敗のほうが成功であるように感じた。飽くことも満足することもない奮闘の裏には、どんな力が働いていたのだろう

著者が、成功したいと望み始めたビジネスがうまくいかなかったときにそこから解放された、欲望に左右されていたのは模倣によるものだった、と言っていますが、一時期の解放感についてのみで、著者があまり欲望から解放されたようには見えませんでした。

信じがたい真実は偽りよりも危険であることが多い。この場合の偽りとは、私は物事を誰の影響も受けずに自力で欲している、私が何を望み、何を望まないかは私が決めていると思うことだ。真実はこうだ。私の欲望は他者の媒介によって誘導されたもので、欲望の生態系は自分が理解できる規模を超えており、自分はその一部である。

危険なのは、モデルの存在を認識しないことだ。その場合、私たちは簡単にモデルと不健全な関係に陥ってしまう。モデルは巨大な影響力を発揮しはじめる。私たちは無意識のうちにモデルに執着しがちだ。モデルというのは、多くの場合、秘密の偶像なのである。

確かに自分の欲望についてはどこから来ているのか分からないものもありますし、それはモデルへの模倣なのかもしれません。ただ、自分が価値があるというものを探していく、やっていくというのもまた個別の人生だとも思うので、欲望(模倣)に支配されているという考え方自体が二元論的なのではとも思いました。

私たちはポケットにスロットマシンを入れているから危ないのではない。ポケットにドリームマシンを入れているから危ないのだ。スマートフォンは何十億人もの欲望を、ソーシャルメディア、グーグル検索、レストランやホテルのレビューを通じて映しだしている。スマートフォンに対する神経系中毒は本物だ。しかし、スマートフォンが自由にアクセスできるようにした他者の欲望への執着は、形而上的な脅威である。 模倣の欲望はソーシャルメディアの真の原動力だ。

一方で、確かに現代が欲望を駆り立てるような構造がある、そういったビジネスが成功している、というのもそうだと思うので、そういったことに意識的になるのはすごく重要かなと思います。

全体として、新しいコンセプトを示していて勉強になりました。一読の価値のある作品だと思います。

北海道の新ボールパークのドキュメンタリー「アンビシャス」

北海道に新しくできた北海道日本ハムファイターズのボールパーク「エスコンフィールドHOKKAIDO」が話題になっていますが、その球場移転を巡るドキュメンタリー。もともとファイターズは札幌市の札幌ドームを拠点にしていたわけですが、市の施設であり他との共同利用ということもあり、なかなかやりたいことができない状況にありました。

これによって札幌ドームはサッカーと野球、両方のプロ球団が本拠地とする国内唯一のスタジアムとなった。サッカーの開催前になると、屋外で養生されていた天然芝のステージをドーム内に移動させる。その作業には十時間以上を要するため野球用の人工芝は迅速に撤去できる巻き取り式でなくてはならず、他の球場に比べて極端に薄かった。ファイターズの選手たちが悲鳴を上げたのはそのクッション性の低さのためだった。

球団は毎年、球場使用料として約一三億円を支払っていた。札幌ドーム側はファイターズが本拠地とすることで使用料とグッズや飲食店販売収入の一部などを合わせて年間およそ二〇億円の収入があり、その総額はファイターズの選手総年俸に迫るものであった。また顧客サービスのためハード面を改善しようにも、あらゆることにドーム側の許可がなければ実現しなかった。球団に与えられた裁量権は極端に少なく、現場で戦うチーム内にも、前沢たち事業部員の間にもフラストレーションは募っていった。

そのため移転先を進めていくわけですが、当然札幌市も移転して欲しくはないですし(新規場所の提案も)、日本ハム本社も300億以上に及ぶ投資をどう考えるかにはいろいろな意見もあるしで、役人や周辺住民も含めて様々な思惑が交錯する非常に難しいプロジェクトになっていきます。それらを重層的に描いていますが、軽やかなタッチで非常に読みやすく一気に読めました。

信念を持ってつくられたボールパークは試合が見える部屋のあるホテルなど周辺施設も含めたボールパークについては評判は上々のようです。アクセスや観客動員などは批判もあるようですが。。私もぜひ遊びに行ってみたいなと思っています。

人生への考え方を変えるコンセプト「DIE WITH ZERO」

実は2年前に読んだのですが、その時はおもしろいなと思ったものの書評にしませんでした。しかし、その後「DIE WITH ZERO」すなわち「ゼロで死ね」という言葉をよく使うようになりました。そして、それを聞いた友だちが読んで感銘を受けた、という話もよく聞くようになりました。影響力が非常に大きいので、改めて読み返してみました。

その名の通り、お金を使い切って「ゼロで死ね」ということを提唱しています。多くのひとはお金を貯めるためにがんばりすぎている、もっと早くから自分のやりたいことにお金を使うべきだし、仕事も早くリタイアして健康なうちに楽しむべき、そして最後に資産がゼロになって死ぬことが望ましい、という主張です。

死は人を目覚めさせる。死が近づいて初めて、私たちは我に返る。先が長くないと知り、ようやく考え始めるのだ。 自分は今までいったい何をしていたのだろう? これ以上、先延ばしをせずに、今すぐ、本当にやりたいこと、大切なことをすべきだ、と。 ふだん私たちは、まるで世界が永遠に続くかのような感覚で生きている。

