芸術起業論

芸術起業論
村上 隆
幻冬舎
¥ 1,680


「スーパーフラット」やルイ・ヴィトンとのコラボなどで知られる芸術家の村上隆氏がどのように芸術や芸術家というものを考え、どのような作品をどのような考えで作ってきたのかなどを書いた本。

村上氏のことはあまり知らなかったので、正直ものすごい人がいたものだとクラクラしました。本人は自分は凡人であると言っていますが、芸術家になるための戦略への確信犯ぶりは並大抵の人物ではありません。

書かれている内容は平易なのですが、核心をついているものが多くて、ほぼ毎ページのようにしおりを付けてました。抜粋はあまりにも長くなってしまったのですが、あえて掲載します。

本書から得られる知見はあまりにも多いのですが、僕が個人的にまず考えたことを書きます。

村上氏は日本では敗残者でしたが、アメリカで成功しました。それは日本の「かわいい」や「オタク」的なものを、自覚的に「初めて」欧米芸術へ持ち込んだことが勝因であったと書かれています。

僕は、4年前にシリコンバレーから帰ってきて、日本人としてネットサービスを作って世界中で使ってもらうことを目標にしています。アメリカにいる時に考えたことは、「ここで3〜5年くらいベンチャーに潜り込んでやれば英語も能力もなんとかなるだろう、しかし日本人的なものを捨ててアメリカ人として勝負しなければならない」ということでした。また「日本でやる方が人脈も行かせるし、会社をやるための仲間も十分いる、日本から海外に持っていけばいいではないか」ということがあって帰国して会社をやっています。もちろん今のところまったく海外で足がかりを作れていないのは誤算ではありますが、そこは過信もあったでしょう。

しかし、重要なのは「日本人的なもの」だったのではないかとふと気づいたのです。

村上氏は次のように書いています。「変幻自在の発想力は日本人には吸っては吐くようなものだから、自分たちではその芸術的価値をまだ理解していないようにも思えるのです。ぼくたち日本人は自分たちの作り出したキャラクターを過小評価しているのかもしれません」。この話はキャラクターについてですが、基本的に文化的なものすべてに言えると思います。

本書から、僕はなぜ「日本人的なものを捨てて」と考えたかというと、まだ僕には自分の中で「日本人的なもの」が確立していなかったからではないか、と思いました。だからこそ、「捨て」ないと勝負できないと考えたし、そしてさらに「重要なのは」僕はそれを捨てたくないと思ったことです。

僕がもし大学生なら躊躇なくアメリカに住み続けたと思います。しかし、すでに日本人であった自分にはアメリカで何かをやるのであれば、自分のルーツである「日本人であること」を世界に組み込むことを考えたいと思いました。日本が好きだし、日本人であることを誇りに思っているから。でも、そのためには日本のことを知らなすぎたし力不足だった。だから、日本に戻ってきたのだと思います。

村上氏は30代半ばまでコンビニで弁当を分けてもらうほど困窮していたと言います。しかし、それからアメリカに渡り、欧米人に日本人の芸術を認めさせることに成功しました。しかし、それは長い長い日本での芸術活動があってこそ成功したのだと思います。

僕も今、いろいろなものを通じて日本的な素晴らしいものに触れて、日本人的な視点からネットサービスを作っているつもりです。その試みは成功するかどうかは分かりません(今まで失敗してきたわけですし)。もちろん作っているときは楽しいのですが、結果が出ないととても苦しいし、このまま自分の才能が枯渇してしまう「恐怖」を感じないときはありません。

村上氏はこうも書いています。「手塚治虫さんは、きっと「何か」を見たんだと思います。歴史に名が残るかどうかよりも、その「何か」が見えたかどうかが気になるのですね。僕はその「何か」を見たいと願い続けてきました。そのためならぼくは、地獄を見てもいいと思いました」。