人生はテレビゲームとは違って、果てしなく高スコアを目指せばいいわけではない。 にもかかわらず、そんなふうに生きている人は多い。 得た富を最大限に活かす方法を真剣に考えず、ただひたすらにもっと稼ごうとし、自分や愛する配偶者、子ども、友人、世の中に、 今、何ができるかを考えることから目を背けている。

老後のお金の心配も分かるが、そのための保険もあるし、そもそも病院でチューブに繋がれて数日だか数十日長生きするために何千万も取っておくことに意味はない、と説きます。

また、子どもにお金を残したい、という意見にも、多くのひとが50代になって遺産を受け継ぐが、共通して、子育てに忙しく、健康であった若い頃(30歳前後)にそのお金があればよかったのに、と思っている、と言います。

譲り受けた財産から価値や喜びを引き出す能力は、年齢とともに低下する。 金を楽しい経験に変えるあなたの能力が、老化とともに衰えていくのと同じだ。何かを楽しむには最低限の健康が必要になる。 その能力のピークが、気力と体力が充実している 30 歳だと仮定すれば、 50 歳では同じ価値を引き出せなくなる。あるいは、 30 歳のときに1ドルから引き出せた価値を得るのに、もっと多くの金(たとえば 1.5 ドル) が必要になる。 つまり、子どもが一定の年齢を過ぎると(あなたが財産を分け与えるのが遅くなるほど)、分け与えられた財産の価値は落ちていくことになるのだ。

確かに言われればその通り、ということばかりなのです。なぜこういうことが起こるかというと、老いというのは毎日実感するものではないため、いつまでも若い頃と同じことができると思ってしまうからだと言います。

クリスのような人は、自分の体力がどれほど落ちているかに気づかずに、若き栄光の日々を生き続けている。だが実際は、元水泳コーチであったにもかかわらず、もう 30 メートルも泳げなくなっていた。 こんなふうに、昔の感覚を引きずり、今の自分の体力をうまく把握できていない人は多い。 その感覚のズレが、老後もいくつになっても若い頃と同じようなことができるという思い込みにつながっている。

老衰し、身体を動かすこともできず、チューブで栄養をとり、排泄も自力ではできない。そんな状態では、人はそれまでの人生の経験を思い出すこと以外ほとんど何もできない。プライベートジェットを自由に使えたとしても、もうどこにも行けないだろう。貯金が100万ドルあっても、 10 億ドルあっても、残された人生でその金を使ってできることはほとんどない。 また、旅行に行くことを考えてもよくわかる。旅行を楽しむには、時間と金、そして何よりも健康が必要だ。 80 歳の人は、体力面を考えると、あまり遠くには出かけられない。長時間のフライトや空港での乗り継ぎ、不規則な睡眠など、旅にはストレスがつきものである。年を取って体力が落ちると、こうした旅のストレスへの対処が難しくなってくる。

僕も40くらいから、今の瞬間の経験値を最大限にするために何ができるかを真剣に考えるようになりました。お金で解決できることは解決するようになったし、消費だけでなくて今の世界に資することであれば寄付のような使うことにも、より積極的になりました。

稼ぐことについては、非常に幸運なことに今の仕事が大好きなので、辞めることはないですが、ワークライフバランスはより考えるようになったと思います(もともと長時間労働するタイプでもなかったですが)。またいつか死ぬ、辞めることも意識して、会社を永続的に発展していけるような仕組みにしていこうとしています。

それから、なんといっても健康が重要、ということで、健康への投資(筋トレなど)もするようになりました。

このように考えると、「DIE WITH ZERO」というコンセプトには人生への考え方として非常に同意できるし、実際影響も大きかったなと思っています。内容は荒削りな部分もありますが、すべてのひとにオススメできる一冊です。

海外事例から学ぶ「取締役会の仕事」

コーポレート・ガバナンスに知見のあるコンサルタントや大学で教鞭をとる著者たちが、米国中心に先進的なモニタリング型の取締役会の豊富な事例を紹介しています。また、様々なチェックリストなどもあり、非常に有用です。

内容は若干冗長なところもありますが、逆に様々な事例が紹介されているので、モニタリング型の取締役会のイメージがかなりクリアになりました。ただ、成功事例・失敗事例は片面からの見方ではあると思うし、実際のところは運も含めて、様々な要素が絡み合うものだろうなと思います。

メルカリには、永続的に成長していける会社になって欲しいので、洗練されたコーポレート・ガバナンスを志向しています。2年前に取締役会を監督と執行に分けて、社外取締役多数により監督をし、上級執行役員会で執行をする体制にアップデートしました。そして、取締役会で(攻めとして)大上段の戦略やロードマップの議論、逆に守りとしての各種リスクの議論をできるように、アジェンダ設定を試行錯誤してきました。最初はなかなかうまく行かないなと思うこともありましたが、今は徐々に仕組み化も進んできたと思います。

まだ全然発展途上ですが、本書も踏まえて、少しづつ前進していきたいと思います。

以下、参考になった部分を抜粋コメントします。

<抜粋・コメント>

こうした現状を踏まえれば、ここで取締役会のリーダーシップをより正確に定義すべきだろう。これまでの会社にはCEO、会長、筆頭取締役、主宰取締役など、あいまいで統一性のない組み合わせのまま役職が混在していたが、わたしたちはシンプルに、経営のトップを会長兼CEO、取締役のトップをボードリーダーとすることを提案する。