僕も、光を見るためなら、地獄を見てもいいと思っています。

<抜粋>
・欧米では芸術にいわゆる日本的な、曖昧な「色がきれい・・・」的な感動は求められていません。知的な「しかけ」や「ゲーム」を楽しむというのが、芸術に対する基本的な姿勢なのです。
・芸術家とは、昔からパトロンなしでは生きられない弱い存在です。冒険家と変わりません。コロンブスは夢を語りましたが、命を賭けなければならない社会的弱者でもありました。ただし、コロンブスの名前が残ったように、芸術家の名が権威になることも起こりうるのですが、それはずっと先のことです。コロンブスがパトロンを見つけて航海に出たように、まずは弱者として生き抜かなければなりません。
・西洋社会と日本社会では大金持ちの桁が違います。(中略)栄耀栄華を極めた経営者には、ほとんどの問題はお金で解決できるものなのでしょう。人の感情もわかったような気になる・・・そんな時にこそ人間は芸術が気になるようです。なぜならば「人」こそ、そしてその「心」の内実こそ、蜃気楼のように手に入れたと思った途端逃げてゆくものだ、ということを彼らは知っているからです。
・日本の美術教育はデッサンに異様に執着することもあって、現代の日本人は総じて絵がうまくなっています。つまり、日本の頼るべき資産は技術で、欧米の頼るべき資産はアイデアなのです。
・なぜ、芸術作品には高い値段がつくのでしょうか。なぜ、芸術家は尊敬されるのでしょうか。理由は簡単です。すばらしい芸術はジャンルを超えて思想にも革命を起こすからです。(中略)歴史に残るのは、革命を起こした作品だけです。アレンジメントでは生き残ることができません。
・美術の世界の価値は、「その作品から、歴史が展開するかどうか」で決まります。
・天才が空白状態の中で作るものは歴史をガラリと変える可能性もあるのですけれども、水準が高すぎたり時代の先に行きすたりしているために、リアルタイムでは正当な評価を受けられないかもしれないのです。
・しかけのある作品でないとなかなか認められないという美術界の構造はおそらく天才でない大半の芸術家のために生まれたのだと思います。歴史や民俗を取りこんだ作品制作はあざといことでしょうが、凡人には必要な試行の過程なのです。
・株式市場と同じです。時代の価値と気分が市場という総体を形成するように芸術の世界も気分は重要です。作品制作の傍らで時代のリアリティを検索し続けることも大事ですね。つまり・・・生き残るのだ、という情熱が不可欠なのです。
・他のことでは絶対に得られない「コイツが欲しかったんだな」という一発があるから、つらくても、ついつい、作品制作に向かってしまうのです。「掴めたな!」という快感を知ってしまえば、たぶん、際限なく、そこに向かいたくなってしまいます。
・賢く得意技を権威づけていかなければ、知らないうちにアメリカがオタク文化の権威になってしまい、搾取されて何も残らないということも起こりかねません。今の日本の知的芸術的資源は「かわいい」と「オタク」なのですから、そのへんを更に発展させていかなければなりません。
・あるアニメ雑誌の編集長は「アニメに批評はいらない。視聴者の夢を壊しちゃう」と言いますが、正当な権威や評価が生まれないままではいつかアメリカのルールに搦め捕られてしまうでしょう。
・日本人は本質的に絵を見たり描いたりするのがとても好きなのです。
・変幻自在の発想力は日本人には吸っては吐くようなものだから、自分たちではその芸術的価値をまだ理解していないようにも思えるのです。ぼくたち日本人は自分たちの作り出したキャラクターを過小評価しているのかもしれません。
・作品には、一人の人生の考えのほとんどを封じこまることができます。その意味では作品は未来に託す最高のタイムカプセルでしょう。ある世界観の重要性を主張し続けられる媒体なのですね。人は死ぬ。ものはなくなる。しかし作品は生き残るかもしれません。人類の考えの痕跡を残すものが表現です。
・本人が死んだなら、残された人たちは個人の歴史を自由自在に操ることができます。そういう意味でゴッホは自由度が高かった・・・あれほどのゴッホ神話ができあがった原因はそこにあるのではなかと僕は思うんです。
・芸術の世界では、そんな死後の世界の価値を作りあげることこそが、かなり重要視されているのです。芸術家は自由な存在と思われがちですがそれは錯覚です。芸術家の自由はほとんど死後に限定されています。
・手塚治虫さんは、きっと「何か」を見たんだと思います。歴史に名が残るかどうかよりも、その「何か」が見えたかどうかが気になるのですね。僕はその「何か」を見たいと願い続けてきました。そのためならぼくは、地獄を見てもいいと思いました。
・「村上さんは私がこの会社に入った時に言っていたことをもうすべて達成してますよ。あとは計画していた美術館設立に向けて、ゆっくりやっていけばいいじゃないですか」違うんです。足りません。村上隆って、客観的に見るとどれだけ不充分なのか、ぼくには分かる。
・ぎゅうぎゅうにしめあげていると、しめあげているだけあって、やっぱり最低でも一回は、光が見えるかのような瞬間がやってきます。これは経験上だいたいの人がそうです。死ぬまで光が見えないよりは、苦しくてもつらくてもたまらなくても光を見た方が絶対にいいのだとぼくは思います。
・人間は滅びます。世界のすべては変化し続けます。予期せぬことも起こります。芸術はそんな不測の事態を一瞬で理解させられる媒体で、生きる意味を考えさせてくれます。芸術とは命の伝達媒体ですから時代を超えて人々に受け継がれてゆくものです。
・今は、日本から世界に飛び出すチャンスだと思います。本当に、何をしても、成功するのではないでしょうか。日本も戦後60年の「敗戦文化」みたいなものが身にしみているので、敗戦文化独特の強みが出てきているし、文化は重層化しているし・・・。
・日本の文化をそのまま持っていっても評価される時代がすでに来ているということだと思います。そのために必要なものは何か? もちろんそれは、世界に持っていくというガッツです。
・私は芸術を生業とすることに誇りを感じており、後ろめたさ等、万分の一もなく、そしてその「マネー」=「金」こそが人間が超人として乗りこえるべき時にでも、へばりつく最後の業でもある、だから、故に、この業を克服していく方法こそが真の、現代において練りあげられるべき「芸術」の本体であると思っているのです。

村上隆 - Wikipedia
・SUPERFLAT MONOGRAMールイ・ヴィトンの店頭プロモーション用短編アニメーション、素晴らしい、僕の村上隆のイメージはこれです

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