CEOを執行、取締役代表者(ボードリーダー)を監督として、定義することを勧めています。

同時に、ボードリーダーは取締役と経営幹部の間に引かれている暗黙の境界線を尊重しなければならない。「取締役会が経営陣の前でCEOの権限を奪うようなことがあってはならない」のである。「気軽に質問をして、必要な情報を得ることは大事だが、経営陣に指示をしてはいけない。それはCEOの仕事だから」。取締役が経営陣に不安を抱いているときには、CEOと内々で議論を深められるように筆頭取締役がお膳立てすべきだ、とヒルはアドバイスする。

経験者たちの話をまとめると、ボードリーダーの責務は文書化することが望ましく、その際には少なくとも、エグゼクティブ・セッションで議長を務めることと、取締役会と各取締役の評価を年に一度主宰することを含め、さらに、CEOと協力しながら株主やステークホルダーに必要な情報を伝えたり、各委員会の委員長を任命し、各委員長との協力体制をつくるという任務も明記すべきだという。取締役と経営陣の良好な関係づくりや、CEOとボードリーダーの後継者の育成も忘れてはいけない。話をしてくれたボードリーダーが口をそろえて強調したのが、CEOやほかの取締役との信頼関係や協力体制の必要性だった。取締役会の議論を、基本理念と価値創造に集中させるためには、こうした要素が欠かせないという。また、相互評価などにより機能していないとみなされた取締役に対して個人的に働きかけたり、場合によっては解任するために動かなければならないという点を強調する人もいた。

委員会憲章  ほとんどの会社は、各委員会が責任を持つ項目をあらかじめ定めている。委員会の勧告には取締役全員の承認を必要とするものも多いが、実際の決定はおおむね委員会のなかで行われる。たとえば、ヘルスサウスの報酬委員会の憲章には、取締役が外部の報酬コンサルタントを選任することと、報酬プラン、株式報奨、経営幹部の雇用契約をレビューすることが定められている。

それぞれのひとや機関に対して、「責務」「行動規則」「委員会憲章」などを作ることを勧めています。

そこには次のような質問が並んでいて、自分以外の取締役の欄に回答を記入していくのだ。
1 取締役会に役立つスキルや経験を提供しているか。
2 準備したうえで取締役会に臨んでいるか。
3 基本理念と企業戦略を理解しているか。
4 有益な質問をしているか。
5 事業の展開に役立っているか。
6 議論を前に推し進めているか。
7 取締役同士の関係や、取締役と経営幹部の関係が良好なものになるように努めているか。
 問題ありと評価された項目がある場合、ボードリーダーは行動に出るべきである。一例として、テクノロジー関連の上場企業の取締役会が2012年に実際に使用したものを巻末(付録B)に載せておく。

これは取締役の相互評価についてですが、こういったチェックリストを数多く掲載してくれているのは大変ありがたいです。

CEOには、過度な干渉を避けながら取締役と協働する方法を、ほかの経営幹部に指導するという役割もある。あるバイオテクノロジー会社のCEOは、取締役の質問に答えるときには、無関係な質問を呼び起こすような答え方をすべきではないと経営幹部に注意を促している。取締役の信頼を得ることは重要だが、取締役会は、細かい項目を不必要に掘り下げて自己アピールする場ではない。ボードメンバーは「与えれば何でも食いつく」ので、議論を脱線させることがないように、取締役会に提供する情報は慎重に選ばなければならない。さらに、このCEOは、適切な対応を事前に知っておいてほしいという考えから、新しい取締役には、会議ではどの程度の深さの議論が求められるかといったことについてオリエンテーションを行っている。

メルカリでも以前は取締役会の資料と経営会議の資料が同じものを流用していましたが、今はより上段の議論をするためにイチから作り直すこと。また参考資料の添付は細かくなりすぎるので、できるだけ議題の中に含めるようにしています。

第一に要件、第二に能力  おそらく自然な流れなのだろうが、多くの取締役会はCEOを探すとき、まず候補者の能力に注目してからリーダーシップの要件を考える。しかし、望ましい手順はその逆で、まずリーダーシップの要件を考え、それから候補者の能力を検討すべきなのだ。

2012年も終わりに近づくころ、取締役会はもう一度CEOの要件を見直し、最終候補者がそれらを満たすかどうか検討した。候補者は定期的に取締役会に出席していたが、彼らにはあらためて次回の取締役会で発表してもらいたいテーマを指示した。内容は次のようなものだった。
●会社の戦略をどのように修正するか。
●市場の変化や社会からの期待といったさまざまな要素のなかで、会社にもっと大きな影響を与えるのは何か。
●株主価値をどのように増大させるか。
●意思決定過程を効率化するために誰をスカウトするか。

CEOの指名については、まずは要件を決めることが重要といい、具体的な事例も紹介してくれています。

P.S.「決定版 これがガバナンス経営だ!」も大変オススメです。

一般常識とは異なる効果「ソーシャルメディア・プリズム」

デューク大学社会学および公共政策教授クリス・ベイル氏が、一般的にソーシャルメディアで言われているエコーチェンバー効果に対して、対立意見に触れられるようにすることでお互いの理解が進む、というような常識を否定し、むしろ逆に強化されるという「ソーシャルメディア・プリズム」を提唱しています。

ここで少々立ち止まり、人が自身のエコーチェンバーから出ると一般的にはどうなると言われているかを思い出そう。まず、対立見解と向き合うことで内省が促される。また、どのような話にも二面性があることに気づくようになる。考えのより良い競争が生まれるし、私たちが互いを教化するのを促したり、仲間割れする要素よりもひとつにまとまる要素のほうが多いと気づかせたりする。やがて、こうした経験を経て誰もがより穏健でより見識の広い市民になり、持論を考える際には幅広い証拠を考慮するという務めを律義に果たすようになる。なかには、こうした経験を経て、相手方の合理的な主張を指摘しつつ自分の側の過激主義者を批判するようにさえなる、と考える向きもある。

ソーシャルメディアをきわめて理想化したこのビジョンは、今となっては異様に思えるかもしれない。だが、こうした予言を突き動かしていた論理──人をつなげるのがもっと簡単になれば民主主義はより効果的に機能する──はテクノロジー業界をリードする大勢を今なお突き動かしている。たとえば報道によると、フェイスブックのCEOのマーク・ザッカーバーグは、フェイスブックユーザーは何をフェイクニュースと見なすべきかを的確に熟慮できると信じている。フェイクニュースという言葉そのものが政争の具となっているのにだ( 13)。同様に、ツイッターのCEOのジャック・ドーシーは、ツイッターのアルゴリズムを微調整してユーザーがもっと多様な見解に触れるようにすることを検討してきた。そうすることで穏健化が進むと考えているからである

ソーシャルメディア・プリズムによって、社会的ステータスを求める過激主義者は勢いづき、ソーシャルメディアで政治を議論しても得るものはないに等しいと考える穏健派は〝ミュート〟され、私たちの大半は反対派を深く疑うようになる。そして、ともすると分極化そのものの広がりについても疑うようになるのだ。

つまり、反対派の過激主義な発言に触れることで、逆に同じ意見がプリズムのように強化されると。かつ穏健なひとたちは双方の過激派にコメント(攻撃)されるのを嫌がり発言を控えることで、ソーシャルメディア上から存在しなくなってしまう、という効果もあると言います。

そもそもソーシャルメディアになぜハマるのか、という点も、人間の性質として、アイデンティティを出して試しては反応をうかがい、自己認識を更新していく、ということが非常にスピーディーに行えるから、としています。

私たちがソーシャルメディアにやみつきなのは、目を引く派手なコンテンツが表示されたり気を散らすコンテンツが延々と流れたりするからではなく、私たち人間に生得的な行動、すなわち、さまざまなバージョンの自己を呈示しては、他人がどう思うかをうかがい、それに応じてアイデンティティーを手直しするという行動を手助けしてくれるから

本書で言われている内容は、直感に反するものも多く、常識や今までの取り組みの多くを否定するものですが、様々な調査結果から裏付けられているとしています。さらに、それではどうすればよいか、という野心的な提案もされています。

想像してみよう。ステータスをより高貴な目的に結び付けたプラットフォームを開発したらどうなるかを。政敵を見事やり込めたユーザーにではなく、どちらの党派にもアピールするコンテンツをつくったユーザーにステータスを与えるプラットフォームを。プラットフォームの目的をより明確に言語化すれば、それに基づく原則をシステム全体のアーキテクチャーに埋め込むことができる。そうして開発されたプラットフォームは、物議を醸したり軋轢を生んだりするコンテンツは増長させず、幅広いユーザーの心に一斉に響くメッセージのランクを上げることができる。すでに意見の同じ人のフォローはレコメンドせず、受容域の範囲内の人と接触させることができる。

偽りの分極化と闘うために、われわれが分極化研究所で開発してきたようなツールをあらかじめ用意するという手もあろう。たとえば「いいね」カウンターの代わりに、イデオロギー的尺度でどの辺りの人が自分の投稿に反応したかを青、赤、紫で示すメーターを用意するとか。人工知能を活かせば、粗野なコンテンツや偏見に満ちたコンテンツを投稿しようとしているユーザーに、自分の目的をよく考えるよう促すこと、あるいは相手方に訴える価値観でメッセージを言い換えるよう支援することができそうだ。 

定性的な調査も多く精査が必要ですし、提案は荒削りだとは思いますが、これからの社会や求められるサービスについて数多くの新しい示唆があり、非常に勉強になりました。インターネット・サービスをつくっていくひとたちには必読かなと思います。

ウェルチ後に何かあったか「GE帝国盛衰史」

GEと言えば、ジャック・ウェルチ。業界で1位か2位でない事業は撤退する「ナンバー1、2戦略」などで、GEを「最強企業」に育てあげた、というイメージがあります。本書では、毎年きっちり15%の利益成長を続けていたウェルチGEが、実はGEキャピタルにより利益の調整を行っていたことを暴露しています。また、ストレッチゴールを常に設定することで、現場が強い圧力を受け、忖度が横行していたことなども描かれています。とはいえ、ジャック・ウェルチは、20年で売上を5倍、時価総額を30倍にしたのも事実で、事業会社の信用力で金融のレバレッジを効かせるなどし、事業を伸ばした名経営者であったことも確かだろうと思います。

本書は主に、そのほころびが出始めたところで引き継いだジェフリー・イメルトが悪戦苦闘するドキュメンタリーとなっています。ひたすらに構造改革をするために、事業を売買。その過程でGEキャピタルを事実上売却・解体することで、利益調整のレバーを失ってしまいます。さらに、大きくDXに賭け、しかし失敗し、強いGEを取り戻すことはできず退任となります。その後のジョン・フラナリーも退任し、現在は外部招聘されたローレンス・カルプが経営を担っています。

このような大企業がどう経営されているのか、国際M&Aの交渉過程(政府が頻繁に登場)、ガバナンス、後継者選定、カルチャーなども非常に詳細に描かれており大変興味深かったです。

GEは人材輩出企業としても有名ですが、余裕のある経営から人材育成も産まれてくるのだなと思いましたし、優秀な人材がいたとしても、それを成果に繋げていくためには、戦略やカルチャーを状況に合わせて不断にアップデートしていく必要があると改めて再確認しました。

GEも繁栄を目指しましたが、様々な理由からうまくいかなかったために今の状況があります。個人的には、ダイナミックに変化しようとする姿勢は評価するべきだと思います。

著者はGE自体には否定的なスタンスのため、割り引いてみる必要がありそうです。もしうまく行っていれば、まったく違う評価になっていたでしょう。経営は成果でしか評価されない、このことを改めて肝に銘じました。

P.S.「NOKIA 復活の奇跡」などと合わせて読むとよいかもしれません。どちらも非常にスリリングで、読みやすくおもしろいです。

独創的なアイデア「脳は世界をどう見ているのか」

脳の仕組みについては実はよく分かっていませんが、そこに独創的なアイデアを提示する意欲作です。著者は、なんとパーム・パイロット(90年代の携帯情報端末)の創業者でもあるジェフ・ホーキンス。その売却資金を元に研究所を立ち上げて、現在はUCバークレーに移管して研究を続けている鬼才です。

説明するのが難しいのですが、、、

・大脳新皮質にある皮質コラムが、様々な入力デバイス(視力、触覚など)からの入力をモデル化したものを記録する
・何か新しい入力があったときに、次の入力を皮質コラムが予測する
・そして違う入力があった場合には学習をして、新たにモデル化する
・これを絶え間なく繰り返しているのが人間の脳である(意識もそこから生まれる)

という感じでしょうか。ひとつの脳があるというよりは、大量の皮質コラムが予測と学習を繰り返すため、著者はこれを「1000の脳」理論と呼んでいます。

考えられる説明はひとつだけだった。私の脳、厳密には私の新皮質は、何を見たり聞いたり感じたりしようとしているか、同時に複数の予測を立てているのだ。私が眼を動かすたびに、新皮質はこれから何を見るのかを予測する。私が何かを手に取るたびに、新皮質は指が何を感じるはずかを予測する。そして私が行動を起こすたびに、何が聞こえるはずかを予測することになる。コーヒーカップの取っ手の手ざわりのようなごく小さい刺激も、カレンダーに示されるはずの正しい月のような包括的な概念も、脳は予測する。こうした予測は、低次の感覚特性のためにも高次の概念のためにも、あらゆる感覚様相で起こる。このことから、新皮質のあらゆる部位、ひいてはあらゆる皮質コラムが、予測をしていることがわかった。予測は新皮質の普遍的な機能なのだ。

そして、それは普遍的な機能であるから、何にでも適用できると。手を伸ばして何かをつかむといった物理的なものだけでなく、文章を読むとか、数学とか、民主主義とか、すべての概念も学習できる、というわけです。

脳はまず、私たちが世界を動きまわれるように、環境の構造を学ぶための座標系を進化させる、と断定した。次に、脳は同じメカニズムを使って、物体を認識して操ることができるように、その構造を学ぶように進化した。いま私が提案しているのは、脳はまたもや同じメカニズムを使って、数学や民主主義のような概念的対象の根底にある構造を学んで表現するように進化した、ということである。

概念は難しいのですが、順を追って分かりやすく説明されていますし、実体験の実感も強いので、すんなりと頭に入ってきます。後半では、その理論を使い、汎用AIは作れるのか? からAI脅威論、永遠に生きる脳、脳と機械の融合、長期的な人類の行末、など幅広い可能性について解説しています。

非常に刺激的な内容のため、消化に時間がかかりそうですが、この理論が正しいにせよ間違っているにせよ、非常に重要な考え方を示していると思われるため、大変おすすめな一冊です。

ソーシャルメディア徹底批判「フェイスブックの失墜」

Facebookの評判が悪いのは昔からではありますが、日本では現実の問題に落ちていないため、なぜそこまで批判されているのかが分かりづらいところがあります。ニューヨーク・タイムズの記者が400人以上の関係者にインタビューしたというこのドキュメンタリーを読むと、マーク・ザッカーバーグ(Facebook CEO)はどのような思想を持ってFacebookを運営しており、それによって引き起こっていること、それに対する批判が非常にクリアになります。一方で、著者がかなり批判的なため、よい側面はほとんど描かれていないことも留意する必要がありそうです。

実際、もし自分が経営者だったらと考えると、前代未聞のスピードで万人が使う巨大な社会インフラとなったソーシャルメディアで何が起こるか、何が正しいのか、というのは非常に難しい判断だったし、これからもそうあり続けるだろうとも思います。例えば、

情報操作問題の根源は、当然ながらテクノロジーにある。フェイスブックは、人の感情をかき立てるコンテンツがあれば、たとえそれが悪意に満ちたものであっても、その拡散に拍車をかけるよう設計されていた。アルゴリズムがセンセーショナルなものを好むのだ。ユーザーがリンクをクリックした理由が、興味を持ったからなのか、恐怖を感じたからか、積極的に関与しようとしているのかは重要でない。広く読まれている投稿があればより多くのユーザーのページに表示させるだけだ。

こういったユーザーのエンゲージメントを重視するが故に引き起こることはなかなか予想が難しかったとも思う一方で、本書ではそれを止めないのはザッカーバーグの(未熟な)思想が大きいとしていますが、それだけなのだろうかとも思います。株式市場からのプレッシャーや、もちろんテクニカルにも難しいというのもありそうですが。。

同じくモバイルアプリを運営している経営者として、どのようにすれば中長期的にひとの役に立つものを作れるのか、というのは一つの大きなテーマであり、改めて真摯に向かい続けて行きたいと身を引き締めました。長いですが、ストーリーはドラマチックで流れるように読めますし、インターネット・ビジネスに携わる方にはオススメな一冊です。

よい判断のために減らしたい「NOISE」

行動経済学の始祖でノーベル賞学者ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」の続編ともいうべき新作。

世の中のひとの判断にはノイズが非常に多いが、あまり気づかれていないとし、例えば、裁判官の量刑、保険会社の見積りや支払い、医者の判断、会社における採用や評価などが、とりあげられ容赦のない事実に打ちのめされそうになります。

一方でノイズの分類からはじまって、それではどうすればよいか、を様々な実例や研究とともに解説しています。しかしノイズを減らすために一番大きな障害となるものは、自分は正しい判断をしているというひとの思い込みと、それを補正するであろうAIなどへの心理的な抵抗になります。誰もがコンピューターや簡単なチェックリストの方が自分の判断よりも優れていると認めることが難しいからです。

しかし、本書による深刻なノイズの影響を考えれば、どうノイズを減らしていくかは正しく誰にとっても公平な判断をするために極めて重要であることが分かりますし、なんとかこの考え方を自分や会社に取り入れられないかをと考えることになります。私も本書を元に、採用や評価から、戦略や重要な意思決定などを改善できないか考えていきたいと思います。

※前著「ファスト&スロー」について個人的メモとしてもレビューが残っていないですが、ヒューリスティックやバイアスの話、システム1、2のような意思決定の違いはその後の様々な本にも引用されており、なんとなく覚えています。が、再読した方がよいかなと思ってます

以下、印象に残った部分を抜粋コメントします。

いまのところ機械学習モデルの予測精度は、同じ予測変数を使った線形モデルよりはるかに高い。その理由はなかなか意味深長だ。「機械学習アルゴリズムは、他のモデルが見落としてしまうような変数の組み合わせの中に重要なシグナルを見つける」からだという( 16)。アルゴリズムのパターン認識能力、それも他の方法ではあっさり見逃してしまうようなパターンを発見する能力がとくに際立つのは、ハイリスクの被告の場合である。つまり、データに隠れているある種のきわめて稀なパターンがハイリスクと強く相関しており、アルゴリズムはそれを発見できるわけだ。

AIをどう使うかが極めて重要になってくるという話

無知の否定は、ミールらを悩ませた謎、すなわちミールの指摘はなぜ無視されたのか、意思決定者はなぜ自分の直感に頼りたがるのかという謎への一つの答えだと言えるだろう。意思決定者が自分の直感の声を聞くとき、それは内なるシグナルを聞いているのであり、そのシグナルから満足感や達成感というご褒美をもらっている。「よい判断をした」、「これでよし」と囁く内なるシグナルは自信を与えてくれる。「どうしてかわからないがとにかく自分にはわかっている」という自信である。だが彼らが持ち合わせている情報や証拠を客観的に評価すれば、それほどの自信を正当化できるほどの予測精度に達することはまず不可能だ。  しかし、満足感や達成感というご褒美を諦めるのは容易ではない。直感的判断に頼りたくなるのは状況が非常に不確実なときだとエグゼクティブ自身が認めている( 8)。事実をいくら眺めてもまったく先が読めず、何かにすがりたいというとき、彼らは直感の声を聞いて自信を取り戻す。

私たちが世界を「理解する」やり方は、現実を絶えず因果論的に解釈することにほかならない。日々の暮らしの中で起きるさまざまなことを理解したと感じるのは、正常の谷の中でのべつ後知恵を連発していることの証である。この理解の感覚は、本質的に因果論的な性格のものだ。新しい出来事も、いったん起きてしまえばちがう結果になった可能性は消滅し、後知恵でひねり出した説明には不確実性の入り込む余地はほとんどない。後知恵に関する過去の研究によると、たとえ一時的に主観的な不確実性が存在しても、すっかり説明がつき解決されてしまえば、その記憶は消滅するという

なぜ直感に頼りたくなるのか。そして後知恵のパワーは非常に強いということ

すくなくとも原理的には、レベルノイズすなわち判断者間の全般的な傾向の差は単純で計測しやすく、比較的対処しやすい問題だと言える。桁外れに「厳しい」裁判官や「慎重すぎる」ケースマネジャーや「リスクに敏感すぎる」融資担当者がいたら、上司や組織がそれに気づき、判断を平均的な水準に近づけるよう何らかの手を打つことができる。たとえば大学の場合、評点の望ましい分布をあらかじめ定めておき、クラスごとにこれに近づけるよう教授に求めるといったことが考えられる。

レベルノイズに対応する方法はいろいろある

予測的判断でとりわけ有効なのは、複数の独立した判断を統合することだ。具体的には同じ問題について独立した複数の判断を得て集計し平均する。そう、あの「群衆の知恵」効果である。

例えば、「群衆の知恵」もそのひとつ

ここで重視すべき点は三つある。判断を下す人が専門的な訓練を受けていること、知的水準が高いこと、正しい認知方法を身につけていることだ。こうした人材が判断するなら、ノイズもバイアスも減る。言い換えれば、よい判断というものは、何を知っているか、知識をどう活用するか、どのように考えるかに大きく左右される。すぐれた判断者は、経験豊富で賢明であると同時に、さまざまな視点を積極的に取り入れ、新たな情報から学ぶ姿勢を備えている。

おそらく求めるべき人材は、自分の最初の考えに反するような情報も積極的に探し、そうした情報を冷静に分析し自分自身の見方と客観的に比較考量して、当初の判断を変えることを厭わない人、いやむしろ、すすんで変えようとする人である。

超予測者を超予測者たらしめているのは、備わっている能力や気質ではなく、予測に臨むやり方である。精力的な調査、注意深い思考、自分の当初の予測に対する批判的検証、他の情報や判断の収集と比較考量、絶え間ないアップデートが超予測者の特徴だ」。彼らは「試す、失敗する、分析する、修正する、また試す」という思考サイクルが大好きなのである( 19)。

よい判断者、超予測者の特徴はこの辺り

アプガースコアは、ガイドラインがいかに有効か、なぜノイズを減らせるのかを示す代表例と言える。ルールやアルゴリズムとは異なり、ガイドラインは判断の必要性を排除しない。したがって最終判断は純粋な計算結果として導き出せるわけではない。だから項目ごとにばらつきが出る可能性はあり、したがって最終判断が一致しない可能性もある。それでもガイドラインによってノイズを削減できるのは、複雑な判断をあらかじめこまかく定義された判断しやすい要素に分解してあるからだ。

ガイドラインも有効な方法のひとつ

グーグルの場合で言えば、媒介評価項目が四つ設定されている。認知能力、リーダーシップ、文化的な適性(つまり「グーグルらしさ」)、職務関連知識である(これらの項目のいくつかはさらに細分化されている)。候補者の容姿はもちろんのこと、話術や趣味やその他良きにつけ悪しきにつけ面接官が注意を奪われがちな他の要素は、構造化面接の評価項目にいっさい含まれていないことに注意されたい。

それでも、一つ確実なことがある。それは、構造化面接は従来の非構造化面接に比べ、将来の実績との相関性がずっと高いことだ。相関係数は〇・四四~〇・五七、PCで言えば六五~六九%である( 17)。つまり、よい人材を選べる確率が七割近い。これは、非構造化面接の五六~六一%と比べると顕著な改善と言ってよい。

面接や評価でできることのヒントもたくさんある

2021振り返り+本ベスト5

↑オスロ(ノルウェイ)の海上サウナ。この後我々もダイブしました

2022年、あけましておめでとうございます!

2021年は「足るを知る」をテーマにしていました。

「足るを知る」は老子の言葉で、「身分相応に満足せよ」という意味とも言われますが、僕は、前後の文脈から、もっと積極的に「満足することを知れば、周囲への感謝と共に、本来の自分を知り受け入れることができる。そうすればやりたいことへの努力を続けながら自らに打ち勝ち、豊かな人生を送ることができる」というような解釈をしています。

様々なことがありましたが、今までやってきたことを前進させると同時に、新しいことへのチャレンジもできた素晴らしい一年だったと思います。そのこと自体が本当に運がよく、周りに助けられた奇跡だなと、満足と感謝をしています。私に関わっていただいた方、ありがとうございました。

メルカリとしては、コロナ影響の2年目ということで、YoY(年間成長率)で見ると、厳しい局面もあったものの、プロダクトとしても組織としても着実に成長した一年でした。特にメルカリShops(ソウゾウ)、メルコイン、メルロジ、メルワーク、パ・リーグ Exciting Moments β(パ・リーグさん競業NFT)のような会社やプロダクトを仕込めたのはすごくよかったなと思います。新しい人事制度やD&I Counsil、ニューノーマルワークスタイル「YOUR CHOICE」、ESG委員会などを導入することで会社を大きくアップデートできましたし、テックカンパニーとしてもデータ基盤が整ってきたことでAIプロダクト化も進みました。

ただやることが増えたこともあり、Codecovによる個人情報流出事案のような問題にも繋がったこともありました。ご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした。身の丈を知り、守りと攻めのバランスを取る必要性も痛感し、対応を進めています。

引き続き、海外展開も含めてチャンスは非常にたくさんあるので、短期的な利益ではなく中長期的な将来利益最大化を目指して守りにも攻めにもどんどん投資していきたいと思います。

メルカリ以外では、山田進太郎D&I財団を開始したのが大きかったです。非営利団体という営利企業とは違うロジックで動く組織を作り、一方でインターネット企業で培ったオンラインを最大限活用し、エンジニアリング的思考でアジャイルに経営していくスタイルをどう非営利の世界で活かせるのか、ということを試行錯誤しています。まだ始めたばかりで、分からないことだらけですが、多くのひとの助けていただきながら、中長期で取り組みインパクトを出していきたいと思います。

2021年は、コロナになってからはじめて海外に行きました。様々なひとと話したり、新しい都市を見て廻るだけで、大きな刺激を受けましたし、新しい体験からたくさんの発想も得られて、自分にとって「旅」は本当に大切なものなのだと改めて認識できました。期せずしてオミクロンの感染拡大もあり、予定も変わり、6日間のホテル隔離などの苦しい体験もしましたが、それでもこれからももっと海外に行くべきだと決意しています。

プライベートでは、コロナ後の不摂生な生活を改め、筋トレをして基礎代謝をあげ、自分にあった食事を見つけて無理なく減量をすることで、LDLコレステロールや内臓脂肪などの数字が劇的に改善しました。健康になったことで、集中力も増し、仕事の質は高まっていると感じています。ここはサウナの趣味化も影響していると信じてます(ここは正当化したいとこ笑)。

2022年のテーマは「やりたいことをやる」にしようと思います。今年私は45歳になりアラフィフになります。年齢はそんなに気にしていませんし、「ライフスパン」であったように老化の研究が進み寿命は劇的に伸びる可能性もありますが、それでも健康である時期がどのくらいあるか、その間に何をやりたいのか、を真剣に考える年頃になったのかなと思ってます。自分にとって大切なことは何なのか、家族や友達とも一緒に考えて、やりたいことは先送りせずに今年中にやれるだけやろうと思います。

引き続き、2022年もよろしくお願いいたします!

以下で、恒例の2021年に読んだ本ベスト5を紹介します。今年はあまり本を読めなかった印象があり、エントリも少なめでした。しかし生活や考え方を変えたなと思う本もいくつもあり、今年はもっと読もうと思います。

第5位 大成功事例としての「インスタグラム:野望の果ての真実」

FacebookのInstagram買収は大成功事例ですが、中ではいろいろな葛藤が合ったことが赤裸々に描かれています。個人的にも売却する側、買収する側、様々経験していますが、身につまされる話も多く非常に勉強になりました。

第4位 知らないことばかりの「睡眠こそ最強の解決策である」

新しい記憶を脳に刻みつけるうえで、深い睡眠が重要な役割を果たすということは、この実験を始める前からすでに解明されていた。そこで私たちは、この事実を踏まえたうえで、高齢者の脳の研究にひねりを加えることにした。  就寝する数時間前に、被験者の高齢者のすべてがいくつかの新しい情報を学習し、その直後でテストを受け、どれぐらいの新情報が定着したかを判定する。その日の睡眠の脳波をとり、そして翌朝、また前の晩と同じテストを受ける。2度目のテストで判定するのは、睡眠中にどれだけの新情報を維持できたかということだ。  テストの結果、高齢者は若い人に比べると、睡眠中に維持できる新情報の量がかなり少ないことがわかった。その開きは 50%にもなる。それに加えて、 高齢者は深い眠りが少なくなるほど、寝ている間に失われる記憶も増える ということもわかった。高齢になって眠りが浅くなり、物忘れが激しくなるのは、無関係な現象ではなかったということだ。

歳を取ると健康に関心が出てきますね。。睡眠について分かっていることが様々な研究結果とともに解説されています。知ることでより良質な睡眠をとる重要性も分かりましたし、本書によって生活スタイルもいろいろ変わったという意味で、影響が非常に大きかった一冊です。

第3位 老化を病気と考える「ライフスパン」

結局、カロリー制限の効果を雄弁に物語る結果が得られる。被験者の体に認められた変化が、カロリー制限で長生きさせたマウスのものと酷似していたのだ。具体的には、体重が減る( 15 ~ 20%)、血圧が下がる( 25%)、血糖値が低下する( 21%)、コレステロール値が減少する( 30%)などである

現在の「老化」に対してどういった研究が行われていて、どのような可能性があるのかを書いています。今後、健康寿命が飛躍的に伸びる可能性は高く非常に希望が持てました。とりあえず節食は基本中の基本なので、今年も続けていきたいと思います。

第2位 ビル・ゲイツの取り組み「地球の未来のため僕が決断したこと」

ビル・ゲイツがカーボンゼロへの見方と彼らが財団などを通じて行っていることを噛み砕いて書いています。全体感を把握するには非常によいのと、あくまでイノベーションに投資をするという非営利団体のスタイルには大変感銘を受けました。

第1位 リベラルへの痛烈批判「実力も運のうち 能力主義は正義か?」

一見すると、経済的成功をめぐるロールズの非能力主義的な考え方は、成功者には謙虚さを、恵まれない人びとには慰めをもたらすはずだ。それはエリートにありがちな能力主義的おごりを抑制し、権力や資産を持たない人たちが自尊心を保てるようにするに違いない。私が、自分の成功は自分の手柄ではなく幸運のおかげだと本気で信じていれば、この幸運をほかの人たちと分かち合う義務があると感じる可能性が高いだろう。  こんにち、こうした感情は不足している。成功者の謙虚さは、現代の社会・経済生活において目立つ特徴ではない。ポピュリストの反発を誘発した要因の一つは、労働者のあいだにエリートに見下されているという感覚が広がっていることだ。それが事実であるかぎり、現代の社会保障制度が、正義にかなう社会というロールズの理念に達していないことを示すものだろう。あるいは、平等主義リベラリズムは結局のところ、エリートの自己満足をとがめていないことを示唆しているのかもしれない。

NHK『ハーバード白熱教室』などのマイケル・サンデルが、能力主義の弊害を説き、道徳の重要性を説いています。個人的には道徳でどうにかなるかは分かりませんでしたが、能力主義といういま当たり前の価値観を揺さぶられ、現代の社会の分断を見るにつけ、新しい価値観が必要とされているのだと気づけました。

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